Pickup

2026.07.27

レポート

カンヌライオンズ2026|「アイデア見本市」で見つけた今年の”知財”たち

image1

毎年6月に南フランス・カンヌで開催される、世界最大級のクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ」。2万点以上のエントリーを世界各国からの審査員が審査するだけあって、受賞事例が業界に与える影響は大きく、その後のクリエイターたちの指針になることも多い。

今年のカンヌライオンズに参加したThe Breakthrough Company GOのエグゼクティブ クリエイティブディレクター 砥川直大が、現地で見た事例の中から、今年特に注目したアイデアをご紹介します。

(文:砥川直大)


カンヌをはじめ、海外の広告賞に参加すると、いつも思うことが2つある。

一つは、クリエイティブが世の中に与えることのできる影響の大きさと、そうした仕事に従事していることへの喜び、そして可能性だ。帰路に着く頃にはいつも、「何かおもしろいことを企てたい」と奮起する理由を与えてくれる。特に、世界中から集められたトップ・オブ・トップのアイデアたちは、知識として蓄える事例というよりも、クリエイターとしての原点を思い出させてくれる。

二つ目は、「いいアイデアこそ、世界中で転用されてほしい」という感覚だ。特に2010年代以降、社会課題の解決を目指したアイデアが増える中、本当に優れたものには世界中にいい影響を与えられるものが少なくない。せっかく公共善のために生まれたものならば、一つの国や地域にとどまらず、より広い公共のために活かされてこそ、クリエイティブの価値はさらに高まると思う。

そんな想いを常々持っていたこともあり、食品ロス削減のためにファミリーマートとGOで開発した「涙目シール」は、誰でも使えるフリー素材として公開した。この姿勢が評価され、今年4月に発表された「第6回 知財番付」の創造性部門でグランプリを受賞した。(ちなみに、この「涙目シール」を今年のカンヌにエントリーしていたが、残念ながら受賞には至らなかったので、その詳細は知財図鑑の記事に譲ります…涙目)

image2 引用元: https://chizaizukan.com/news/4dWz8md3H7tTczoux743N0

そして、知財番付を主催する出村さんが以前書かれていた、「カンヌはアイデアの見本市である」という考えにも大いに共感している。そこで今回は、今年のカンヌライオンズで出会った事例のなかから、特に気になった“知財”を紹介したい。

新しい関係資産

去年のカンヌは、AXAのTHREE WORDSに代表されるように、クライアントのコミットメントこそが施策の中心になるものが目立ったが、今年のカンヌは発想や着想という本来のクリエイティブが目立った年だったように思う。その意味で、より多くの人が真似できるヒントが豊富だった。

◯LUCKY FAN INDEX|Wisła Kraków Football Club

Creative Commerce部門 Grand Prix / Brand Experience & Activation部門 Gold / Creative Data部門 Silver / Entertainment for Sport部門 Gold

ポーランドの名門サッカークラブがトップリーグからの降格後、観客が減少。そこで「自分が観戦するとチームが勝つ」というファンのジンクスをAIで可視化する仕組みを開発。過去の来場履歴と200以上の試合データ(勝敗/ゴール/ペナルティ/怪我など)を照合し、一人ひとりの「幸運スコア」を算出。誰がチームに幸運をもたらしているのかを明らかにした。高スコアならVIP体験、低スコアでもグッズ割引という設計もよく考えられている。

自分がチームに幸運をもたらすことが証明された結果、それは観戦動機になり、平均観客動員数が42%増加。スポーツチームが持つ様々なスタッツを「ファンがもたらす幸運」という物語に変換することで、クラブとファンに新しい関係性を生んだこの施策は、すべてのスポーツチームが真似したくなる施策だ。

◯Thousand Sponsors of Muni

Entertainment for Sport部門 Grand Prix / Design部門 Bronze / PR部門 Bronze / Brand Experience & Activation部門 Silver

同じく下部リーグへの降格で、深刻な経営難に陥ったのがペルー・リマの老舗サッカークラブ Deportivo Municipal 。そこでチームが取った施策は至ってシンプルだ。

メインスポンサーが抜けてしまったユニフォームを、小さなグリッド状のデザインに作り変え、最大1,000の個人スポンサー枠を創出。ファンであり小規模事業のオーナーたちによる集合的なモデルに転換したのだ。日本でも複数の企業ロゴが所狭しとユニフォームに並んでる様子を目にすることは多いが、それは”事情”そのものを露呈しているようにも映る。Muniのユニフォームは、その優れたデザインシステムから、思わずスポンサーとして一区画に参画したい気にさせてくれる。結果的に、3か月で1,000のスポンサーを獲得。あらゆるチームのユニフォームがグリッド状になってしまっても困るが、多くのスポーツチームの参考になる発想だ。

世界に広げたい、新しいやり方

次に、優れたやり方を世界に提示してくれた事例を紹介したい。

◯Utrecht Energized / Renault

Innovation部門 Gold

オランダ・ユトレヒトは、太陽光発電の導入が進む一方で、日中には電気が余り、夜間には不足するという課題を抱えていた。そこでルノーは様々なパートナーと協業し、大規模なVehicle-to-Grid(V2G=EV車から電力網へ)を実現。

まず、50台のRenaultのEV車をカーシェア事業者MyWheelsの車両としてユトレヒト市内に導入。
それらをWe Drive Solarの双方向充電器につなぎ、日中につくられた余剰電力をEVのバッテリーに蓄える。そして夜間のピーク時には、貯めた電力を送電網へ戻すことで電力不足を補う仕組みだ。

走っていない時のEVを蓄電池として位置付け、企業や行政を巻き込みながら、大規模な仕組みとして実現したその構想力と実行力は圧巻。太陽光発電の弱点を、すでに街にあるクルマの役割を変えることで解決した仕組みは、他の都市にも転用できる成功モデルになり得ると思う。

◯Dark Mode Ads / Plentitude

Media部門 Gold / Outdoor部門 Silver / Creative B2B部門 Bronze

デジタル屋外広告は、その明るさゆえに多くの電力を消費する。そこでイタリアのエネルギー会社PlenitudeとクリエイティブエージェンシーLePubは、広告を省エネ仕様に変換するプラットフォーム「Dark Mode Ads」を開発し、無料で公開。広告素材をアップロードすると、白色部分の発光を抑えた消費電力の少ないダークモード版へと自動変換してくれる。実証実験では消費電力を最大74%削減。

広告はデザイン次第で省エネにできる。その事実を業界に示し、方法そのものまで開放した功績は大きい。これぞ、まさに知財だ。

◯Let it Fly / Saudia Airlines

Outdoor部門 Silver / Direct部門 Bronze

飛行機の預け荷物には重量制限がある。自国の文化に触れ、たくさんのお土産を持ち帰ってほしい一方で、それが重くなるほど追加料金が発生してしまうという矛盾がある。

そこで、 Saudia Airlinesは工芸品店と組んで、商品を購入した人にバーコード付きのステッカーを配布。それを空港のチェックイン時に提示すると、追加の手荷物重量が付与される仕組みを開発。サウジの都市や文化を描いたステッカーはそれ自体がお土産に匹敵するほどのデザインだ。それらをスーツケースに貼って旅をすることが、サウジの広告にもなるという優れた体験設計にもなっている。

image3

これまで仕方がないと思われていた体験に新しい意味を与え、まったく別のポジティブな体験へと変換したアイデアだ。

目的への異常な執着

個人的に海外賞で好きなのは、目的のためなら手段を選ばないアグレッシブなNPOや啓発団体。

◯PRIME TIME 0.7% / Latina TV 

Media部門 Silver

ペルーのLatina TVは、番組コンテンツを0.7%速く放送し、2時間29分の番組から約1分を捻出。本来空きのないゴールデンタイムに無料のCM枠をつくり、がん基金への募金活動の告知枠として寄付。コンテンツの放送方法を変えてまで(と言っても誰にも気づかれないレベル)、NPOに最高の枠を与える気概が素晴らしいし、そんな手法があり?!と驚いた事例。

◯THE KIDNEY PASS / WAY OUT WEST

PR部門 Silver

スウェーデンの音楽フェスWay Out Westが臓器提供NPOと実施した事例もいい意味で狂ってる。チケットの即完後に「臓器を売ってでも行きたい」というSNSの声を逆手に取って、腎臓のドナー登録すれば買える「The Kidney Pass」を販売。短期間で約2000人が登録した。

◯One More Question / LALCEC

PR部門 Gold

最後は、アルゼンチンのがん対策NPO、LALCECの事例。「One More Question」は、テレビ司会者やレポーターが、スポーツ選手や芸能人へのインタビューの最後に、「ところで、今年の前立腺がん検診はもう受けましたか?」と突然質問する取り組み。著名人たちのぎこちない反応そのものがコンテンツとなり、SNSを通じて検診の話題を広げていった。

ここまでくると、もはや知財とは少し違うかもしれない。ただ、生活者を動かすためには、時にこれくらいどストレートなアプローチも有効であることを再認識させてくれる。

────────────────────────────────────────────────

今年のカンヌも、紛れもなくアイデアの見本市だった。

世の中に課題がある限り、それに対する新しい解決策も生み出されていく。その解を見つけ出す一人として、日々の視点や着想の重要性を、改めて感じさせてくれる5日間だった。


砥川直大
The Breakthrough Company GO
エグゼクティブ クリエイティブディレクター

戦略を含めたコミュニケーション全般の設計から、表現までを一気通貫して行う。ナショナルブランドの大型キャンペーンからスタートアップの立ち上げ支援まで幅広く従事。整理と可視化が得意。
クリエイティブの力で社会をポジティブに変えていくことを信念に、数多くのソーシャルプロジェクトを企画・実施。サステナビリティやエシカル消費などの社会浸透を手掛ける。ファミリーマート「涙目シール」、 ECOALF「資源を無駄にしない広告」、WWF「買い物カゴ投票」など。
Cannes Lions、Spikes Asia、PRアワードグランプリ、グッドデザイン賞、クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリストなど受賞。調理師。

X: @togawanaohiro
company website: https://goinc.co.jp/

【知財ハンターに取材を依頼する】

広告