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2026.08.05
レポート | 体験レポート
アートを"売る"のは、なぜか。──「Creativityの社会実装」をめぐる4者のトークセッション
一般社団法人 WE AT

2026年7月24日、東京・渋谷のSakura Deeptech Shibuyaで、一般社団法人WE ATが主催するグローバル・アクセラレーションプログラム「WE AT CHALLENGE 2026」のプレイベントが開催された。2026年から正式トラックへと昇格したTRACK4「Creativity Well-being」の創設を記念する会で、クリエイターやデザイナー、スタートアップ、事業会社の新規事業担当者ら約36名が集まった。
イベントの後半に行われたのが、本レポートで紹介するトークセッションだ。テーマは「Creativityを社会実装するには?」。創造性を表現やアート作品にとどめず、事業として成立させ、人々のWell-being(心身の豊かさ)へとつなげていく——その道筋を、立場の異なる4人が語り合った。モデレーターは博報堂DYホールディングス 執行役員でWE AT共同代表理事の吉澤到氏。登壇したのは、発明家でKonel CEOの出村光世、東京藝術大学 特任准教授で丸橋企画株式会社 代表取締役の丸橋裕史氏、そして投資家の鈴木絵里子氏(Kind Capital 代表取締役 / Dears Capital パートナー)の3名である。クリエイター、アカデミア、投資家——それぞれの視点から、創造性を社会へ実装するための条件が語られた約40分のセッションを振り返る。
アートを"売る"のはなぜか——ビジネスという検証装置
セッションは、この日のショート講演で出村が紹介した作品群——外の風に反応してはためく「ゆらぎかべ」や、全身を委ねられる巨大なやわらかいロボット「モーフ(Morph)」など——をめぐる問いから始まった。
吉澤:出村さんの作品を拝見して“アート”と呼んでもいい作品だと思いました。それでも、なぜビジネスにしようと思ったのでしょうか。
出村:一人の大富豪に高い値段で買ってもらってほしいというよりは、"セルフカーム(自分で自分を落ち着かせる)"というカルチャーが本当に世の中に必要とされているのか、その仮説を検証したいんです。それを確かめるのに一番分かりやすいのが、お金を通じた価値の交換で。ビジネスのプラットフォームに載せれば、チューニングもしやすいし、売れれば"じゃあ一緒にやりませんか"という話にもつながる。発明を文化的に実装したいと考えたら、今の世の中ではビジネスにたどり着くのは、わりと自然な流れなんです。最新作もあえて量産可能な設計にして、自分たちだけでやりきらず"関わりしろ"を残している。Google発の"Do it"の余白を組み込んだVersion Oneとして出しています。
丸橋:アートにもデザインにも、ビジネスもクリエイティビティも、どちらも必要だと思います。AIが一定の"それらしい答え"を出せるようになった今こそ、自分の目で見て、自分の手で試し、"本当にそうか?"と疑う勇気——アートとデザインに共通するその姿勢の価値が際立ちます。
鈴木:欧米の起業家って、文学やアート、デザインとか、本当に多様なバックグラウンドを持つ人が多いんです。日本ももっとそうなってほしい。どんなアイデアも最初は"そんなの無理だ"と言われるものですが、成功する起業家は、10年前、みんながバカだと言っていた頃から見えている世界が違った。想像力が豊かで、それを信じる力がすごいんですよね。
──話題は「妄想」の効用にも及んだ。
出村:僕にとって"妄想なんですけど"という枕詞は、軽い思いつきを共有しにくい空気を打ち破る、いちばん手軽で強いシールドなんです。"妄想"と言って話したことを全否定してくる大人は、退場した方がいい(笑)。まずはそこから始めましょう、と。
吉澤:実は今日、私もまさに会議で"妄想なんですけど"を使っていました(笑)。
──なぜ日本では、アート・美術系のバックグラウンドを持つ人が、起業やスタートアップにつながりにくいのか。
丸橋:美術大学では、他分野の教育——とくにファイナンスや法律、ビジネスのつくり方への理解——が足りなさすぎる。そこが変われば、起業する人はもっと増える可能性が高いと思います。出村さんの進め方を見ていても、知財もテクノロジーもあって、それをチームでやっていく。クリエイターにもできそうだと感じました。
サステナブルの先の「リジェネラティブ」へ
続くテーマは「Well-being × Creativity」。
鈴木:ビジネスとクリエイティビティ、ビジネスと社会課題は相反すると思われがちですが、これからの世の中はそれではダメだと本当に思っていて。キーワードは"リジェネラティブ(regenerative/再生的)"です。サステナブルがマイナスをゼロに持っていく発想だとすれば、リジェネラティブはもっと形成的で、自然界のエコシステムのように全体の調和の中で価値を生み出していく。ビジネスとして成り立たないものは持続できず、リジェネラティブとは言えない。かといって一組織・一人だけが利益を独占するのは、自然界ではパラサイトや癌のような存在で、全体の調和とは相反するんです。
吉澤:出村さんの作品を見た時にも感じたのですが、「ゆらぎかべ TOU」も、「Pulse Pack」(自分の心拍に触れるウェラブルバッグ)も、生理的・自然的なものが多いですよね。クリエイターが発想すると、自然調和的なものになるのでしょうか。
出村:クリエイティブディレクションの視点は、"自分が本当に気持ちよくて欲しいと思えるか"。その閾値は結構高いと思います。鈴木さんの話でいうと、自分の心拍を感じるカバンは"心拍リジェネレーションマシン"、「ゆらぎかべ」は"ウィンドリジェネレーションウォール"だと思うんですよ。サウナでととのって、自分の心拍を聴いている瞬間なんて、自分の中だけで循環していて何のコストもいらない、最強のリジェネラティブ。だからこそ、なるべく小さな場で完結できるようにしていくと、面白いものができるはずなんです。
──自然体でいることを起点にものづくりをしていくと、結果として再生的で持続可能なものになっていく。クリエイティビティと社会性が、対立ではなく地続きにつながっていく感覚が共有された。
クリエイティビティを社会実装するエコシステムとは
セッション後半のテーマは「クリエイティビティを社会実装するためのエコシステム」。
鈴木:私が提起したいのは"ファイナンシャル・ウェルビーイング"です。金融って、実はそんなに難しいことをしているわけではなくて、大事なのはお金と向き合うこと。日本ではお金の話がタブー視されがちですが、"自分はどうしたいのか"から言葉にしていくことが第一歩。いわゆる典型的なクリエイター像に当てはまらない人でも、自分はクリエイティブだと思ってほしいんです。
出村:お金はあればいいというものでもなくて、実は低コストで実験できることはたくさんある。僕らはGoogleの"20%ルール"を自分たちなりに変形させたんですが、4人が全員150%で稼働していたところにその20%ルールを適応すると170%稼働してもらうことになってしまう。そうではなく、5人目が入ったとき、この人を100%自由にすれば組織として5人分の20%をつくれると気づいて。そこから多くのものが生まれ始めました。鍵は"アフォーダブルロス(許容できる損失)"。今年の利益につながらなくていい、それを証明しなくても進んでいい、と受け入れられる線引きが大事なんです。最近、企業の尖った相談が減っていて。300万円くらいなら自分が出してもいいと思っている。知財的な考え方を用いて、量産インフラを持つ企業と一緒にビジネスにしていけるやり方をつくりたいんです。
吉澤:元手がないなら、WE ATにチャレンジすればいいんですよ。優勝すれば賞金が出ます(笑)
丸橋:クリエイティビティが社会実装された世界って、ビッグリーダーが一人現れて全体を変える、というイメージにはリアリティを感じないんです。むしろ、一人ひとりが持っているクリエイティビティが、小さなチャレンジとして、いろんな場所で起きている状態。目の前の一人が"これすごくいい"と言ってくれるものを届ける。その積み重ねが、世界を近づけるのかもしれない。
一人ひとりの「小さなチャレンジ」から
セッションの最後は、「WE AT CHALLENGE 2026」への参加呼びかけで締めくくられた。
吉澤:WE AT CHALLENGEは、スタートアップだけでなく、企業内プロジェクトや起業前の学生・研究者、個人・団体まで幅広く応募できます。今からビジネスアイデアを考えて、何か形になったらとりあえず応募してみる。そんなところから、クリエイティブ産業が盛り上がっていくきっかけになれば。
イベント後にはネットワーキングの時間が設けられ、「一緒に企画できる人」との出会いを求める登壇者・来場者の会話が続いた。創造性を社会に実装する——その第一歩は、こうした一人ひとりの小さなチャレンジと、それをつなぐ場から始まっていく。
スタートアップ創出支援プログラムWE AT CHALLENGE 2026 TRACK4「Creativity Well-being」へのエントリー受付は2026年8月31日(月)23:59(JST)まで。 スタートアップ、起業前の学生・研究者・企業内プロジェクト、個人・団体が対象で、最終選考会は11月27日(金)に東京・Tokyo Innovation Baseにて開催される予定だ。
スタートアップ創出支援プログラム「WE AT CHALLENGE 2026」TRACK4 エントリーについて
対象者:スタートアップ、起業前の学生・研究者・企業内プロジェクト、個人、団体(事業のグローバル展開を視野に入れていること)
選考スケジュール:8/31(月)エントリー締切/1次選考開始(書類)
10/5(月)1次選考結果連絡
10/26(月)・27(火)2次選考(オンライン面談・英語)
11/2(月)2次選考結果連絡
11/27(金)最終選考会@Tokyo Innovation Base(現地登壇・英語)
WE AT CHALLENGE 2026 TRACK4 プレイベント 開催概要
https://chizaizukan.com/news/2cGJRCMQWeVM1dbOO9la65
名称:WE AT CHALLENGE 2026 TRACK4 プレイベント「Creativityの社会実装」
日時:2026年7月24日(金)17:00〜19:00(開場16:30)
会場:Sakura Deeptech Shibuya(東京都渋谷区桜丘町1-2 渋谷サクラステージ セントラルビル12階)
開催形式:オフライン
参加費:無料 定員:約100名
主催:一般社団法人WE AT
<本レポートで紹介したトークセッション>
テーマ:「Creativityを社会実装するには?」 登壇:出村 光世、丸橋 裕史、鈴木 絵里子、吉澤 到(モデレーター)
イベント概要ページ
登壇者
出村 光世(でむら みつよ) 発明家/株式会社Konel CEO。日本・ニューヨーク・ミラノを拠点に、ブランドデザイン、事業開発、自主制作の作品づくりを手がける。ブリヂストンとの共創「Morph」など、テクノロジーを予定調和ではない形で未来に応用する制作を数多く手がける。知財図鑑を運営。
丸橋 裕史(まるはし ひろふみ) 東京藝術大学 特任准教授/丸橋企画株式会社 代表取締役。多摩美術大学卒業後、広告会社・外資系企業でマーケティングに従事。MBA取得後、丸橋企画株式会社を設立し、上場企業の次世代人材育成と組織文化変革を推進。多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム(TCL)のプログラムマネジメントを歴任し、2026年より東京藝術大学特任准教授に就任。
鈴木 絵里子(すずき えりこ) Kind Capital 代表取締役/Dears Capital パートナー 投資家。WE AT CHALLENGE 2026 審査員。グローバルでの投資経験を背景に、リジェネラティブやファイナンシャル・ウェルビーイングの視点から起業家支援に取り組む。
吉澤 到(よしざわ いたる) 博報堂DYホールディングス 執行役員/WE AT 共同代表理事。博報堂でクリエイティブディレクターとしてキャリアを重ね、2019年に「ミライの事業室」を立ち上げるなど、社会課題解決とビジネス成長を両立する新規事業を推進。
WE AT概要
一般社団法人WE AT(ウィーアット)は、東京大学・京都大学・東京科学大学・博報堂・住友生命・キヤノンMJらを発起人として2024年5月に設立された一般社団法人。OECDが提唱するWell-beingフレームワークに基づき、スタートアップ支援と社会課題解決を事業の柱としている。中核プログラム「WE AT CHALLENGE」は、アカデミア・行政・企業・投資家が連携し、社会課題解決型スタートアップの創出と成長を支援するもので、2026年大会は3回目の開催となる。
Top Image : © 一般社団法人 WE AT


