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2024.05.31

レポート

カンヌライオンズ2024開催直前、2023を俯瞰する vol.3 【その他部門編】

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毎年6月にカンヌで開催される世界最大規模の広告コミュニケーションフェスティバル・カンヌライオンズの受賞作について、20年以上注目してきた株式会社ガリアーノインスピレーションズのクリエイティブディレクター / コピーライター・阿部光史が作品を紹介するこのシリーズ。昨年の受賞作を振り返りながら今年の傾向を予測する連載の最終回です。

今回はフィルム関連部門以外の部門で受賞した、傑出した「面白さ」を持つ作品群を紹介したいと思います。
(取材・文:阿部光史)

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Z世代から古代マンモスまで、観るだけで脳が刺激される作品群!

最初は デザイン部門でシルバーを受賞したマクドナルドの「McDrip」。Z世代の採用の問題を解決するために実施されました。では2分の説明ビデオをご覧ください。

image2 引用元: https://vimeo.com/839571080

仕事を探す際にマクドナルドを選択しないZ世代が急増しているという課題に対し、フィンランドのマクドナルドはファッションを切り口にした解決にトライしました。新進気鋭のZ世代デザイナーVainと提携し、マクドナルドの既存の作業服をリサイクルして最先端のファッションとして生まれ変わらせたのです。

完成した衣装はマクドナルドの店内でファッションショーを行い、実際に発売されましたが、誰でも買えるわけではありません。その条件とはマクドナルドで働くこと!

この施策はメディア費用の700倍以上の価値を獲得し、それまでと比較して40倍のZ世代にリーチしました。また音楽アーティストのリル・ウージー・ヴァートがドレイクとのステージで着用し、ドレイクも自身のSNSでシェアしたことで施策の認知度と申し込みがさらに急増、最終的に求人の応募が63%増えたという結果を叩き出しました。

広告が届かないとされるZ世代とのチャンネルを非常に興味深い手法で切り開いた、interestingに「面白い」施策です。


次に紹介するのは イノベーション部門でシルバーを取ったハイネケンの「The Closer」。働き過ぎのニューヨーカーに仕事を早く終わらせようとする施策です。ご覧ください。

image3 引用元: https://vimeo.com/776580646

このThe Closerデバイスの構造はとてもシンプル。ビールの栓を抜いたことをセンサが検知すると信号がPCに送られ強制的にスリープとなる仕掛けです。しかしこの単純なデバイスが人々に与えた反応は非常に大きく、多くのインフルエンサーが動画を撮影。その映像が拡散されることで爆発的な話題の広がりを見せました。

体験をデザインした施策なので動画でしか楽しさが伝わらない、ここがSNS時代にフィットした「面白い」部分ですね。12000ユニットが製造され115ヶ国で展開されたそうですが、日本で実施されなかったのが残念です。こんな笑えるテクノロジー施策、企画してみたい!


次に紹介するのはイノベーション部門のグランプリを受賞したAUGMENTALの「マウスパッド」です。この「マウス」はネズミのマウスではなく人間の「口」を意味しています。ビデオをご覧ください。

この施策を作ったのはアメリカのボストンにあるMITメディアラボのスピンオフ企業AUGMENTAL社。このデバイスを口の中に入れ、舌を使うことで、まるでマウスを使った時のようにコンピュータを操作できるというものです。このマウスピースによって手に障害を持つ人々のQOL(人生の質)が向上することが期待されています。

しかしさすがは元MIT Media Labのチーム、先程の「The Closer」に比べてはるかに複雑なシステムです。ユーザの舌の位置と圧力をデータに変換する際には、機械学習のアルゴリズムを使って個人に最適な結果を出すように設計されています。すべての人がより良い生き方を等しく得られる「ウェルビーイング」の考え方が深く根付いている施策です。

将来的には障害がある人以外にも、例えばミュージシャンが両手でキーボードを演奏しながら舌で音色に変化を与えたりすることも出来るでしょう。そんな新たな表現の到来も感じさせてくれるSurprisingな「面白い」施策です。


最後はPR部門のブロンズを受賞した「ザ・マンモス・ミートボール」を紹介したいと思います 古代マンモスのDNAをもとに作られた「新しい培養肉」の施策をご覧ください。

食料生産の現場が直面している二酸化炭素の排出問題に対し、解決策としての「培養食肉」が注目されつつあります。しかしこれについて、人々の興味や会話量がまだ十分に足りているとは言えません。この状況の中、このザ・マンモス・ミートボール施策は様々なメディアで「培養食肉」に関する会話が自然発生するようにPR設計されています。

絶滅したマンモスのDNAをベースに、マンモスの近縁種であるアフリカ象のDNAを加えて培養された特別なミートボール。このキャンペーンは開始後2週間で128億人以上のメディアリーチを獲得し、3200以上のニュースメディアで取り上げられ、その結果「培養食肉」についての議論が様々な所で始まるようになりました。

しかしまぁなんといっても「マンモスの肉を食べる」という荒唐無稽な発想に、私達が子供の頃から持っている想像力を刺激する部分がありますね。ドラえもんの恐竜映画の世界のような、あるいはギャートルズ(古い)のマンモスの肉のような。「培養食肉が必要だ!地球を守れ!」というような聞き飽きたメッセージではない独特な手法で、人々のエモーショナルな部分にしっかりとアプローチする構造は非常にInterestingでStrangeに「面白い」と思います。

【面白い】の今を知るにはカンヌライオンズが最適!

ここまで3回の連載を経て、数々のカンヌライオンズの受賞作を観て来ました。2023年は86カ国から2万7千作品が集まり、全30部門の受賞作は900件弱だったそうです。約3%の超狭き門なのですが、連載を読んでいただいた方はそれ以外のショートリストにも良い作品が沢山有ることにお気づきかと思います。ショートリスト以上の作品は計算上では2700作品。それらは何か「面白さ」を持っている作品群なのです。

もちろん2700作品を全て見ることは不可能なのですが、現地に行けばどこかで自分好みの作品との出逢いがある、それがカンヌライオンズです。今年については、深刻になりがちな環境問題を真っ直ぐではなく「面白く」解決しようとする施策が多く出てくる事を期待したいと思います。

日本でもよく紹介される金銀銅だけでなく、ショートリストまで含めた新しい「面白い」を獲得するため、僕は今年も現場に行く予定です(開催期間:6/17-21)。今年参加される方は現地でぜひお会いしましょう。そしてまたここでレポートを行いたいと思います。3回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました!

※CMアイデアカテゴリについて

これらのカテゴリは15年以上前に僕が自分の広告映像研究のために作りブログで発表したものです。33個ありますが、それぞれの詳しい説明はnoteブログをご覧ください。

01立派な状況の中でくだらないことをする / 02ありえない映像をリアルに作る / 03理由のある狂った行動 / 04プライドを傷つける / 05置き換える・例える / 06意外な利用方法 / 07出会う・別れる / 08発情した動物 / 09マニアになる / 10時代を変える / 11大問題化する / 12思い込ませる / 13文字化する / 14勘違いする / 15意地悪する / 16擬人化する / 17過剰にする / 18存在を消す / 19説明する / 20目撃する / 21実証する / 22拡大する / 23誇張する / 24対比する / 25繰り返す / 26引用する / 27なりきる / 28無茶する / 29裏切る / 30間違う / 31隠す / 32グルーヴ / 33アダルト

詳細:https://note.com/mitsushiabe/n/n7909f828f4cb


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
note: https://note.com/mitsushiabe/
blog: mitsushiabe.com

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