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2024.11.01
インタビュー | 石川 雅文×坂本 一樹 ×村上 健太
【後編】家族の関係性を育む、すこし未来のリビングとは― 「NRUX」が引き寄せる人間らしい共感と体験
2024年9月、東京・池尻大橋にある複合施設「大橋会館」のCEKAI O!K STORE&SPACEで、パナソニックによる次世代インターフェイス研究プロジェクト「NRUX(エヌアールユーエックス)」の展示「NRUX Prototypes『家族の関係性を育む、すこし未来のリビングとは─』」が開催された。
これまでも、大橋会館に拠点を置き「日常のインタラクションから情緒的な価値を引き出し、本来私たちが持つ人間らしい感性をもっと引き出す。」をミッションに、プロトタイプの開発と実証実験を繰り返してきたNRUXメンバー。 「関係性を育むユーザー体験(Nurturing Relations UX)」というネーミングにも込められた、NRUXビジョンとの全体像とはどのようなものか。
前編に続いて話を聞くのは、プロジェクトメンバーの石川 雅文氏、坂本 一樹氏、村上 健太氏の3名。後編では、NRUXのメンバーに、本展示にとどまらないNRUXが目指すビジョンやクリエイティブについてインタビュー。未来の共創パートナーへの想いも語られた。
左から、パナソニック「NRUX」プロジェクトチームの坂本 一樹氏、村上 健太氏、石川 雅文氏。
それぞれの探索手法とは? 「NRUX」5人のメンバーが担う役割
―パナソニックホールディングスの中で、既存事業の外側で新しい価値を見つけ出していく“探索部隊”という位置付けで活動している「NRUX」。現在は5人のメンバーでチームが構成されているそうですが、改めてみなさんのバックグラウンドと役割を教えてください。
石川
僕は元々インダストリアル(工業)デザインが専門で、プロトタイピングを得意としてきました。NRUXでは新しい価値を作るための体験設計を行うなど、少しずつ領域を広げています。また、今回の展示ではパートナーであるクリエイティブチーム・Konelと一緒にアイデア出しを行い、プロトタイプの形や中の構造を考え、展示の方法まで検討していきました。
石川 雅文 氏。2018年 パナソニック(株)にキャリア入社。現在、パナソニックホールディングス(株)技術部門 DX・CPS本部所属。くらしに関わるハードウェアやUIのデザインをバックグラウンドに、近年はクリエイティブ領域以外にもフィールドを広げ、人と人との関係性に着目した新しい価値作りに奔走している。
村上
私はこれまでロボティクスや人間工学領域を中心に、エンジニアとして活動してきました。人とロボットのインタラクションやIoTに関心があり、人をアシストするロボット作りの経験から、新しいインターフェースやインタラクションを通じていかに人の行動変容を促すか、そして人の感性を変えていくにはどうしたらいいかということに取り組んできました。NRUXでの役割は大きく2つあり、1つはNRUXのコンセプト設計やデザイン原則の検討と構造化を担当しています。もう1つはエンジニアリングで、今回の展示ではやKonelと一緒にプロトタイピングのメンバーとして、のれんが動くシステムや巣箱に向かって鳥が飛んでいく体験システムなど、実装の部分を担当しました。
坂本
私は元々洗濯機の制御ソフトのエンジニアをしており、洗濯機のIoT化した際に人と家電との繋がりをどう作っていくかの開発に携わった経験を活かして、既存事業を軸とした新規事業の企画に取り組んでいました。NRUXでは、これまでの活動をベースにどう事業に展開していくかという事業構想を担当しています。今回の展示では、展示会開催前の情報発信や当日の来場された方とのコミュニケーション施策の企画を担当しました。
坂本 一樹 氏。2012年パナソニック(株)入社。エンジニアとして、洗濯機の制御ソフト開発、洗濯機/専用アプリのUI設計を担当。近年は、BizDevとして、IoTデータビジネスやリカーリングビジネスの企画経験をバックグラウンドにパナソニックホールディングス(株)技術部門 DX・CPS本部にて次世代インターフェースの研究開発に従事。
石川
また、僕ら以外の2名を紹介すると、元々映像やグラフィックデザイン、ビジネスコンサルティングのバックグラウンドを持つ今尾充博さんがNRUXのプロジェクトリーダーを務め、ビジョンのコアを考えながらデザイン・ビジネスの両軸を推進しています。また、パナソニックの国際マーケティングを担当してきた森下浩充さんが、NRUXのマーケティングを担当してくれています。
機能的なインタラクションにまみれたくらしをどう変えていくか。「NRUX」のビジョン
―「NRUX」のチームとプロジェクトは、どのような目的で生まれたのでしょうか?
村上
元々パナソニック自体が物も心も豊かな社会の実現を目指している会社であり、我々もプロジェクトが始まる以前から、心が豊かになるためには人と人が関わる際の「関係性のウェルビーイング」が大切だと考えて活動をしてきました。そして、他者との関係性を良くするためには、まずは自分のことを大切にし、自分らしさを理解することが重要で、その上で相手のことを思いやる姿勢や感謝につながっていくのでないか。社会に対してそのような問いかけをしていくためにNRUXは生まれました。
―確かに、物は豊かになりましたが、心まで豊かで良い状態になったかというと、そうとも言えません。「NRUX」で取り組み、実装すべきだと考える現代社会のイシューとはどのようなものですか?
村上
私たちは日々たくさんのインタラクションに取り囲まれて暮らしていますが、現代社会ではそのほとんどが機能的なインタラクションにまみれています。それを「アイゼンハワー・マトリクス」に当てはめると、多くの人が「緊急度と重要度が高いこと」、「重要度が低くても緊急度が高いこと」を優先して取り組んでしまうという問題が起きていると思います。そのような状態では、関係性を育むことやウェルビーイングな状態にはなりにくい。それよりも、「緊急度が低くても重要度が高いこと」にもっと向き合える状態をいかに生み出せるか、いかに体験できる形で実装するか。この観点を特に重視すべきだと考えて挑戦しています。
村上 健太 氏。2014年 パナソニック(株)入社。現在、パナソニックホールディングス(株)技術部門 DX・CPS本部所属 デザインエンジニア。ロボティクス分野におけるヒトのモデル化・評価技術、組込ソフト開発をバックグラウンドに、ヒトの身体/精神両面での拡張体験を創造する。
―パナソニックという企業の中で、「NRUX」はどのような期待を担う存在なのでしょうか?
村上
パナソニックグループでは、2040年の未来社会において、ありたい姿とそこに至る道筋を示した「技術未来ビジョン」を発信しているのですが、そこで実現したい未来として「一人ひとりの選択が自然に思いやりへとつながる社会へ」を掲げています。そのような未来社会の実現のために、パナソニックは3つの目指す姿として「資源価値最大化」「有意義な時間創出」「自分らしさと人との寛容な関係性」を掲げているのですが、我々NRUXは特に3つめの「自分らしさと人との寛容な関係性」にフォーカスを当てて活動をしています。
村上
実際、自分らしさを大切にし、周りの人への思いやりを持つことは非常に難しいと感じつつも、少しでも多くの思いやりが生まれるきっかけや体験をどうすれば提供できるか、日々研究しています。自分も相手も人間である以上、機械とは違って感情があり、多くの矛盾を抱えているのも事実です。だからこそ、関係性においては、機能的な効率化や最適化を目指すのではなく、人間らしさを尊重し、向き合うことで内省できるような情緒的体験の設計が重要だと思います。そして日常のくらしから人間らしさを創出できる社会は、パナソニックグループが目指す未来のど真ん中の位置づけです。世の中に我々が考える思いやりがめぐる考え方を浸透し、社内外パートナーのプロダクト化・サービス化に貢献していきたいと考えています。
石川
今回の展示は、社外の方だけでなく多くの社内の方々にも我々の取り組みを知っていただけました。社内でまったく別の事業を担当している方にも「興味がある」と声をかけていただくこともあり、実際にいち個人として共感いただけているのだと実感しています。
2024/09/20〜9/23に、展示「NRUX Prototypes 家族の関係性を育む、すこし未来のリビングとは」を開催。「記憶する照明」「こだまする巣箱」「繋がるのれん」の3つのプロトタイプを発表した。
求む、コラボレーションパートナー。「NRUX」が目指すこれからのアプローチ
―「NRUX」では、どのようなテックやクリエイティブアプローチに注力していますか?
村上
我々はアンビエントインターフェースというテクノロジーを用いて、人の感性への働きかけを考えていくというクリエイティブアプローチをとってきたので、これは引き続きやっていきたいです。また、学問としてヒューマンコンピュータインタラクションの分野を手がけているのですが、生成AIやロボティクスのようなテクノロジーを使う場合も、効率化や最適化を追求するだけではなく、人間がより人間らしくなることにこだわって体験を作っていきたいです。
坂本
NRUXに関連するナレッジを高めていく為には、皆さんからフィードバックをいただきながらアップデートをしていく必要もありますから、今回のような展示会やリビングラボの活動も引き続きやっていきたいですね。そして、我々のプロジェクトを加速させる為に、共創パートナーの存在が必要不可欠。今回のKonelとのコラボレーションもそうですし、我々の取り組みに共感していただいた社内外の方々と一緒に取り組んでいくことにも力を入れていきたいです。
―今後はどのようなコラボレーションパートナーを求め、どのような課題に取り組んでいきたいと考えていますか? それぞれの役割の視点から、チャレンジしたいことや拡張したい領域を教えてください。
石川
今回の展示では、あくまでNRUXの抽象的な概念を初見の人でもわかるように、プロトタイプを作りました。ですから、展示されているプロトタイプをそのまま商品化するパートナーを求めているわけではありません。それよりも、NRUXのビジョンに共感していただき、「こういうものが今の社会に足りてないよね」とエッセンスを抽出し、社会に届けていく方法を一緒に考えようとしてくださる方々が、僕たちが最も必要としているコラボレーションパートナーだと言えます。実際に今回の展示で、我々のビジョンに共感してくださる人や企業がかなりいらっしゃることがわかったので、そういう方々と一緒に実験をしたり、プロトタイプを作ったり、NRUXの要素を取り入れた既存商品を考案したり、さらには新規事業をゼロから作れる仲間作りを社内外で進めていけたらと思っています。
村上
体験のベースとなるNRUXのデザイン原則を策定するために、我々が取り組んできたヒューマンコンピュータインタラクションとは異なる分野の専門家にインタビューをさせていただきました。けれども、まだまだ知見が足りないと思っています。社会学や心理学、文化人類学など、世間一般では文系と呼ばれる分野の方々ともコラボレーションし、考え方をアップデートしていくことも進めていきたいです。また、エンジニア的な視点から言えば、バックエンドを支えるテクノロジーを一緒に作っていける仲間も見つけていきたいですね。我々は体験や価値を見つけるというアプローチをしているので、特に技術はあるけれど、それをどう使っていくべきか迷われている方、そして効率化や最適化を追求するのではなく、人の感性を刺激したり創造性を高めたりしていけるようなものづくりの活動に力を入れていきたい社内外の方々と一緒に考えていきたいです。
坂本
これまでの活動は、いくつもの点を作っていく活動でした。これからはその点と点を繋げ、線にアップデートする活動をしていかなければなりません。そのためには、ユーザーの方々もパートナーだと捉え、繋がりを構築していくことも必要不可欠だと思っています。今後は、展示やリビングラボを体験していただいた方に継続的にフィードバックをいただけるような仕組みや、コミュニティを育てていく方法も考えていきたいですね。
TEXT:Eri Ujita/PHOTO:Yusuke Maekawa
【展示情報】
NRUX Prototypes 家族の関係性を育む、すこし未来のリビングとは
ふだんの会話や行動では見過ごしてしまう小さな日常を、さりげなく共有できたなら。 家族はより良い関係性を育めるのではないだろうか。 本展示に並ぶのは、“くらしにおける人間らしさを創出する” NRUXの思想のもと、 家族間の新しいつながり方に着目して生まれたプロトタイプたちです。お互いの生活時間や住んでいる場所、形式にとらわれることなく、 家族みんなの記憶や気持ちが、ゆるやかに集う。 さあ、あなたも。すこし未来のリビングをのぞいてみましょう。(入場無料/予約不要)【日時】 2024/09/20(金)- 23(月) 11:00~19:00
【場所】 CEKAI O!K STORE&SPACE(大橋会館1F) 東京都目黒区東山3 丁目7-11 (池尻大橋駅東出口から徒歩約3分)(Google Map)■パナソニックホールディングス株式会社 研究プロジェクト “NRUX( Nurturing Relations UX:関係性を育むユーザー体験)https://laboratory.jpn.panasonic.com/project/delta-pj/
■展示会に関するお問い合わせ先 nrux@ml.jp.panasonic.com