Pickup
2025.04.23
レポート
【品川テクノロジーテラス2025 MIXTURE FUTURE】イベントレポート ⎯企業と地域の人々がMIXし、未来を語り合う2日間
NTTアーバンソリューションズ 株式会社

品川港南エリアを未来の出発点へ
品川港南⎯それは、時代のニーズに応じて進化し続けてきた都市。幕末にはペリー来航を受け、国防の要として砲台が築かれ、明治以降は鉄道や港湾の整備によって交通と物流の拠点として発展しました。高度経済成長期には埋立地を活用して工業地として栄え、その後、商業化によってオフィスビルが立ち並ぶビジネス街としての姿を強めていきました。そして現代、品川駅は新幹線に加え、将来のリニア中央新幹線の起点として、国内外をつなぐ日本の玄関口として注目されています。
現在、この地域には日本を代表するモノづくり企業やスタートアップが集積しています。NTTアーバンソリューションズ主催の「MIXTURE FUTURE 品川テクノロジーテラス2025」は企業間の垣根を超えた交流と、地域住民との連携を促進することで新たな社会ニーズに応える契機となるイベントとして企画されました。
異なる立場や視点を持つ人々が、意見やアイデアを共有することで、多様な要素が混ざり合い、予想を超える創造が生まれる可能性があります。このイベントで特筆すべきは、企業同士の交流に留まらず、地域住民が主体的に参加し、意見を交わす場が設けられている点です。これにより、品川港南ならではの独自の未来を共に描き、形にしていくことを目指しています。
本記事では、知財図鑑の取材ライターがこのイベントの見どころ、品川港南から生み出される新たなテクノロジーの数々をご紹介いたします。
(取材・文・撮影:杉浦万丈)
好奇心を刺激する4つの工夫
このイベントの大きな魅力の一つは、「問い」という形で参加者の好奇心を刺激するところにあります。私たちは普段、すぐに答えを求めがちですが、このイベントでは「良い問いを持つこと」の価値を再認識させてくれます。他のイベントに比べても、会場内での会話が多く、来場者が積極的に話していたのが新鮮でした。
MIXTURE POINT 01:問いからはじまるイベント
来場者はまず受付で、未来について考えるための「問いカード」を1つ選び、これをパスポート代わりに持ち歩きます。来場者は入場時から考えるきっかけを与えられ、それを共有することで、イベントに主体的に参加できる画期的な仕組みです。また、このカードは他の参加者との会話のきっかけにもなります。実際に他の参加者と会話した際には、本質的な問いから自己紹介を始められたので、より深い交流ができました。
MIXTURE POINT 02:企業への開かれたフィードバック
「IDEA BOARD」という企業とのコミュニケーションツールが設置されていました。企業が展示する最新テクノロジーを体験しながら、そこから生まれたアイデアや新たな問いを企業に直接フィードバックできる仕組みが用意されています。自分の何気ないアイデアが、意外にも企業の方々に真剣に受け止められ、開発者と直接対話できる機会を通じて、テクノロジーをより身近に感じることができました。また、企業側も外部の視点から新たな着想を得ることで、思考の幅を広げ、消費者や他企業のニーズを把握する貴重な機会となりました。
MIXTURE POINT 03:交流の促進
3月21日限定で開催される「MIXTURE TIME」。出展企業と来場者が「問い」を起点にディスカッションする交流の時間です。異なる立場や視点を持つ人々が交わることで、新たな発想が生まれていきます。私が参加したグループでは、「技術が進化しても変わらないものって?」という話題で会話が盛り上がりました。特に、「技術が進歩しても、変わりたくないものがあるのではないか?その抵抗感を見極めることが、これからの開発にも必要になっていくのでは?」という意見が興味深く、新たな視点を得ることができました。
MIXTURE POINT 04:体験型のワークショップ
ロボットトイを使ったプログラミング体験やトイドローン操縦など、テクノロジーを実際に体験できる参加型ワークショップが開催されました。年齢を問わず誰でも参加可能なこれらのワークショップでは、子どもから大人まで笑顔で取り組む姿が印象的でした。「テクノロジーは難しそう」という先入観が体験によって払拭され、より身近にテクノロジーを感じることができたでしょう。
展示内容
以下、品川港南エリアを中心とする企業の最新テクノロジーの展示を抜粋して紹介します。どれも革新的で、人々の暮らしを豊かにしていく、非常に価値あるテクノロジーだと感じました。
NTTコムウェア株式会社「IOWNショーケース」—光技術が切り拓く未来の街づくり
「IOWN(アイオン)」とは、NTTが開発する光技術を活用した次世代情報通信基盤の構想。フォトニクス(光)ベースの技術をネットワークから端末まで導入し、従来のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では達成困難だった飛躍的な情報処理能力の向上を実現します。2030年までに電力効率を100倍、伝送容量を125倍、通信遅延を200分の1にするという壮大な目標を掲げています。
「IOWN」は「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」「デジタルツインコンピューティング(DTC)」「コグニティブ・ファウンデーション(CF)」の3つの主要な技術から構成されています。これら技術が実現すれば、昨今の情報量の爆発的増加に伴うデータ量の増加、電力消費問題の解決につながります。加えて、高精度な未来予測によって、持続的で人々の多様性を尊重した社会の実現が近づきます。
会場では、品川と離れた街をリアルタイムにつなぎ、「大容量・高精細な映像伝送によるコンテンツ体験」として、「品川デジタルツイン3D空間没入体験」「XR卓球」などが提供されました。実際の様子を見て、大容量のデータを全く遅延を感じさせないレベルで通信する技術に衝撃を受けました。これらは、光技術をネットワークの全てに(端末にまで)導入する「APN」の発想によって、大容量・低遅延の通信を可能にしています。
「品川デジタルツイン3D空間没入体験」は、会場にいるメンバーだけでなく、他会場の人とも同一3D空間内で、タイムラグなしでゲームをすることができます。
「XR卓球」は街単位で離れている人と、遅延なしで卓球を行えます。複雑な体の動きでさえも、リアルタイムで離れた場所に反映させることができる革新的な技術です。これからのエンタメ産業の基盤になっていくと感じました。遠隔医療などにも活用できそうです。
また「デジタルツインソリューション」として、「City Twin Ops」の展示も行われました。リアルな世界をデジタル空間上に3Dで再現するデジタルツイン技術を用いて、ビルや工場の設備の点検・管理をリアルタイムで行います。遠隔からロボットをアテンドしたり、リアルタイムでデジタルサイネージを変更することで、人流をコントロールすることもできます。
私が一番驚いた技術が遠隔のGPUをリアルタイムで活用する技術です。モニターやキーボード等のUI機器のみで、APNと接続することによって、データセンターのGPUリソースを現地にあるかのように使用することができます。
ゲーミングPCに代表されるように、GPUは比較的大きな設備が必要ですが、小さな端末一つでそれが可能になります。オフィスビルやマンション、複数テナント等でAPNを共有し、低コストでリッチな環境を提供してくれます。
来場者は画期的なIOWNの構想を通じて、自分なりの活用イメージを考えながら、次世代のサービスやユースケースの創出に関しての意見を出し合っていました。
株式会社アジラ・東日本電信電話株式会社(NTT東日本)「AI Security asilla」「ギガらくカメラ」—AIによる防犯・見守りの高度化と効率化
「AI Security asilla」とは、人の姿勢や動きをAIで分析し、事件や事故の予兆を察知・通報できるAIセキュリティシステム。また、防犯以外にも車椅子や白杖歩行の方への「見守り機能」、「混雑状況の把握」や「人数カウント」など幅広い用途に対応します。現在、大型施設を中心に導入が進んでいます。
従来の防犯カメラは「抑止」と「録画」が中心でしたが、人手不足や治安の悪化、無人店舗の増加により、リアルタイムの異常検知、事件・事故の未然防止のニーズがより高まってきています。AIを効率的に活用することで、これらの問題を解決します。
そして、NTT東日本は、アジラのライセンス提供のもと、クラウド型×AIの防犯カメラ「ギガらくカメラ 映像解析オプション MIMAMORI AI」(以下、ギガらくカメラ)の提供を2025年3月31日から開始しました。アジラのオンプレミス型の「行動認識AI」を「クラウド」で実現した画期的なサービスです。
「ギガらくカメラ」は、アジラの骨格推定方式の「行動認識AI」を用いて、人の姿勢や動きをリアルタイムで分析し、不審・異常行動を検知・通知します。検知可能な行動範囲も多種多様です。
実際に、「ギガらくカメラ」が置いてありましたが、その小ささと軽さに驚きました。クラウド型であるため、現地に専用の録画機器が不要で、小規模・低コストで導入できます。またインターネット接続があれば、スマートフォンやタブレットから映像を確認でき、遠隔監視や複数拠点の一元管理ができます。
これまで費用対効果の観点でオンプレミス型の異常検知サービスの導入が難しかった中小規模施設(公共施設やオフィスビル等)、無人店舗、介護施設や保育施設等での利用が可能になります。より低コストで簡単に、しかし高精度に人々を安全を守ることができる画期的なサービスだと思いました。
関連リンク:https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20250321_01.html
ソニーグループ「HANAMOFLOR」—子ども型見守り介護ロボットの可能性
ソニーグループが研究開発中の「HANAMOFLOR(ハナモフロル)」は、子どもの姿と声を持つ見守り介護ロボット。介護施設での見守り支援とQOL向上を目的としており、歌や会話、パタカラ体操、体温計測、電話の取次ぎなどの機能を備えています。
高さ83cm、重さ約20kgのこのロボットは、高齢者が一人になりがちな介護施設のリビングなどでの利用を想定しています。介護手法ユマニチュードに倣った対話方法を採用。ゆっくり近づき目を合わせたり、相手の反応を待ってから対話を進めるなどのシナリオ進行制御技術を実装しています。とても可愛らしいデザインと、親しみのある動きで、私も癒されました。
実証実験では、子どもロボット相手だからこそ、一緒に歌を歌ってくれたり、記憶障害のある方でもロボットのことを覚えてくれるなどの良い結果が出始めています。まだ効果検証中ですが、会話による認知症進行予防、落ち着きを促すことでの転倒防止、日々の健康状態やインタラクション反応の記録によるケア向上などの効果が期待されています。
株式会社NTTドコモ「FEEL TECH®」—触覚で広がる新しい映像体験
「FEEL TECH®」とは、他者の動作や感覚を、受け手の身体や感じ方に合わせて、変換し共有する取り組み。これまで伝えきれなかった感動や感覚、記憶や体験を伝えてくれます。これによって、NTTドコモは、新しいコミュニケーション文化の創造、真に理解し合える社会を目指します。
今回の展示では、ユニバーサル・ピクチャーズの協力のもと提供された映画『野生の島のロズ』のワンシーンを用いて、登場人物の心の動きや体感している感覚を触覚共有デバイスを通じて体験できました。
言葉や音、映像とは違った、表現手段はとても画期的です。実際に試したところ、登場人物の動作や感覚、感情までもが触覚を通じて体験でき、いつも以上に映像に没入することができました。
「FEEL TECH®」は「人間拡張基盤®」という個々人の身体に合わせた動作・感覚を共有できる基盤技術を用いています。映画の体験だけでなく、職人の継承、リハビリテーション、ECサイトの体験など多様な分野での応用が期待されています。
株式会社coordimate「AIファッション診断」—服装の「アリナシ」をAIが診断
「服装がダサいと言われ続けてきた」という創業者の体験から生まれたファッション相談サービス「coordimate」。年齢を重ねるほど服装で減点されることが増えていくのに、なぜ誰も回避方法を教えてくれないのか?という疑問から「ダサさは科学できる」という結論に至り、サービスが開始されました。
ファッション相談アプリ「coordimate(コーディメイト)」は、2024年5月に「AI診断機能」をリリース。投稿された全身のコーディネート画像をAIで分析し、ファッションにおける清潔感の基準を満たしているかを評価してくれます。これにより服装の減点ポイントを可視化し、ユーザーのファッションコーディネイトをサポートします。
展示では、鏡にディスプレイとカメラが搭載された「スマートミラー」を使って、実際にAIがファッションの採点をしてくれました。診断は「全体バランス」「シルエット」「配色」の3項目で評価され、世間一般的に見て「ダサい」と思われないための基準を計ります。さらに、AIスタイリストの画像生成によって、おすすめのコーディネートを提案してもらえます。もし、より個性的なファッションを目指す場合は、相談機能の「mate」に相談することが推奨されます。
なかなか周りに相談することが難しかったファッション。「ぶっつけ本番」で失敗したことがある人も多いと思います。失敗できる場所=AIの診断によって、安心してファッションに挑戦する世界が目指されています。
コクヨ株式会社「デジタルファブリケーション技術による共創」—ものづくりが人のつながりを深める
働き方の多様化に伴い、一人ひとりの「個性」を尊重した場所づくりに取り組むコクヨが注目するのが「デジタルファブリケーション技術」。この技術に関する専門知識を持つVUILD社をパートナーに、デジタル木材加工機「ShopBot」を導入し、3DCADで設計したデータから直接、内装や家具、アート等をオーダーメイドで製作できる環境を整えています。実際に、ある企業のオフィスの内装では、社員が「ShopBot」で加工したパーツを仕上げたりするなど、共創によるオフィスづくりを行い、社員のつながりを深めています。
この技術の最大の特徴は、コストがかかる金型や大量の資材を用意しなくても、一点物のモノづくりが可能な点にあります。また、デザインや製作のハードルが低いことから、ユーザーの意見を反映しやすいのも大きな利点です。写真右上にあるクマの形の椅子は、子どもの描いたイラストをもとに「ShopBot」で加工して制作されたものです。こうした低コストでのオーダーメイド家具づくりによって、使う人が愛着を持ち、長く大切に使い続けられる製品を生み出すことができます。
コクヨの既製品オフィスチェアの座面の3Dデータを使って、新たに木材で加工した椅子も展示されていました。木材でもオフィスチェアの凹凸をしっかりと再現できています。実際に座ってみましたが、身体にしっかりフィットする座り心地で良かったです。従来、人間の身体の形状に合わせた木材の家具は、加工の難易度から高価なものに限られていましたが、この技術により、より安価に一人ひとりの身体を大切にできる家具づくりを行なっていけると感じました。
加工された木材は、コクヨの既存の椅子のフレームやテーブルの脚などと組み合わせることも可能です。上記の写真は、コクヨの学校用デスクのパーツに、ShopBotで切り出した座面を組み合わせたラウンジチェアです。組み合わせに自由度を持たせることで、顧客ニーズに合わせた柔軟な対応をすることができます。
「作り手」と「使い手」の垣根をなくす「共創」という考え方で、人々の環境はより個性的で豊かなものになっていくでしょう。
企業と地域が創る未来の形
テクノロジーを軸にして、企業間の連携や地域住民の参加によって実現した「MIXTURE FUTURE 品川テクノロジーテラス2025」は、単なる展示やショーケースではなく、人々の「問い」や「アイデア」を実際のプロジェクトにつなげていく、まさに「共創の実験場」と言えるものでした。品川港南エリアが国内外を結ぶ交通のハブになっていくように、このイベントも多くの要素が混ざり合うダイナミクスのあるイベントとして、大きな魅力を感じました。特に、「問いカード」や「IDEA BOARD」によって、自分自身が見て・感じて・考えたことを、ダイレクトに発信・共有できる仕組みが用意されているのは、まさにこのエリアのオープンマインドな土地柄を象徴していると思いました。
今回ご紹介した技術や取り組みの数々は、いずれ私たちの生活に当たり前のように溶け込み、新しい文化や暮らし方をつくり出していくはずです。品川港南エリアがこれまでたどってきた歴史と、多様な人々の知恵や熱意が交わる場が組み合わされば、きっとワクワクする未来が築かれていくことでしょう。企業も地域の人々も、一人ひとりが問いを持ち、そこからつながり合いながら未来を共創していく、その姿こそが、これからの品川港南らしい「新たな出発点」なのかもしれません。
(取材・文・撮影:杉浦万丈)
【品川テクノロジーテラス 2025】
開催日時 :2025年3月21日(金)〜22日(土)
開催場所 :品川シーズンテラス、NTT品川TWINSアネックスビル
主催 :品川港南2050プロジェクト事務局(NTTアーバンソリューションズ株式会社)企画運営 :株式会社丹青社
協力(会場) :NTTコムウェア株式会社、品川シーズンテラス
協力(企画) :ランニングホームラン株式会社、株式会社花咲爺さんズ