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2024.07.26

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2024」現地レポート vol.2【ユーモア・フィルム篇】

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フランスはカンヌにおいて、カンヌ映画祭とならんで毎年恒例で開催されるのが、「カンヌライオンズ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)」。

今年も6月17日(月)から21日(金)まで盛大に開催された同フェスティバルを、現地で参加した知財ハンター/株式会社ガリアーノインスピレーションズのクリエイティブディレクター / コピーライター・阿部光史がレポート。全5回の連載のうち、vol.2となる本記事では【ユーモア・フィルム篇】をお届けします。
(取材・文:阿部光史)


こんにちは!株式会社ガリアーノインスピレーションズ/知財ハンターの阿部光史です。前回の記事では、ユーモアが今年のカンヌライオンズで重要なテーマであることをお伝えしました。

そして今回は、ユーモアCM好きの阿部光史セレクトということで、一挙7本のCMをご紹介していきます

最初はゴールド受賞作から、Appleの「RELAX: TRACTOR」です。

1: RELAX: TRACTOR 60” / APPLE

広大な平原を走るトラクターとiPhone、そして突然現れるユーモア

広大な平原を巨大なかぼちゃを載せたトラクターでゆっくりと走る男性。退屈な映像が続きますが、突然ダッシュボード上のiPhoneが「目的地まで102マイル まっすぐ進んでください」と喋ります。

この作品はユーモアとストーリー性を巧みに融合させ、iPhoneのバッテリー持続性能をアピールしています。授賞式で上映された時、会場は爆笑と拍手の渦に包まれました。

近年、カンヌライオンズ フィルム部門の常連となったAppleは、今年もその実力を遺憾なく発揮しました。注目すべき点は、この作品がApple社内で企画制作されたという点です。

近年のAppleは代理店に頼らず、社内チームで企画制作を行うケースが増えているようです。その結果、多くの良い作品が生まれていると言えるでしょう。昨年のグランプリ「Relax, it's iPhone – R.I.P. Leon」も素晴らしいユーモア作品でした。

次に紹介するのはタイのゴールド受賞作「WHAT THE FAST!」です。

2: WHAT THE FAST! / KRUNGSRI FIRST CHOICE

タイらしいハイテンポなユーモアで描く、承認の瞬間

ガールフレンドとの仲直り、父親からのお泊りの許可、上司への告白…3つの会話が爆速で展開されるCMです。

一見意味不明な会話ですが、実はこれらはすべて「承認」を求める場面であり、このCMではKRUNGSRI FIRST CHOICEのアプリ決済がいかに早く承認されるかを会話に置き換えてユーモラスに表現しています。

キャスティングや編集が素晴らしく、不思議な愛情とユーモアと説得力があります。バンコク市内で一番早い移動手段として愛用されているバイクタクシーを起用するなど、タイらしい演出も光ります。

タイのユーモアCMが復活!

パンデミックの影響でしばらく鳴りを潜めていたタイのユーモアCMですが、今年は大量に復活しました。これは、タイだけでなく世界の人々が再びユーモアを求めていることの表れと言えるでしょう。

次もタイから、不動産会社Sammakornの「Sammakorn NOT Sanpakorn(サマコーンはサパコーンじゃない)」です。5分とちょっと長くなりますが、ぜひフル尺で御覧ください。

3: Sammakorn NOT Sanpakorn / Sammakorn

企業の悩みをユーモアで表現

税務署を意味するタイ語「Sanpakorn(サパコーン)」とよく間違えられる不動産会社「Sammakorn(サマコーン)」。その悩みをユニークなショートフィルムに仕立てたのがこの作品です。退職を考えているベテラン女性社員を中心に、ユーモアと過剰な演出で会社の魅力を伝えます。

タイの巨匠タノンチャイ監督が復活!

この作品はタイの有名なディレクター「タノンチャイ」氏が久しぶりに監督として携わった事も話題です。10年ほど前まで世界の広告賞を毎年総なめにしていたタノンチャイ監督ですが、近年はその名前を聞く事が激減し引退の噂まで聞こえてきました。

本作はその技が健在であることを伝えてくれる復活作と言えるでしょう。アドフェストではグランプリを受賞しています。

次はタイに負けないユーモア大国イギリスから、UBER TRAINSのCMをご紹介します。

4: UBER TRAINS 'TRAINS, NOW ON UBER' / UBER

ユーモアで新しいサービスをわかりやすく伝える

UBERアプリで電車のチケットを購入できるサービス「UBER TRAINS」のCMです。

普段UBERに乗る時と全く同じ話し方で鉄道の運転手に話しかける複数の勘違いキャラクターが登場し、ユーモアたっぷりにサービスの魅力を伝えます。非常に短い作品ですが、パンチが効いた仕上がりとなっています。短いと言っても30秒ありますがー。

ちなみに僕は今回のヨーロッパ出張でオンライン鉄道チケットサービス「Omio」を使用しました。日本語を選択できるので鉄道でヨーロッパを移動する方にはオススメです。UBER TRAINSは未使用です。すみません…。


ここからはシルバーの受賞作をご紹介。ドバイのユーモア作品「THE MOBSTER(ギャング)」です。

5: THE MOBSTER / FLOWARD

ドバイから届いた、ユーモアとサプライズの花束

犯罪の仕事で何かヘマをやらかしたのか、ある男が車の中でボスの命令により処刑されようとしています。絶体絶命のピンチに陥ったなか、突然ボス宛に花束と誕生日プレゼントが届きます。

それは殺されつつある男自身が事前に発注したものでした。YouTube動画を通して、男がボスにハッピーバースデーを歌います。

ボスの誕生日を覚えていたこと、しかも欲しかった腕時計をプレゼントしてもらったことに喜びを感じたボスは、男の処刑を取りやめることにしました。

顧客ターゲットと制作背景

ブランドの顧客ターゲットは28歳から55歳。この層は海外のテレビ番組や映画を見るのが好きということから、「グッドフェローズ」や「カジノ」のようなダーティーな雰囲気を背景としたストーリーが制作されました。時代や場所を変えた数本のシリーズがあるので、FLOWARDでぜひ検索してみてください。

次はフィリピンからの作品「SUMMER」です。

6: SUMMER / GRAB RIDE-HAILING AND FOOD DELIVERY APP

滝のような汗というストレートな誇張表現

非常に汗っかきの男性が主人公。通勤、オフィスでの仕事、自宅での食事の調理など、あらゆる場面で滝のような汗が流れ続けます。しかし、GRABのクルマに乗って移動し、GRABフードの食事を受け取ると、暑さを感じることなく過ごせるため、汗はすぐに止まると言うストーリーです。この古典的とも言えるストレートさが気持ちいい!

フィリピンの人々はコマーシャルの時間が大好きで、ユーモラスなCMが多いと言われています。このCMもそんなフィリピンCMの系譜を受け継ぐ作品と言えるでしょう。このキャンペーンは大きな反響を呼び、GRABの乗車数は1日の過去最高を記録しました。

強烈なユーモアが続いたので、最後は優しいユーモアを持つ作品をご紹介したいと思います ロバート・デニーロが出演している「BEST FRIENDS」です。ご覧ください。

7: UBER ONE 'BEST FRIENDS' / UBER

ハリウッド俳優とイギリスの新進俳優が織りなす友情のカタチ

UBER ONEは食事やお出かけをする人のための会員制サブスクリプションサービス。誰もが知るハリウッド俳優ロバート・デニーロと英国人の新人俳優エイサ・バターフィールドが登場し、UBER ONEによって2人の友情が急速に高まっていく様子がユーモラスに描かれています。

2人が話しているのは、何か食べてどこかに行くっていいよね、というあまりにもシンプルな会話。しかし素晴らしいスクリプトと音楽の力で、笑ってしまうのに何故か感動してしまう作品に仕上がっています。プロなのに「何故か」なんて言ってしまってすみません。でもこの作品が素晴らしすぎて、上手く微分できないのです…。

このショートフィルムはオンライン及びイギリスの映画館で上映されました。オンラインとオフラインを組み合わせたメディア戦略は非常に効果的だったと言えるでしょう。

7つの作品から見る、ユーモアCMの勢いと応募対策

以上、7つの作品をご紹介しました。Use of Humor部門の誕生をきっかけに、ユーモアCMが多数入賞していることがお分かりいただけたかと思います。

ユーモアは、人々の心を和ませ、笑顔にさせる力を持っています。そしてユーモアCMは、その力を最大限に活かして、商品やサービスの魅力を伝えることができるのです。今回の受賞作は、その可能性を改めて示してくれたと言えるでしょう。

ちなみにこのUse of Humor部門、既にフィルムカテゴリでは激戦区になっています。このレポートを読んで、面白いCMを作ってUse of Humor部門で受賞したいと思った方は、Use of Humor部門だけでなく他のカテゴリも組み合わせるなど戦略的に応募すべきでしょう。

ちなみに「RELAX: TRACTOR」はconsumer goodsカテゴリ、「WHAT THE FAST!」はMicro fillmカテゴリ、「BEST FRIENDS」はConsumer services / B2Bカテゴリで受賞しています。

次回はvol.3【ユーモア・フィルム以外篇】として、フィルム部門「以外」の、ユーモアを感じさせる作品をご紹介したいと思います。お楽しみに!


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
note: https://note.com/mitsushiabe/
blog: mitsushiabe.com
company website: https://ginspirations.co.jp

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