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2024.06.20
レポート
知財ハンターが巡る「ヴェネチア・ビエンナーレ2024」の歩き方【現地レポート】
2024年4月20日(土) 〜 11月24日(日)にイタリア・ヴェネチア市内で行われている、Venice Biennale 2024。本記事では現地に訪れた知財ハンターが、その概要や展示についてピックアップして、その巡り方をお届けします。
知財ハンター取材 「Milan Design Week 2024」(ミラノデザインウィーク)編はこちら
▶︎Milan Design Week 2024 〜日本の挑戦〜 (前編)
▶︎Milan Design Week 2024 〜日本の挑戦〜 (後編)
▶︎Milan Design Week 2024 〜世界のものづくり編〜
ヴェネチア・ビエンナーレとは
ヴェネチア・ビエンナーレは、イタリアの島都市・ヴェネチアの市内各所を会場とする、国際的な芸術の祭典です。1895年に最初の美術展が開かれて以来、約120年続いています。まさにアートの万博とも言えるような、参加国が自前のパビリオンを持つ国別参加方式をとっており、日本含む29か国が恒常的なパビリオンを持ち、間借り会場を含めると約90か国と地域が参加しているそうです。「ビエンナーレ」とは「2年に一度」という意味のイタリア語で、美術展と建築展が隔年で交互に開催されています。
2024年のテーマは、‘Foreigners Everywhere’。多言語のサイネージがディスプレイされていました
舞台は水の都・ヴェネツィア。その街並みを見るだけで、訪れる価値があります
会場について
会場は大きく2つに別れています。一つ目はジャルディーニ会場(カステッロ公園。ヴェネチア市街最大の公園)、二つ目はアルセナーレ会場(旧国立造船所エリア)です。
一つ目のジャルディーニ地区の会場の方が規模としては大きく、日本館はこちらにあります。他にも、オーストラリア・オーストリア・ベルギー・ボリビア・ブラジル・カナダ・デンマーク・エジプト・フィンランド・フランス・ドイツ・イギリス他のパビリオンがあります。もう一つのアルセナーレ地区には、ウクライナ・中国・アイスランド・イタリア・メキシコ・ペルー・サウジアラビア他のパビリオンがあります。
足を酷使すれば、各会場1日で周ることは可能です。ただし人気で行列のできているパビリオンもあるのでその時間を踏まえると、ジャルディーニ会場は2日間あると余裕を持って回ることができると思います。アルセナーレ会場は比較的コンパクトで、導線としても回りやすいため、1日あれば網羅することができます。
右側がジャルディーニ地区、左側がアルセナーレ地区の会場で、ざっくりこのような位置関係です
ヴェネチア市内の移動(水上バス)について
ヴェネチア内の移動は、基本的に水上バスを使います。ヴェネチア駅に着くと、正面に水の都ならではの大きな運河がお出迎え。乗り場付近にチケットマシーンがあるので、滞在日数に合わせてチケットを購入しましょう。乗り口前にはゲートがあるので、チケットをかざして中に入りましょう。
水上バスの乗り口。Googlemapの検索結果にしたがって、指定されたアルファベットの乗り口から乗船しましょう。到着駅のアナウンスは聞き取りづらいので、位置情報もしくは駅のサイネージで降り場所を把握しましょう
チケットの買い方
会場に入るためには、チケットが必要になります。チケットはオンライン(公式サイト)、もしくは会場前にあるチケットカウンターで購入することも可能です。チケットは1日券や3日券など、種類を選択することができます。
右側に見える赤い場所がチケットカウンター。開催初日に訪れたので、チケットを持っていても入場するのに結構並びました
ジャルディーニ地区の会場
アルセナーレ地区の会場
知財ハンターによる注目パビリオン
ここからは、訪れた中でいくつか気になった展示をピックアップして記載します。
日本
まずは日本館です。今年は毛利悠子氏と、史上初の日本館海外キュレーターであるイ・スッキョンによる作品が展示されていました。タイトルは「Compose」。
展示の中心となるのは、作家の代表的なシリーズである、水漏れを作為的に起こし、水が循環するシステムを持つ作品「モレモレ」。空間いっぱいに張り巡らされた水が循環するシステムは、日頃私たちが目にするフルーツやびん、バケツなどの日用品を用いて構成されており、人工物のジャングルのような、知っているもので構成されているのに異世界に入ったかのような感覚になりました。
こちらの作品は、東京の地下鉄で散見される水漏れという小さな「危機」に対して、駅員たちがペットボトルやバケツ、ホースなどの日用品で器用仕事(ブリコラージュ)的に対処する方法に着想を得ているそうです。
作品内では、生のフルーツに電極を刺して常に変わる水分量の変化を電気変換し、電球の光を明滅させたり、太鼓を鳴らしたり、さまざまな日用品で構成されています。展示期間中にも日々刻々と変化する生のフルーツの様子は見ものです。
作品内で使用されている日用品は、ヴェネチア近郊の古道具屋や家具屋などで入手したそうです
中央には正方形の穴があり、2階の展示室から1階を通り抜けるように作品が伸びていました
ル・コルビュジエに師事した吉阪隆正の設計
フランス
日本館のすぐ近くにあるフランス館。入り口の大きなピンクのデジタルサイネージが目を惹きます。中に入ると、カリブ海にルーツを持つジュリアン・クルーゼの生み出す、海をテーマとした作品が大規模に展示されていました。2021年のマルセル・デュシャン賞にノミネートされ、シャネル文化基金の支援を受けているアーティストです。
糸、ビーズ、網等で作られた彫刻が空間全体を埋め尽くし、スピーカーからはシンセサイザーを多用した電子サウンドトラックが鳴り響いていました。また、大型スクリーンにはシュールな水中アニメーションが映し出され、古代の神々の形をした樹脂製の器からはラベンダーの香りが漂ってきます。視覚、聴覚、嗅覚など五感を刺激され、クルーゼの生み出す海の世界に没入することができました。有機的で複雑なその空間にいると、まるでカラフルな海中の世界に潜り込んでいるような感覚になりました。
作品内で特に印象的だったのは匂い。液体から香りがしました
ドイツ
行列必須・大人気のドイツ館。「Thresholds(閾値)」と題して、複数のアーティストの作品で構成されていました。不確実性と大災害が増える今の時代において、国境と境界線は特別な意味を持ちます。
中でも目を引いたのは、Yael Bartanaの作品「Light to the Nations」です。人類を新しい銀河や惑星に向かわせる宇宙船モデルで、人類が地球の人為的な環境破壊や政治的破壊に直面する中で、希望と革新の象徴として機能し、救済手段として活躍するものとして展示されていました。今にも動き出しそうなほど精密に設計されており、ディストピアもユートピアのどちらも彷彿させる作品でした。
スイス
ジャルディーニでの展示の中で一際異彩を放っていたのがスイス館の展示「The Superfictional Atlas of the World」でした。スイス系ブラジル人アーティストのゲレイロ・ド・ディヴィーノ・アモールによる、2005年から続くシリーズ作品の第6・7章に位置づけられる本作品。
来場者を迎え入れるのは「スイスの母」とも呼ばれるヘルヴェティア像を使った噴水作品。目が赤く光り口から水を吹きながら回転し続けています。
続く作品では、ドームプロジェクションやホログラムディスプレイでユニークな映像作品が見られました。フィクションと引用を使用して、事実と現実の境界を曖昧にする手法からは、夢に出てきそうなカオスな物語・パレードのような雰囲気が感じ取れました。
国際色豊かなスイスだからこそできる、中立的・メタ的なアプローチが面白く、見る人に衝撃を与える作品でした。
イタリア
アルセナーレ会場の一番遠い場所にあるイタリア館では、「Due qui / To Hear」と題し、空間全体を使った大きな音響作品と彫刻、インスタレーションが展示されていました。
大きなパイプで組まれた構造の中に音が鳴るパーツが埋め込まれており、作品全体が一つの楽器のように構成され、広い空間に神聖なパイプオルガンの音が響き渡っていました。音源が何箇所かに分かれていて、パイプの中の迷路をさまよいながら音の出どころを探る体験でした。
菩薩と単音の長いパイプオルガンのミニマルな空間・単管パイプで組まれた巨大パイプオルガン・庭園でのパフォーマンスの3作で構成されており、タイトルには「Due qui→ここに2つある」「To Hear→Two Here」の意味が込められています。制作費はなんと日本円にして約2億円だそうです。
本展示は、イタリア出身のMassimo Bartoliniの作品で、過去に「横浜トリエンナーレ 2011」「大地の芸術祭 2012」「瀬戸内芸術祭2022」などにも出展経歴があります。
オレンジ色の部分が音を出すパーツになっています
芝生エリアでパシャリ
おまけ情報
ヴェネチア・ビエンナーレの会場内のトイレとカフェ・レストランは、非常に混み合います。そのため、食事は時間をずらしたり、トイレの位置を先に攻略してから周ることをお勧めします。私たちがアルセナーレ会場を訪れた時は、入り口付近のカフェとトイレは非常に混み合っていましたが、中国館やイタリア館が位置する、奥の方にあるカフェとトイレは比較的空いていました。またショップは会場の出入り口付近に存在するので、帰り際にお土産を求めてぜひ訪れてみてください。
中央の白い建物がトイレです
カフェではカットフルーツやサラダボール、サンドイッチなどが購入できます
おわりに
まさにアートの万博とも言える祭典でした。空間と作品のスケールが段違いで、各国の本気の作品が見れる貴重な機会でした。空間が身体に与える影響が大きく、体丸ごとその世界に没入できる空間作りは非常に大事だなと感じました。
また各国の作品から、言葉や説明が無くとも、なんとなくその国らしさのようなものを感じとれたことが興味深かったです。11月までやっているので、ぜひ水の都・ベネチアに訪れる際には足を運んでみてください。
▼取材・文
加藤 なつみ
知財図鑑 知財ハンター。大学・大学院では感性工学を専攻し、修了後にクリエイティブカンパニー・Konelに参画。プロデューサー / UXデザイナーとして、感性を中心に据えた体験設計を軸に、地域から海外、ブランディングからR&Dまで、多岐にわたるプロジェクトを担当。感覚拡張による感性拡張、文化と美意識、自然、愛着がキーワード。
ハントした知財
都 淳朗1996年徳島県徳島市生まれ。修士(デザイン)。プロダクトデザインと材料デザインを専門にしつつ、文化や常識といった固定観念を破壊・再構築するアート制作を行う。アイデアとテクノロジーの力で、地元徳島県を始めとした地方の価値を再定義する方法を思索している。遠くにあるものよりも、身近にあるのに認識できていない面白いものを探すのが趣味。
「Milan Design Week 2024 レポート」も併せてご覧ください。
▶︎Milan Design Week 2024 〜日本の挑戦〜 (前編)はこちら
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