Pickup
2024.05.30
レポート
Milan Design Week 2024 現地レポート 〜日本の挑戦(後編)〜
2024年4月16日〜21日にイタリア・ミラノ市内で行われていた、世界最大規模の家具見本市「Milan Design Week 2024」(ミラノデザインウィーク)。本記事では「日本の挑戦」というテーマで、日本から出展していたチームにフォーカスし、現地に視察へ行った知財ハンターがその様子を前後編に渡ってお伝えします。
▶︎〜日本の挑戦〜 (前編)はこちら
▶︎〜世界のものづくり編〜 はこちら
▶︎「ヴェネチア・ビエンナーレ2024」の歩き方【現地レポート】はこちら
nendo / whispers of nature
デザインオフィス・nendoは、2004年の初出展から20年目となる今年、個展<nendo : whispers of nature>を開催していました。
20年前にはファーネイチャー(faniture×nature)という、自然をコンセプトとしたインテリアをサテリテに初出展。今回は原点回帰という意味も込めて、nendo的な視点で自然からヒントを得たものづくりのプロセスや表現方法で、下記5つのコレクションを発表していました。
出典:nendo
1つめは、light and shade。
光と影の「関係性」から着想を得たもので、2つの対等関係を表現したプロダクトです。普段は表に出てこない金型が表に出てきて、家具としてデザインされていました。普段は捨てられてしまう方、道具として使われている方に着目して組み合わせてみると、他にも色々なインテリアのアイデアが浮かんできそうです。
light and shade。ダイニングテーブルの足と、そこから生まれたスツール
ランプ・シェルフ・時計。型と成形物を合体することで一つのオブジェクトが完成しています
2つ目は、clustered clouds。
「積層する雲」から着想を得たシェルフです。くぼみ部分に本やオブジェが置けるようになっています。雲がもつ形や色というよりも、浮遊感やレイヤー感、実態があるようなないような…そんな雲の”あり方”にインスピレーションを得たそうです。全てパンチングメタルで構成されており、職人による精密板金加工が施されていました。
パンチングメタルで制作されたシェルフ
3つ目は、depth of soil。
土が持つ深さ、またその深さに眠る時間や記憶からインスピレーションを受けた、奥行きのあるテラゾーです。全て6層のアクリルのピースでできており、カラー面と最下層面を変更することで、さまざまな深さを表現しています。配置については、ランダムではなく全てグラフィックデザイナーによって、色・形・配置を2次元からコントロールしデザインされているそうです。
奥行きを感じるテラゾーで制作されたインテリア。近くで見ると、アクリルが積層した様子がわかります
4つ目は、passing rain。
「通り雨」から着想を得たデザイン。その瞬間を切り取ったような、数コンマ世界の時間を表現しています。小雨からザーザーぶりまで表現されており、支柱となっているスティックは、一本で繋がっているもの、上から垂れ下がっているもの、下から伸びているもの、間だけ抜けているものの、4種類で構成されています。静止しているのに動きを感じる、不思議な作品でした。
左から順番に、小雨から段々とザーザーぶりになっていく様子。プロダクトとしてはフルーツボウルを想定しているそうです
5つ目は、pond dipping。
新しいテキスタイルパターンの作り方を展示したもので、糸をインクにディップしたらどうなるか、という実験的な発想から生まれました。平織りは普遍的な技術で、おそらく柄も存在はしているかもしれませんが、柄を生み出す「新しい方法」として、シリンダーの形や角度由来の自然に身を任せる形でテキスタイルパターンを生み出しています。こちらは機能やプロダクトの展示というよりは、プロセスとコンセプトを見せる展示になっています。
シリンダーをディップして作られたものだと一眼でわかるディスプレイ
基本的に今回の展示は全て、プロダクトとしての機能はありつつ、半分はアートピースとして制作しているそうです。また、各コレクションの制作プロセスが一眼でわかるショートムービーにも心を掴まれました。見る人がノンバーバルで、着想点やプロセスの面白さに気付けるプロダクトやディスプレイはさすがでした。来年のnendo作品にも注目です。
カリモク家具
カリモク家具は本会場を含め、4つの会場において展示を行っていました。フォーリサローネでは、SEYUN(Zaha Hadid Design × カリモク家具)、MAS、Karimoku New Standardの3つのブランドがそれぞれの場所で展開されていました。
Zaha Hadid Designとカリモク家具のコラボレーションによって生まれた家具コレクション SEYUN。生前のスケッチを具現化したそうです
黒い下地の上からインジウム塗装されたラウンジチェア。他にもトレー、ハイチェア、ローテーブルの4種類の展開されていました
ヒノキをはじめとする国産の針葉樹を用いる家具のコレクション MAS。酒ますを見立てた角のデザインに注目です
Karimoku New Standard。普段アトリエとして使われている場所で展示されていました
Before Vintage Furniture
新品より10年後がいい。そう思えるような、使っていくほど価値を増していく家具ブランド・Before Vintage Furnitureは、今年初出展でした。北海道の北東部・オホーツクエリアの北見市で生み出されるその家具は、職人の手加工です。質が良いにも限らず市場で値がつかなかった材を扱っており、買い付けの段階で組み立てを見越して形を設計しているそう。加工が大変な分味があり、ナンバリングして一点ものとして販売されています。また買取もやっており、新品の時よりも高く買い戻す取り組みを行っています。扱いづらい木材を加工しているからこそ職人技が光り、使っていくほどどんどん味が出てきます。一つでも自分のライフスタイルに取り入れてみたら、物に対する価値観や時間軸が変化していくかもしれません。
扱いづらい材は加工が大変な分、味があります
YOY / SNOW by YOY
東京を拠点に国内外で活動をおこなうデザインスタジオ・YOYは、雪の結晶に着目した新作シリーズを発表していました。
ランプや花瓶など作品の他に、作品を構成している一つ一つの結晶のデザインも展示されていました。120種類のデザインがあった中から、12種類の雪の結晶がディスプレイされていました。本物の積雪を表現するため試行錯誤の末に生まれた結晶のデザインは、細部までこだわり尽くされています。
細かなデザインが施された雪の結晶は、ソフトアクリルシートをレーザーカッターで切り出すことで製作されています
水に接着剤を混ぜ、塗装用スプレーに入れて均一に吹き付けることで結晶を固め、積雪を表現しています
トヨタ紡織 / CONTINUUM -QUALITY OF TIME AND SPACE-
今年で10回目の出展となるトヨタ紡織の展示は、『CONTINUUM -Roots of comfort-』をテーマに、 聴覚や視覚などの五感を使い、数値化できない心地良さを追求した快適な時空間 "QUALITY OF TIME AND SPACE" を表現したものが、体験できる形で展示されていました。減速と余白を車内空間に持ち込むという考えから、日本文化である、おりん・しけ絹・菅笠(すげがさ)職人との共創で一つの空間が出来上がっています。このような空間が実際に車内に適用されたら、移動時間する方が心地良い、というこれまでと異なった体験価値が生まれそうです。
おりん・しけ絹・菅笠職人との共創で出来上がった空間
博報堂+JT+ユカイ工学 / deep breathing lounge
「deep breathing lounge(呼吸する休憩所)」と題したスペースが、SUPER DESIGN SHOW内に設置されていました。スペース内には、博報堂+JT+ユカイ工学が共同開発した、呼吸するクッション・fufulyと、JTの連結子会社BREATHER株式会社が製造・販売する深呼吸習慣化デバイス・stonシリーズが展示されていました。
小休憩の時間でさえ絶えず情報に触れている現代の私たちにとって、普段無意識に行っている呼吸に少し意識を向けることで、心地よい休息の時間につながります。
呼吸するクッション・fufuly。抱きかかえて使うロボットクッションで、呼吸するような動きが心地よいです
新工芸舎
デジタルファブリケーションを応用した実験的な製品の開発・デザインを行う新工芸舎は、FDM方式3Dプリンタで作ったプロダクトの展示を行っていました。
展示だけでなく、実際に購入することができたり、3Dプリンタで製作途中の様子を見ることができました。
3Dプリンタの特徴を熟知して開発された製法によって生まれるプロダクトは、大量生産と一点もの・デジタルとアナログの曖昧な境界に属し、今までにない温かみと手触りが感じとれました。
地元に根ざしたお店のような雰囲気の展示空間
緩衝材を使った什器が軽やかで可愛らしい製品の印象とマッチしていました
3Dスキャンした石を利用したのせ物シリーズ
奥では3Dプリンタが動いている様子や、実販売も行っています
おわりに
今回初めてミラノデザインウィークを訪れましたが、想像以上に日本からの出展があり、世界に挑戦しているチームがいることを知りました。
展示として鑑賞するだけではなく、実際に触れたり、中に入って体験できるコンテンツは、よりそのコンセプトを来場者に伝えることができます。また世界中から人が集まる祭典だからこそ、ノンバーバルでいかにシンプルに伝えられるかが、多くの展示がある中で重要なポイントになります。
国や企業に関係なく、考え抜かれたコンセプトや新しい体験の提案、こだわり抜かれたデザインは、国境を越えて、見るものの心動かすことができると感じられる視察でした。
「Milan Design Week 2024 レポート」は前後編に渡ってお伝えしています。▼前編はこちら
取材・文/加藤 なつみ
知財図鑑 知財ハンター。大学・大学院では感性工学を専攻し、修了後にクリエイティブカンパニー・Konelに参画。プロデューサー / UXデザイナーとして、感性を中心に据えた体験設計を軸に、地域から海外、ブランディングからR&Dまで、多岐にわたるプロジェクトを担当。感覚拡張による感性拡張、文化と美意識、自然、愛着がキーワード。
▶︎〜日本の挑戦〜 (前編)はこちら
▶︎〜世界のものづくり編〜 はこちら
▶︎「ヴェネチア・ビエンナーレ2024」の歩き方【現地レポート】はこちら