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2023.06.01

レポート

睡眠に特化した宿泊型ライブイベント「ZZZN(ズズズン)」、観客を“寝落ち”させるためのスリープテック×クリエイティブ

Konel inc., NTT東日本/東日本電信電話 株式会社

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「眠らない国、日本」── 2018年のOECD(経済協力開発機構)の統計によると、日本人の1日の平均睡眠時間は、多くの国が8時間を超えるなか、7時間22分と加盟国33ヵ国中ワースト。世界でも1、2位を争う"眠らない国"になっている。

そんな現状に警鐘を鳴らし、睡眠の重要性を訴え、事業化を進めているのが、東日本電信電話株式会社と株式会社NTT DXパートナー(以下「NTT東日本グループ」)。「睡眠の日」である2023年3月18日から翌19日にかけて、国内初となる睡眠特化型の宿泊ライブイベント“寝落ちするための演奏会”「ZZZN(ズズズン)- LISTEN AND SLEEP -」が、箱根・吉池旅館にて開催された。

通信業会社のNTT東日本グループがなぜ睡眠事業を推進するのか、音楽が睡眠に及ぼす影響とは──。NTT東日本グループのほか、脳と睡眠を科学するソリューションカンパニー「ブレインスリープ」・睡眠コミュニティ「ZAKONE」・越境クリエイティブ集団「Konel」らが共創した本イベントの様子や制作の舞台裏をレポートする。

7270B3F3-7A3A-434D-8FFF-D6362DD4A4E2 Sincere 撮影: Takuya Maekawa

“寝落ちするための演奏会”にチェックイン

「ZZZN」の開催場所に選ばれたのは、神奈川県箱根にある老舗旅館「吉池旅館」。旅館のフロントにチェックインするところから、本体験はスタートする。2日にわたって行われるZZZNの体験フローは下記のような流れだ。

「ZZZN(ズズズン)- LISTEN AND SLEEP -」体験内容

①チェックイン
宿泊者は旅館へチェックイン。客室で、睡眠を計測するデバイス「ブレインスリープ コイン」や睡眠アメニティグッズを受け取る。
②DAY LIVE
お昼寝するためのDAY LIVEを各々自由な場所で楽しむ。
③就寝準備
各々夕食と入浴を済ませ、浴衣に着替えて帯に「ブレインスリープ コイン」を装着し、NIGHT LIVEと睡眠への気持ちを高める。
④NIGHT LIVE
就寝準備が整ったところで、LIVEがスタート。布団の中でLIVEを聴きながら宿泊者は睡眠に向かっていく。
⑤就寝
宿泊者全員が就寝する。宿泊者の睡眠と連動して灯る明かりは寝落ち具合に応じて全て消えてゆき、音楽が鳴りやむ。
⑥起床・チェックアウト
「ブレインスリープ コイン」をフロントで返却し、チェックアウト。

来場者に渡される“睡眠特化”のアメニティ

P3180204 参加者には心地よい眠りにいざなう「睡眠テック」アメニティが貸し出しや提供された。写真はPHT繊維が使用され運動後や睡眠時にリラクゼーション効果を高めるリカバリークロス。

快適な眠りのコンディションをつくるため、会場には多種多様な睡眠アメニティが用意されていた。これらアメニティは、睡眠コミュニティ「ZAKONE」参画企業によるもので、イベント参加者は、心地よい睡眠効果を誘引するスリープテックアイテムを実際に試しながら、各々の睡眠効率を良質なものに高めることができる。

提供されたスリープテックアメニティ例

また、日販グループによる、睡眠に最適なセレクト選書も提供された。①「昼=陽光」(お昼寝ライブ前に部屋で)、②「夕方=洛陽(DAY LIVE最中に庭園で)、③「夜=月光」(NIGHT LIVE前に部屋の広縁で)の3つのシチュエーションに合わせて選書が貸し出され、参加者は入眠の状況に併せて思い思いの本を楽しむことができた。

PANA5207 撮影: Takuya Maekawa

そして、このイベント体験のキーテクノロジーとなったのは、株式会社ブレインスリープとNTT東日本グループが共同開発した睡眠計測デバイス「ブレインスリープ コイン」だ。NTT東日本グループは、デバイス開発以外にもブレインスリープが保有する睡眠の質を「偏差値」として数値化する「睡眠偏差値 for Biz」という企業向けサービスのイノベーションパートナーとして関与しており、睡眠事業推進におけるパートナーシップを結んでいる。

ブレインスリープ コインとは、睡眠研究×AIの高度なアルゴリズムにより、従来の睡眠計測デバイスでは見る事が出来なかった睡眠ステージ(睡眠の深さ)、寝姿勢、いびき/環境音、寝床内温度(布団の中の温度)を明らかにすることができるデバイス。クリップで衣服に取りつけるだけで、睡眠時間、睡眠効率、睡眠状態を分析することによってパーソナルな睡眠を可視化・スコア評価し、睡眠の質を高めることができる。

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ZZZNでは来場者全員が就寝時にこのレインスリープ コインを装着。体験者の体動・温度をトラッキングし、その状態がライブ会場の照明演出と同期する仕掛けが実装された。

「雑魚寝」で音楽を聴くDAY LIVE

ZZZNには、PES & SONPUB、Sincere、Seihoの3組のアーティストが参加、今回のイベントに合わせて「睡眠特化型」にアレンジされた生演奏ライブが行われた。

ライブは”お昼寝ライブ”としての「DAY LIVE」と”おやすみライブ”としての「NIGHT LIVE」の2回実施され、15時の「DAY LIVE」を自由な場所で楽しんだ後、夕食や入浴など寝る準備を整えた後に各自の部屋から22時の「NIGHT LIVE」を楽しむ仕掛けとなっていた。

昼のDAY LIVEは当初は中庭でのライブを予定されていたが、あいにくの雨天のため、急遽200畳の大広間でのライブに変更。結果として、雨音を聴きながら知らない人同士で畳に雑魚寝して生演奏を聴くという、新しい睡眠体験が生まれていた。

P3180261 PES & SONPUB

ささやき Sincere 撮影: Takuya Maekawa

LIVEでは、おやすみ前専用の入眠プレイリスト《sasayaki lullaby》の中から、ワン・ダイレクションの「What Makes You Beautiful」や、ザ・チェインスモーカーズの「Closer」など世界的大ヒット洋楽曲を入眠しやすいように“ささやき声”でリアレンジカバーした楽曲らを披露した。

この《sasayaki lullaby》とは、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナルと、越境クリエイティブ集団Konelによる「おやすみ前専用の入眠プレイリスト」プロジェクト。このプレイリストの入眠効果は、ブレインスリープ社とNTT東日本グループの協働のもと効果検証したところ、《sasayaki lullaby》が睡眠潜時と睡眠効率の改善に寄与する可能性が確認されており、今回のイベントで起用された。

参加者の入眠と演出が連動した幻想的なNIGHT LIVE

夜のライブも、昼のライブ同様に、PES & SONPUB、Sincere、Seihoの3組のアーティストが演奏。このNIGHT LIVEは“寝落ち”を目的としているため、赤色灯が灯る庭園から遠隔で演奏されるライブはスピーカーを通して客室に届けられた。

各客室には、累計販売数10万個を突破しているというブレインスリープ社によるヒット商品“脳が眠る枕”「ブレインスリープ ピロー」や、最新リカバリー寝具として開発されたドーム型の寝具「ブレインスリープ ドームコンフォーター」が提供。万全のコンディションが作れる環境と、心地よい眠りへの誘いが後押しされていた。

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イベント参加者は布団に入る際に、睡眠計測デバイス「ブレインスリープ コイン」を浴衣の帯に装着。各客室や庭園には睡眠を誘う赤色灯が照らされており、宿泊客の運動量の低下や睡眠環境(体動・温度)をトラッキングし、睡眠状態により明滅し、寝落ちすると灯りが完全消灯する仕掛けとなっていた。赤色灯はライブ会場や庭園一帯などにも配置され、旅館全体がまるで一つの生き物のように眠りに落ちていく過程が、幻想的な演出によって可視化されていた。

6DC6FDEB-F60F-483A-8EE1-B5069FDD3DC0 撮影: Takuya Maekawa

ささやき2 PES 撮影: Takuya Maekawa

■LED演出の背景

このLED照明とオペレーションは、テックとアートを掛け合わせたプロジェクトデザインを得意とするKonelが担当。LED演出制御システムは以下のように設計された。

  1. まず参加者が身につけている睡眠計測デバイス「ブレインスリープ コイン」から、参加者の生体情報(周辺温度・体の動き・体勢)を専用のiPhoneアプリを通じて受け取る。

  2. 参加者100名のブレインスリープ コインから受け取った情報は、管理ツールに送信され一括で管理される。このツールから次にLED制御を行う制御アプリに情報が送られる。

  3. 制御アプリでは「生体情報→LED設定」の変換が行われている。ここで生体情報を一般的なLED制御プロトコルに変換して個々のLED照明を操作する。

○周辺温度→色温度 ○体勢→光の強さ ○体の動き→明滅スピードのアルゴリズムにて、ブレインスリープ コインからトラッキングされた参加者の睡眠データは赤色のLED照明へと連動され、照明の明滅が操作されていた。

■ソフトウェア「Unreal Engine」と「NeRF」での庭園の3Dスキャニングによるシミュレーション

本イベントの前にはシミュレーションとして、まずゲームエンジン「Unreal Engine」を用いた照明の明滅バランスの検証が行われた。

次に、庭園にダミーとして提灯を100つ並べ、3Dスキャン画像生成技術「NeRF」を用いてそれらを実際に3Dスキャニングすることで、照明の見え方を立体的にシミュレーションし、位置や見せ方を検証した。照明一つ一つの位置の検証が行われたという。

ささやき3 撮影: Takuya Maekawa

NIGHT LIVEは終盤に差し掛かると、寝落ちした(寝ている状態に近い)宿泊客とリンクしたLED照明から、より暗く、赤く、ゆっくりと明滅していた。ライブ終了後の24時からはその余韻を残すために、すぐにはLED照明を消さず、24時から10分間、照明が明滅しながらフェードアウトするように消えていく演出が行われた。

本イベントの開発設計を担当したKonelのテクニカルディレクター・荻野 靖洋氏は以下のようにコメントしている。

荻野 靖洋氏コメント
「ゆっくりと消えていくLEDは、宿泊客が寝落ちする様子をそのまま表現しているようで、切ないと同時に安心するような不思議な感覚を覚えました。

本来であれば静けさが溢れる22:00の箱根の老舗旅館に音楽が響き渡る空間は良い意味で大きな違和感がありました。美しい庭園とライブ会場である大広間は球体のLEDが演出し、既視感のない空間になっていたと思います。また、本来であればロビーや共有空間に人がいてもよさそうですが、22:00以降館内にはスタッフ以外の人が殆どいませんでした。お客さんの多くはライブを聴きながら寝る、という目的のため皆さん部屋の中にいたのだと思います。

従来のフェスのように楽しくみんなで共有する音楽体験と違い、各々の部屋でまどろみながら寝落ちするか・しないかの境をさまよう、その瞬間が一番ハイライトだったのではないかと思います。制作チームはこの“まどろみ“を最高の体験にするために尽力してきました。個人的には屋上に出て、外でライブを聴きながら庭のLED照明を俯瞰して見ていた時間が幻想的で好きでしたね。」

音楽と睡眠が融合した異色のイベントは、睡眠における先端テクノロジーとクリエイティブが高度に交わることにより、最高の「まどろみ体験」を提供することができたようだ。

IMG 9273 筆者も翌朝、自身の睡眠がどのように計測されているかを確かめてみた。ブレインスリープ コインにより検知されたアプリの計測画面を見ると、環境温度や体の動き、歩いているか横たわっているか等々が30秒ごとに測定されていた。

「ZZZN - LISTEN AND SLEEP -」での体験は、“睡眠のエンタメ化”が体現された、テクノロジー×音楽×エンターテイメントの結集だった。また、業種の異なる企業がオープンイノベーションで交わることで、それぞれのチームの独自性が随所で光る一夜だった。

今後は「様々な業種業態とコラボレーションして、エンターテインメントのような楽しい位置付けやコンテンツとして広げていき、最終的に睡眠に悩むこと自体を解消していきたい」と語られた本イベント。新たな宿泊施設で開催されるのか、はたまた街や屋外を舞台に展開されるのか、次世代の睡眠体験が大きく変わりうるこれからの展開にも注目したい。

0DED2D65-3ACF-4F01-A6A3-2F0C8BE97E7F 撮影: Takuya Maekawa

【イベント概要】
イベントタイトル:ZZZN- LISTEN AND SLEEP -
開催日時:2023年3月18日(土)、19日(日)
開催場所:吉池旅館(神奈川県足柄下郡箱根町湯本597)
宿泊料金:お一人様34,000円~
※お部屋タイプによって金額が異なります。
主催:NTT東日本、NTT DXパートナー、ZAKONE
メインパートナー:Konel
協力:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル、Finder&Giver株式会社(itoma)、箱根湯本温泉 吉池旅館、未病産業研究会(事務局:神奈川県)
協賛:株式会社ブレインスリープ/エステー株式会社/合同会社Endian/日本出版販売株式会社/株式会社バランスド/株式会社セルフケアテクノロジーズ/株式会社カドー(cado)

ZZZN 公式サイト
プレスリリース(1)(2)
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Top Image: Takuya Maekawa/text:福島 由香

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