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2026.07.07

レポート

波が来る前に、まだ見ぬ仕事を浮かべて──オカムラ×Konel「まだ存在しない未来の職業展 2045」が描くいい未来

株式会社オカムラ

03 未来の職業展 会場 LowResby YusukeMaekawa
©Yusuke Maekawa

6月18日から26日にかけて、東京・高輪のTHE LINKPILLAR 2で「0次開発プロジェクト vol.1 まだ存在しない未来の職業展 2045」が開催された。主催は、オフィス家具や店舗用什器で知られる株式会社オカムラ。会場に並ぶのは、同社が積み重ねてきた特許群から導き出された「50の未来の職業」と、来場者が実際に体験できる2つのプロトタイプである。

開幕直前に、知財図鑑では本展の舞台裏を関係者インタビューとして公開。その時点ではごく一部の職業しか知り得なかったため、筆者としても全貌が明らかになる日を楽しみにしていた。来たる2045年には、一体どんな職業や「働き方」がスタンダードとなっているのか。同日に開かれたトークセッションの模様とあわせてレポートする。

創立100周年を見据えた逆算。6000件の特許を、未来の職業へ翻訳する

そもそも、なぜオフィス家具メーカーが「未来の職業」を提示するのか。シンギュラリティ(技術的特異点)が到来すると言われる2045年は、1945年創業のオカムラが100周年を迎える節目でもある。そのときに自社がどのような事業を行っているのかを構想することが、本プロジェクトの出発点だという。掲げるのは「人間性」「課題発見」「循環」「越境」「変革」という5つの視点だ。

01 未来の職業展 会場 LowResby YusukeMaekawa 「まだ存在しない未来の職業展 2045」のエントランスには、0次開発プロジェクトのモットーや「ジョブテックスパイラル」についての解説も(©Yusuke Maekawa)

50の職業は、単なる妄想から生まれたものではない。起点にあるのは、オカムラが保有する約6000件(失効済み/申請中を含む)の特許である。そこから他分野へ引用されたり、自社らしからぬ領域に広がる「越境特許」279件を抽出。知財図鑑が提供するアイデア共創プラットフォーム「idea Landscape(アイディアランドスケープ)」によって、埋もれていた特許は27900件もの事業アイデアの海へと可視化された。その膨大なアイデアを人の手で磨き抜き、技術の視点と社会課題の視点を掛け合わせる「ジョブテックスパイラル」を経て、50の職業と2つのプロトタイプへと昇華されている。

巨大パネルに並ぶ職業は、SF映画顔負けのグラフィックとともに、その概要や未来への期待感が記されていた。さらに、その職業を支える立役者として、オカムラが持つ特許・技術をショーケース形式で紹介。たとえば「宇宙居住プロダクトデザイナー」のパネルには、オカムラがオフィス家具に用いているクッション素材のサンプルが展示されていた。「人が椅子に合わせる」のではなく「椅子が人に合わせる」——重力から解き放たれた身体に、素材が寄り添う発想である。

IMG 8524-8531 左:50の職業が生まれるきっかけとなった「idea Landscape」のデモンストレーション/右:「宇宙居住プロダクトデザイナー」のパネル前に展示されていたオカムラのクッション素材(©知財図鑑・編集部)

すべての職業には、現代の社会課題とオカムラの特許技術が紐づいている。本来の特許内容にかなり近しいものもあれば、普通の発想なら結びつかないような「飛躍」を含むものもあり、そのグラデーションこそが本展の醍醐味といえるだろう。筆者が特に惹かれたのは、デジタル遺産を整理する「デジタル遺産管理人」(2018年のTVドラマ『dele』を思い出した)、空間コーディネーターの派生形として注目されそうな「エアソムリエ」(いずれ民間資格になったりして?)、そして“あのときのあの味を再現する”という触れ込みの「メモリーシェフ」といった職業。とりわけメモリーシェフは、曖昧な記憶や味覚をもとに、思い出の味と再会できるというエモさがある。認知症の治療・研究の観点からも応用の余地がありそうだなと感じた。

IMG 8538-8544 「まだ存在しない未来の職業展 2045」にて(©知財図鑑・編集部)

巨大パネルのほかに、「問い」と職業が裏表になったA4サイズのカード展示も。一枚一枚の問いはちょっとしたクイズや謎掛けになったものもあり、来場者のイマジネーションを刺激してくれる。展示の流れで印象に残ったのが、2005年・2025年・2045年という20年スパンで、人々の価値観やスタンダードの変容をまとめたパネルだ。「働く」も「キャリア」も「住まい」も「飲み会」も「年齢」も「家族」も——そして、後述する「エンディングエディター」に則れば「寿命」さえも——捉え方が変わっていくであろう未来が、地続きの感覚で示されていた。

自分の「やりのこ死」と向き合い、十人十色の音を鳴らす

07 未来の職業展 エンディングエディター LowResby YusukeMaekawa 職業プロトタイプ「エンディングエディター」の体験ブース(©Yusuke Maekawa)

本展の目玉は、やはりインタビューでも取り上げた2つの職業プロトタイプだろう。まず「エンディングエディター」は、カメラやマイクの既設センサーから空間を最適化する技術をベースに発想された職業だ。背景にあるのは「寿命脱出速度」という考え方。シンギュラリティの第一人者であるレイ・カーツワイルは「科学の進歩によって寿命は毎年6週間ほど延びており、2045年には人生150年時代が到来する」と予測している。そんな時代が訪れれば、人々から「引退」という概念は消え、長すぎる人生のなかで目的を見失い、死の間際に後悔する「やりのこ死」が社会問題化するかもしれない──。エンディングエディターは、対話を通じて顧客の過去の記憶や後悔、忘れていた夢を丁寧に掘り起こし、未来への材料として「人生を再編集」する伴走者として構想されている。

08 未来の職業展 エンディングエディター LowResby YusukeMaekawa 「エンディングエディター」の体験シーン。かなり突っ込んだ質問が飛び出し、心拍数をもとにストレス値も計測される(©Yusuke Maekawa)

体験は、タブレット端末で「編終カルテ」と呼ばれる問診に回答し、セルフィーを撮影するところから始まる。腕には生体データを測るセンサーが装着され、神秘的なブースでヘッドセット越しにAIからカウンセリングを受けていく。未来版のウソ発見器とも言えるこのブースでは、かなり踏み込んだ質問が投げかけられ、正直答えに窮する瞬間もあった。それでも、「未来の可能性」として提示される数十年後の自分の姿(問診時の写真をもとにAI生成)はなかなか興味深い。カウンセリングを終えると、エンディングエディターを擬人化した担当者が、結果をまとめた用紙に捺印し、専用封筒に入れて手渡してくれる。ヒューマノイドのような雰囲気をまとった彼のイケボも相まって、この細やかな演出には関心させられた。一般的には、大人になるほど自分のことを聞かれたり話したりする機会は少なくなる。「自己発見」という意味においては、様々な可能性や横展開が期待できそうな職業だと思う。

IMG 8510-8657 専用の封筒に収められた「編終カルテ」は、体験者が持ち帰ることができる(©知財図鑑・編集部)

いっぽうの「ジェスチャーオーケストラ」は、遠隔操作ロボット用の技術である指曲げセンサーから生まれた専用グローブを両手にはめて体験・演奏する。AIによって創作物の均質化が進むほど、かえって人間の創造性の価値が高まる——そんな仮定(「ヒューマンルネサンス」)から導かれた職業だ。興味のあるシーンを「森」「海」「都市」から選び、パー、L字、グーといった手のカタチで音色が変化するほか、両手の繊細な身振りでもサウンド、アンビエンス、映像が大きく移ろっていく。結果はまさに十人十色。「ジェスチャーオーケストラ」を通して鳴らされた音はすべて場内のハードディスクに保存され、その波形(のようなもの)を眺めるだけでも壮観だ。今回は1台のみの設置だったが、複数人でのセッションや、いわゆる「音ゲー」のようなゲーム性を持たせてみても面白いかもしれない。

05 未来の職業展 ジェスチャーオーケストラ LowResby YusukeMaekawa 職業プロトタイプ「ジェスチャーオーケストラ」の体験シーン(©Yusuke Maekawa)

06 未来の職業展 ジェスチャーオーケストラ LowResby YusukeMaekawa 「ジェスチャーオーケストラ」で用いられたのは、オカムラの特許から生まれた「データグローブ」(©Yusuke Maekawa)

51%は、人で決める。「波待ち」という新規事業論

同日、別会場のLiSHではトークセッション「波が来る前に、浮かべておく話。オカムラ×Konel、0次開発という新規事業の在り方」も開かれた。登壇したのは、発明家でKonel CEOの出村光世、オカムラ執行役員の佐藤直史さん、同社フューチャービジネス企画部の小貫絢子さんの3名。モデレーターはオカムラの岡本栄理さんが務めた。

IMG 4211 トークセッション「波が来る前に、浮かべておく話。オカムラ×Konel、0次開発という新規事業の在り方」の模様(©知財図鑑・編集部)

佐藤さんの口から語られたのは、プロジェクトの根っこにある危機感だ。オカムラに現存する事業の多くは、約50年前に構想されたもの。「この50年間、オカムラから新規事業は生まれていない。次の事業をそろそろ生み出しておかないと──」という問題意識が、0次開発の出発点になっている。新規事業の難しさについて、印象的な指摘もあった。「私たちって、失敗する訓練を受けていないんですよね」。正解を出す訓練は積んできても、失敗する訓練は受けていない。だからこそ失敗に至るまでが難しく、その手前を乗り越える仕組みやプロセスを設計する必要がある——という気づきが、1次開発のさらに手前を担う「0次開発」という呼称につながっている。

Konelの出村は、シンギュラリティの捉え方をこう語った。「ターミネーターみたいなものが現れたらバッドシンギュラリティ。ちゃんとドラえもんに巡り会えたら、グッドシンギュラリティ」。AIに奪われる未来を恐れるのではなく、何でも寄り添って実現してくれる存在として体感してもらう——その積み重ねが投資や仲間を呼び込み、「いい未来」をたぐり寄せていく、という見立てである。

50-future-jobs 「0次開発プロジェクトvol.1 まだ存在しない未来の職業展 2045」で展示された「50の未来の職業」のビジュアルイメージ(©OKAMURA CORPORATION.)

新規事業のパートナー選びについて、明快な基準を語ったのは佐藤さんだ。「51パーセントは人で決める」。どれだけ優れた技術を持つ相手でも、この人とはうまくやれなそうだと感じたら、決してうまくいかない。大企業同士の座組みであればなおさらで、互いの組織や文化を「突破できる人」同士でなければ、どちらかの事情でプロジェクトは止まってしまう。だからこそ、技術やスペックよりも先に「できる人かどうか」を置く。現在進行している30〜40件のプロジェクトも、その大半を「この人だからやる」という“人”基準で決めているのだという。

そしてイベントのタイトルにもなった「波が来る前に、浮かべておく」について。まだ事業にはなっていないが、カタチになれば面白いと思えるアイデアを、共有可能な状態で「浮かべておく」こと。セッションでは、潜水艦をたくさん沈めておき、ここぞという波が来たときに一斉に浮上させる⋯⋯という比喩も交わされた。出村はそれを「波待ち」と呼ぶ。今回展示された50の職業は、いわばその「浮かべておいた」アイデア群そのものである。「もしかしたら、今日この場所に来ていただいた方が波になる可能性もある」——オカムラ単独では実現が難しい職業ばかりだからこそ、来場者の技術やアイデアが「足りないピース」を補完しうるというメッセージであり、両社からのラブコールだ。

「再現性」への言及も興味深かった。今回はオカムラの特許を起点にしたが、同じ手法は他社の特許でも展開できる。本展でフィーチャーされた越境特許は279件で、残る数千件にもまだまだ深堀る余地がある。出村はこう続けた。「技術者の人はすごく賢いので、時代の先を見据えて技術をつくります。たとえば、いまスマートフォンに搭載されている手ブレ補正の技術って、約40年前に発明(※)されたものなんですね。いま休眠しているように見える特許も“お役御免”というわけではなく、数十年を経てから旬を迎える例も少なくない。異なる企業の特許やアイデアの地図(ランドスケープ)が重なり合えば、そこから新しい共創が生まれるはずです」。

※ 手ブレ補正の基本特許は、パナソニック(旧・松下電器)の大嶋光昭氏が1983年に出願したもの(特許第1589189号)。世界初の手ブレ補正内蔵ビデオカメラは1988年、レンズ内光学式手ブレ補正を載せた民生カメラは1994〜95年に登場した

DSC03009 トークセッション終了後に行われた記念撮影(©知財図鑑・編集部)

トークセッションの終盤で、小貫さんは「今回『0次開発プロジェクト vol.1』と銘打ちましたが、ここで生まれた共創パートナーとのプロジェクトを、vol.2としてやりたいと妄想しています」とコメント。「人が活きる社会の実現」をパーパスとして掲げるオカムラの特許/技術との「かけ合わせ」には、個人的にも「いい未来」の予感しかない。0次開発プロジェクトに興味を抱いた方は、ぜひオカムラにお問い合わせを。

その海に、あなたは何を浮かべるか

会場のパネルが示したように、2045年には「働く」も「家族」も、あるいは「寿命」でさえも、いまの当たり前とはまったく異なる輪郭をまとっているに違いない。本展で示された50の職業は、確たる答えではなく、あくまで可能性と示唆である。だが、特許という「ファクト」を起点にしている点が、いわゆる机上の空論とは決定的に異なっている。社内に技術と研究の蓄積があれば、「未来の職業」という妄想は事業化の検証へとフルスロットルで進んでいけるのだ。

また、筆者は件のインタビューでKonelの清水陸が語っていた言葉を思い出した。生まれたときからAIが隣にいる世代にとって、AIは「奪う」存在ではなく『ドラえもん』のように何でも寄り添って実現してくれる存在になるのではないか——という視点は、本展全体を貫く通奏低音でもあった。テクノロジーが極まれば極まるほど、人間だけが持つ感情や身体性、記憶や対話といった「人だからこそ」の領域が、未来の職業/仕事として浮かび上がってくるのは必然なのだろう。

02 未来の職業展 会場 LowResby YusukeMaekawa ©Yusuke Maekawa

まだ存在しない職業は、特許の海から生まれる。そして、その海に何を浮かべ、どの波に乗るかは、本展の来場者一人ひとりの手に委ねられているのかもしれない。


Text : Kohei Ueno
Photo : Yusuke Maekawa
Cooperation : 0次開発プロジェクトPR事務局

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