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2024.11.13

レポート

【前編】知財ハンターが心掴まれた、既成概念を超える新たな転換―【DESIGNART TOKYO 2024】レポート

AAAQ, ソニーグループ 株式会社, Takram Japan 株式会社

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東京の100以上の会場が舞台となったデザイン&アートの祭典「DESIGNART TOKYO 2024」。10月18日から27日にかけて、多様なクリエイティブ作品が公開され、都市の日常に彩りを添えました。来場者は街歩きをしながら、デザインやアート、インテリア、テクノロジーなど、幅広い分野の革新的な展示を体験できる機会となりました。

2024年のテーマである「Reframing 〜転換のはじまり〜」のもと、多様な分野のクリエイターたちが、既存の枠組みを超えた斬新な発想で作品を展開しました。本記事では、20箇所以上の会場を回った知財図鑑の取材ライターが、前後編に分けて新たな価値観を提示する展示を厳選してレポートします。

前編のテーマは、「感性の応用」。光や色彩、運動や触覚、抽象と具体といった人間の感性を活用する展示物を5つ紹介しています。AIやロボット全盛の現代だからこそ、人間特有の感性の魅力、そこから生まれる新たな創造性は、示唆に富むものばかりです。

(取材・文・撮影:杉浦万丈)

▶︎【DESIGNART TOKYO 2024】レポート(後編)はこちら

AAAQ「Visible Stress」

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Visible Stress」は、光弾性と真空成形技術を融合させ、内部応力を美しい色彩パターンとして可視化する新しい表現方法。

「光弾性(photoelasticity)」とは、透明なプラスチックやガラスに外力を加えると、ひずみに応じて光の屈折が変化し、物体内の力の分布や強さを色彩パターンとして視覚的に確認できる現象です。昔から応力解析の手法として利用されてきました。

「真空成形」とは、プラスチックシートを熱で柔らかくして型に押し付け、真空で吸引することで立体的な形状を作り出す技術です。この手法は、コンビニのお弁当の蓋や食品トレー、卵のパックなど、日常的な製品に使用されてきました。

これら昔から利用されてきた技術を掛け合わせることで、新たな表現が生み出されました。真空成形で作り出した立体的な造形を偏光板で挟んで光越しに見ることによって、光弾性の現象で美しく色づいた光のテクスチャを鮮やかに映し出すことが可能になったのです。

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手掛けたのは、クリエイティブユニットの「AAAQ」。30歳以下の注目のクリエイター「U30(アンダー30)」として、「DESIGNART TOKYO」発起人により選出されました。「AAAQ」は、"Answer(答え)を作って作って作って、新しいQuestion(問い)を生む"という理念のもと活動しています。

今回、株式会社ラヤマパックに協力を依頼し、3Dプリンタで作成した型などを使い、シートのサイズや厚み、熱の加え方を実験的に検証したそうです。興味深いのは、日々の気温の変化や成形時間によって、できあがる模様に違いが現れる点です。

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上記の作品は、全体的に同じような立体のパターンが連続していますが、位置によって熱のかかる時間が異なるため、色彩に変化が見られます。特に、右上と左下の模様を見るとわかります。

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これは、光を回転させることで、色彩のパターンを変える作品です。

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真空成形による立体感のある造形によって、光の色彩の多様なパターンを見ることができ、鑑賞していて飽きが来ないです。

AAAQの取り組みは、真空成形という工業技術をアート表現に昇華し、年々衰退しつつある真空成形の産業に新たな可能性を見出しました。展示を見た来場者からは、「これは他の用途でも応用できるのでは?」といった声も上がり、新たな問いが生まれました。

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AAAQが「答え」を作り出し、それを見にきた人々から新しい「問い」が生まれる、まさに彼らの理念を体現した展示と言えるでしょう。

SONYクリエティブセンター「Create More Fun」

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「Create More Fun」は、デザインの基礎であるCMF(Color, Material, Finish:色、素材、仕上げ)を、フィジカルとデジタルの両面から探究することで、新たなクリエイティブを生み出す体験型展示。

Sonyのデザインとブランディングを担うクリエイティブセンターは、CMFを含むトレンド分析とフィールドリサーチを継続的に行ってきました。その結果から将来のトレンドを予見し、さまざまなデザインの要素をクラスターごとにまとめた「CMFフレームワーク」を新たに制作しました。

展示では、8つのCMFクラスターを、実際に触って楽しめる素材と合わせて紹介しています。

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どのクラスター、どのユニットもCMF(色、素材、仕上げ)が異なり、他のクラスターにあるユニットと組み合わせたりしながら、まるで遊んでいるかのように新たなデザインを創り出すことができます。

興味深いのは、“テーマ”ではなく、“クラスター”という発想です。テーマが決められると、テーマに即したデザインしか作れません。クラスターとは、あくまでリサーチの結果で集められた集団であり、デザイナーはクラスターの間を超えてさまざまな要素を組み合わせることができます。テーマの手前で8つのクラスターを組み合わせて遊びながら、偶発的にクリエイティブを生み出すという発想に驚かされました。

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会場にはデジタルの体験も用意され、感覚的にCMFの要素を組みわせると、目の前のスクリーンではバーチャル上の部屋の造形が変化し、独自のルームデザインを作ることができました。子供たちも楽しく体験しながらデザインしていました。

デザインに柔軟性と遊び心を持たせることで、新たな創造性を引き出す試みは非常に魅力的でした。

Takram「Takramのプロダクトデザインとその裏側」

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「Takramのプロダクトデザインとその裏側」は、世界中で数多くのプロジェクトを手掛けてきたTakramが、プロダクトデザインに焦点を当て、完成品に限らず、デザインプロセスの詳細も含めて公開した展示。実際の開発資料、製品化に至らなかった試作品や、デザイナーの試行錯誤の跡が残る検討資料を見ることができます。

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展示空間は、抽象から具象へという独自の構成を採用。テーブルの低層部には企画段階での抽象的なアイデアや概念を、高層部にはプロトタイプや完成品という具体的な成果物を配置しています。来場者は、製品開発の流れを立体的に体験できます。

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コクヨ株式会社のはさみ「HASA」や、カリモク家具とGROOVE Xとがコラボレーションした「ロボットのための木製椅子のデザイン」を含む6つのプロジェクトが展示されていました。「HASA」では、ブランドコンセプトの構築から、使いやすさを追求したグリップ形状の設計まで、詳細なプロセスが展示されていました。

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「ロボットのための木製椅子のデザイン」では、家族型ロボット「LOVOT」の体型に沿った、包み込むような柔らかな形状の椅子が展示されています。リラックスできるような手すりや背もたれ、排熱を妨げないしっぽの穴など、LOVOTの体に配慮した設計を考案するまでのプロセスが展示されていました。

プロダクトデザイナーはもちろん、デザインプロセスに関心を持つ多くの人々にとって、示唆に富む展示となっています。

大地漠「夜白 煙とたゆたう夜という時間」

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「夜白 煙とたゆたう夜という時間」は、静かな暗い部屋の中で、白く美しい煙を眺める空間芸術。刻々と変化しながら、ただよう香煙をぼんやり眺める芸術体験を、「煙道」というようです。お香の煙、煙を放出する器、暗闇の空間という三つの要素で成立します。

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今回の展示では、3種類の器から放たれる煙を見ることができました。器ごとで、煙の出方、広がり方、放たれるスピードが異なります。ゆっくりと渦を巻いたり、時折鋭く尖った形を見せ、またふわりと広がっていく、同じ表情を持たない煙の変化を楽しむことができました。

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夜に時間があれば、SNSや動画を見るなどして時間を潰す人が多いと思います。暗闇に浸りながら、無心に煙の動きに身を任せる煙道の時間は、心の平静と安らぎ、自身の内なる意識に集中する瞑想のような時間をくれます。自分を大事にしながら、夜に思いを馳せるような時間が、日々の暮らしにも必要だと気付かされました。

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絶えず移ろい、自然な空気の流れと和合する煙道は、落ち着きと儚さを持った日本の美だと感じます。暗闇の黒と煙の白というシンプルな対比のなか、気流に合わせて、柔らかく、しなやかに舞う煙の姿に、毎日の慌ただしさで固くなっていた体がほぐれていくように感じました。

多忙な日々を過ごしている方々に、ぜひ一度、煙道を体験していただきたいです。

日の出工芸 「5D WALL 現象の彫刻」

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「5DWALL」は、2Dパネルと3Dオブジェを組み合わせることで生まれた立体的な壁面装飾。今回の展示では、空間デザイナーの吉里謙一が「現象の彫刻」をテーマに新作をデザインしました。

現象の彫刻のテーマは「めくる」と「うめる」です。

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「めくる」は、不燃ボードに切れ目を入れてめくることで、平面的な壁に立体感を与えています。壁の裏面には蛍光板を貼り付け、後ろからライトを当てることで、隙間から光が漏れる設計に。不燃ボードに石膏を用いているので、水を加えると柔らかくなり、ボードをめくることができます。立体的な壁面から光が漏れ出てくる、アトラクティブなデザインになっています。

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「うめる」は、2Dの不燃パネルを3D切削し、真鍮やアクリルをうめることで、発光や重力といった現象を壁面から感じることができる作品です。エースライトという人造木材を用いることで、燃えにくく、軽量で、自由自在なデザインが可能になります。

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裏面から、アクリル板を通して、光や日光を取り入れることができます。動きのない壁面に、光という瞬間的な現象を取り入れることで、表情豊かな壁面へと生まれ変わりました。

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「めくる」と「うめる」の行為だけで、壁が平面であるという固定観念を超え、現象が現れる表情豊かな壁面を生み出しました。シンプルですが、革新的なアイデアに強い魅力を感じました。

まとめ

「DESIGNART TOKYO 2024」は「Reframing 〜転換のはじまり〜」をテーマに掲げ、既成概念や固定観念の枠を超えて、新たな価値観を創造するクリエイターたちの意欲的な挑戦が結実した展示となりました。デザイン、アート、インテリア、テクノロジーの領域を横断する展示の数々は、来場者に「日常を問い直す新たな視点」をもたらしました。

前編で注目したのは「感性の応用」。人間の基本的な感覚に立ち返りながら、それを新たな角度から解釈し直すことで生まれた革新的なプロダクトの数々は、私たちの日常に潜む可能性を鮮やかに描き出します。各作品は、従来の形態や機能の革新にとどまらず、視覚や触覚といった感覚的な次元での深い気づきを促し、観る者の感性に新たな刺激を与えています。

本展は、デザインとアートの可能性を探求しながら、未来の暮らしのあり方を問いかける貴重な機会となりました。来場者一人ひとりに、これからの生活や未来について考えを深めるきっかけを与えるイベントとして、大きな意義を持ったと言えるでしょう。

後編は「持続可能なプロダクトの新たな転換」をテーマに展示を紹介しています。後編はこちら

取材・文・撮影:杉浦万丈

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【後編】知財ハンターが心掴まれた、既成概念を超える新たな転換―【DESIGNART TOKYO 2024】レポート
東京の100以上の会場が舞台となったデザイン&アートの祭典「DESIGNART TOKYO 2024」。10月18日から27日にかけて、多様なクリエイティブ作品が公開され、都市の日常に彩りを添えました。来場者は街歩きをしながら、デザインやアート、インテリア、テクノロジーなど、幅広い分野の革新的な展示を体験できる機会となりました。 2024年のテーマである「Reframing」のもと、多様な分野のクリエイターたちが、既存の枠組みを超えた斬新な発想で作品を展開しました。本記事では、20箇所以上の会場を回った知財図鑑の取材ライターが、前後編に分けて新たな価値観を提示する展示を厳選してレポートします。 後編のテーマは、「持続可能な製品の新たな転換」。SDGsの名のもと、持続可能な物を作ることが現代では求められています。しかし、人間の日々の暮らしを無視して、ただ持続可能なものを作ればいいわけではありません。 この記事で紹介するものは、人々の豊かな暮らし、ウェルビーイングを向上させるような持続可能な製品の新たなアイデアの数々です。生活の中で感じる小さな美や便利さ、心地よさを引き出すような、暮らしの感度の高いクリエティブを紹介します。
2024.11.13

▶︎【DESIGNART TOKYO 2024】レポート(後編)はこちら

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