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2024.05.30

レポート

Milan Design Week 2024 現地レポート 〜日本の挑戦(前編)〜

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2024年4月16日〜21日にイタリア・ミラノ市内で行われていた、世界最大規模の家具見本市「Milan Design Week 2024」(ミラノデザインウィーク)。本記事では「日本の挑戦」というテーマで、日本から出展していたチームにフォーカスし、現地に視察へ行った知財ハンターがその様子を前後編に渡ってお伝えします。

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Milan Design Week 2024とは

世界最大規模のデザインの祭典とも言われる、ミラノデザインウィーク(Milan Design Week)。ミラノ郊外のロー市にある、ロー・フィエラミラノ(Fiera Milano, Rho)で開催される世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ」と、同時期に市内各所で開催される「フォーリサローネ(Fuori Salone)」を合わせた通称で、毎年4月に開催されています。

ミラノサローネが初めて開催されたのは1961年。当初はイタリアの家具メーカーに焦点を当てたものでしたが、その後国際的なスケールに成長し、現在では世界中から数百万人もの来場者が魅了される巨大なデザイン見本市となっています。

開催期間中、ミラノは世界中から集まった人々で賑わっていました。街を歩けば展示会場があると言っていいほど、たくさんの展示が街中に点在していました。

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image22 会場の入り口にはこのようなフラッグがあり、街中に点在しています。エリアによってそのデザインは様々です

日本の挑戦 @フォーリサローネ

ここでは、「日本からの挑戦」にフォーカスして、いくつかの展示をピックアップしてお届けします。

NEW NORMAL NEW STANDARD 4 -Japanese Maison-

2020年のコロナ禍において、事業者とデザイナーが共にスタートしたデザインプロジェクト・NEW NORMAL NEW STANDARD 。今回は「日本の家業のモノづくり」にフォーカスした、Japanese Maisonをテーマに展示が行われていました。

家業を継いだ若い後継者がそれぞれデザイナーと一体となって生まれた、変革の一歩へと繋がる新しいプロダクトが並んでいました。

image36 出展:NEW NORMAL NEW STANDARD


◯片岡屏風店(屏風製造業 / 1946年創業)× 秋山かおり

現在3代目だという片岡屏風店。現代では屏風の市場が非常に少なく、3代目の片岡さんの代から海外にも視野を広げているそうです。

元々屏風は大昔に中国からきた文化で、蝶番は金属や紐でできていました。しかし、日本では屏風は風除けや間仕切りで使用され、風や光を防ぐ役割が重要だったため、僅かな風や光をも通さないよう、和紙で蝶番が作られるようになったそうです。

展示されていた360 BYOUBUは、STUDIO BYCOLORの秋山かおりさんとのコラボレーションによって製作され、普段は内側になっている和紙蝶番をあえて外側に見せていました。実際に触ってみると和紙蝶番は頑丈にできており、表裏どちらにもパタパタと自由自在に動かすことができました。普段は隠れている立役者が表に出てくることで、新たな屏風としての表情が空間に現れていました。

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◯東商ゴム工業(工業用ゴム製品製造業 / 1966年創業)× 嶋野陽介

東商ゴム工業が独自開発したゴム素材を焼き上げ、それから生まれた様々なかたちや色の製品が展示されていました。このゴムは粘土のように自由自在に変形でき、120℃のオーブンで5分で固まるそうです。パスタマシーンでパスタの形状にしたものや、耐熱性が200度まである特性を生かして製作された蝋燭の台など、ユニークな形状が目を引きます。変幻自在な素材としてのゴムに、さまざまな可能性が感じられました。

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他にも、折りたたみとスタッキングが可能な紙製スツールや、靴クリームが融合した照明器具、天然ゴム由来の環境にやさしいゴムプランターなどが展示されていました。

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また、この部屋の展示には全て荒川技研が開発したワイヤー⾦具の調整機構「ARAKAWA GRIP」が使用されています。すでに多くの美術館やギャラリー、店舗などで世界中で愛用されており、今回の展示では「触れる機会を増やす」ことを目的に製作された書籍の完成を兼ねて、ARAKAWA GRIPを体感しながら書籍を楽しめるライブラリー‘biblioteca d’Oro’ (黄金のライブラリー) が設置されていました。

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慶應SDM / The Power of Stories -Invitation to better Future-

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(慶應SDM)は、「The Power of Stories -Invitation to better Future-」というテーマで2つのプロダクトを発表。ミラノサローネへ出展するのは今年で8年目だそうです。座学ベースの授業に加え、実践の場として有志でプロダクトを制作し、学内審査を経たものが展示されていました。

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展示プロダクト1つ目は、おもちゃの片付けを楽しくするための「Mocchi」。お片付けというつまらない作業をワクワク体験に変えてくれるおもちゃ箱です。おもちゃをMocchiの中に入れると「もちもち」と可愛らしい声がします。口の裏に付いているセンサでおもちゃが入ったことを感知し、音が鳴る仕組みになっています。ついつい可愛がりたくなってしまうサイズ感です。

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展示プロダクト2つ目は、錠剤を飲み続ける退屈を楽しい体験に変える「MediAquario」。右下にあるレバーを引くとコップの中に水が溜まり、手を離すとボールが飛び出てきます。ボールがゆっくりと下に落ち切ると、錠剤が左下の引き出しから出てくる、という一連の流れになっています。飲み忘れ防止のためのアイデアはたくさんありますが、そこに楽しさを付加したものは珍しいのではないでしょうか。

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島津製作所・we+ / WONDER POWDER

ミラノ中央駅エリアにある建築とデザインのための総合施設・DROP CITYでは、今年初出展となる島津製作所が、コンテンポラリーデザインスタジオwe+を迎えて「WONDER POWDER」を開催していました。

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「WONDER POWDER」は、粉末の可能性を模索するために始まったリサーチプロジェクトです。水中の粉末の動きを観察するだけでなく、その現象を島津製作所の分析技術を用いて解析し、感性と論理の双方のアプローチによって粉末が魅せる美しさを探究してきました。今回は約2年間の研究成果として、インスタレーションとリサーチの一部が公開されていました。普段なかなか接点のない島津製作所の技術の素晴らしさに触れられるのも、本展示の魅力です。

image12 120種類以上から選ばれた15種類の粉末。それぞれ異なる水中での美しい動きが観察できます

案内してくれたのは、島津製作所の竹川さん。

元々島津製作所の創業者が仏具を作っており、岩絵具を使っていたことから、岩絵具の粉や液体の分析を試してみたのが本プロジェクトのスタートだそうです。原材料とそれを粉砕した粉末、また粒子の拡大形状が3Dプリンタで出力されていました。粒子の形はさまざまで、例えば岩絵具はゴツゴツした鉱石のような形、アルミは平たい鱗のような形など、水中での動きは全く異なります。

また同じ素材でも、粒子のサイズを変えることでその動きが変化したり、重めな鉱物は水中での動きが早かったり、水に密度が近い木材は柔らかい動きが観察できます。このように、一つ一つの美しい現象の裏には、さまざまな科学的根拠が見えてきます。

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image43 大腸菌などマイクロメートル単位のものを可視化できる島津製作所の技術を用いて、粒子の拡大形状を3Dで再現したもの

image18 今回の中で一番粒子の小さい酸化チタン。絡まってダマになっていますが、動かすとほろほろと崩れていきます

combine01 左は木の粉末。水に密度が近いため柔らかい動きをします。右は岩絵具。色によって粒子サイズが異なり沈殿速度が異なるため、まるで夕焼け空のような美しさが観察できます

image15 水の5倍の重さのある黄鉄鉱は、早いスピードで沈殿します

展示の仕方も注目ポイント。フレームを電動で制御しているものと、手動で来訪者が動かせるものと、それぞれの粉末のベストな見せ方で什器が設計されていました。美しいインスタレーションでみるものを魅了し、その根拠となるリサーチ結果を見て、心と頭のどちらも刺激される魅力的な展示でした。

使えなくなってしまった思い出の品を粉砕してこの形で手元に置いておけるといいな、と妄想が膨らみました。今後どんな分野でこのリサーチが生かされていくか、楽しみです。

image52 アワードにノミネートされたという喜ばしい瞬間に立ち会うことができました


「Milan Design Week 2024 レポート」は前後編に渡ってお伝えしています。▼後編はこちら

Milan Design Week 2024 レポート 後編を読む


取材・文/加藤 なつみ

知財図鑑 知財ハンター。大学・大学院では感性工学を専攻し、修了後にクリエイティブカンパニー・Konelに参画。プロデューサー / UXデザイナーとして、感性を中心に据えた体験設計を軸に、地域から海外、ブランディングからR&Dまで、多岐にわたるプロジェクトを担当。感覚拡張による感性拡張、文化と美意識、自然、愛着がキーワード。

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