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2024.07.24
レポート
世界三大広告賞「カンヌライオンズ2024」現地レポート vol.1【イントロ篇】
フランスはカンヌにおいて、カンヌ映画祭とならんで毎年恒例で開催されるのが、「カンヌライオンズ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)」。
今年も6月17日(月)から21日(金)まで盛大に開催された同フェスティバルを、現地で参加した知財ハンター/株式会社ガリアーノインスピレーションズのクリエイティブディレクター / コピーライター・阿部光史がレポート。全5回の連載のうち、本記事では【イントロ篇】をお届けします。
(取材・文:阿部光史)
こんにちは!株式会社ガリアーノインスピレーションズ/知財ハンターの阿部光史です。今年もカンヌライオンズに参加してきました。参加回数としては6回目となります。昨年は70周年の節目を迎え、盛り上がりを見せたカンヌライオンズでしたが、今年も多くの注目すべき動きがありました。
ユーモアとヒューマニティが今年のテーマ
今年のカンヌライオンズで特筆すべきは、ユーモアとヒューマニティという2つのテーマが大きく取り上げられたことです。特にユーモアに関しては、応募作品のためのサブカテゴリーとして「Use of Humor部門」が新設された点が画期的でした。
2020年から2022年までのカンヌライオンズは、新型コロナウイルス感染症の流行やウクライナ戦争の影響を受け、全体的に暗い雰囲気に包まれていました。リモート開催になった年もあり、受賞作品も「パンデミックをいかに生き抜くか」「失われた青春の悲しみをどのように共有するか」「破壊されたウクライナをいかにして記録するか」といった、人類が直面する課題をクリエイティブな力で少しでも解決したいというメッセージ性の強いものが目立ちました。
しかし、2023年に変化の兆候が見え始めました(詳しくは『カンヌライオンズ2024開催直前、2023を振り返る』を御覧ください)。コミュニケーション手段としてのユーモアを取り戻そうとする作品が増えてきたのです。
そして今年、Use of Humor部門の新設によって、ユーモアはカンヌライオンズのDNAに深く刻み込まれることとなりました。
Humor is Back
Use of Humor部門新設の背景には、データに基づいたユーモアの効果が挙げられるでしょう。ピュブリシスロンドンのチーフクリエイティブオフィサー ノエル・バンティング氏によると、ブランドがキャンペーンでユーモアを適切に使用した場合、消費者がそのブランドから再び製品を購入する可能性が80%向上するという調査結果が出ています。
しかしその一方、ビジネスリーダーの95%はブランドのコミュニケーションにおいてユーモアを使うことを恐れているという課題も指摘されています※。
※出典:オラクル・フュージョン・クラウド・カスタマー・エクスペリエンス(CX)およびグレッチェン・ルービンによる「The Happiness Report」
ピュブリシスロンドン チーフクリエイティブオフィサー ノエル・バンティング氏
バンティング氏はさらに、イギリス固有のドライなユーモアがフランスの広告賞を受賞したことなどを例に挙げ、ローカルなユーモアが国境を超えて通用する可能性を示しました。またバンティング氏をはじめ、PR部門やメディア部門の審査委員長からもユーモアに関する発言が相次ぎ、2024年のカンヌライオンズはまさに「ユーモア回帰」の年となりました。
AIの話題は減少
一方、ここ数年注目を集めていたAI関連の話題は、今年は減少傾向にあったように感じました。またAIの使用をメインの売りにした作品も少なくなりました。生成AIを駆使して数百年前の画家の新作を発表するというような作品も数年前はグランプリを受賞していましたが、今やAIの使用だけで上位に入賞する事はありません。
先ほどのバンティング氏は「AIが作るユーモアはまだ面白みに欠けており、そこに人間が考える価値がまだ残っている」と語っています。
シドニー・オペラハウス:真逆のメッセージを込めた50周年記念作品
他にも様々な変化があった今年のカンヌライオンズですが、この後に続く連載のなかで優秀な作品群をご紹介していきたいと思います。
第一回の今回は、フィルム部門のグランプリから作品を1つ、今年50周年を迎えるシドニー・オペラハウスのために作られた映像作品「Play it safe」をご紹介します。少し長めの音楽作品ですがぜひご覧ください。
オーストラリアが誇る世界遺産、シドニー・オペラハウス。困難な道のりを乗り越えて完成したこの建物は、開業当初は規制概念に打ち勝つ革新的なシンボルとして称賛されました。しかし、年月を重ねるうちにその輝きは失われ、次第に忘れ去られていく存在となっていました。
そこで制作されたのが、この「Play it safe(安全パイで行こう)」です。「わかりやすく行こう、楽な道を選ぼう、安全策を取ろう」という、一見矛盾しているような歌詞が印象的な作品です。
しかし、全体像を見ると、安易な道を選んでいたら、表現者としての存在意義も、この建物も生まれ得なかったという皮肉が込められていることがわかります。ユーモアとシリアスが絶妙に交錯する「Play it safe」は、観る者の心を揺さぶる感動的な作品です。
歌詞の一部をGoogleの生成AIモデル Geminiに訳してもらいました。
シンプルに考えよう
人生は歌のよう
誰もが知っているメロディー
一緒に歌ってもらうためには
シンプルに考えよう
安全策を取ろう人生はゲーム
人は決まりを守るのが好き
だからいつもと同じように
ひねくれてちゃダメ誰もひねくれた奴は好きじゃない
複雑なのもダメ
楽な道を選ぼう遠くへ行きたいなら
抵抗の少ない道を見つけよう
そしてただ進むだけ
首を突っ込むな首を突っ込んだら
首を刎ねられるぞ
後ろに座って批判しようそうすれば誰も君を批判しない
個性的すぎると何も成し遂げられない誰も君の意見なんて気にしない
黙って与えられた役を演じろ
(以下略)
この作品、皆様はどうお感じでしょうか?
次回は【ユーモア・フィルム篇】として、カンヌライオンズ2024 フィルム部門入賞作の中から、FunnyでStrangeでIntarestingでWiredな「面白い」作品たちを紹介したいと思います。お楽しみに!
阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師
クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。
X: @galliano
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