No.079
2020.01.31
生物学的時間を遅延させる「クマムシ化」
「バイオスタシス」プログラム
概要
「クリプトビオシス」は、極限環境における無代謝状態(測定限界以下の代謝状態)。たとえば「クマムシ」は、極度の乾燥状態に曝されると生存のために自身の代謝を停止させ、生物学的時間を遅らせることができる。近年、この「クリプトビオシス」を負傷者の救命に応用すること(ここでは「クマムシ化」と呼ぶことにする)が米国国防総省によって「バイオスタシス」プログラムとして計画されている。負傷者の救命率は負傷後最初の1時間で適切な医療機関へ送れるかどうかに依存するが、特に戦場において、迅速な搬送・救急対応は難しいとされている。もし「クマムシ化」により、負傷者の体内で起きている生化学的反応を停止・遅延させられれば、生体システムの崩壊までにかかる時間を延長することができる。現在、分子・細胞を対象とした研究が行われているが、将来的には、組織・人体レベルにまで対象範囲を広げ、ヒトの細胞・組織を傷害なしに冷凍・解凍できるようにすることが期待されている。
なにがすごいのか?
クマムシという他種生物の生存戦略に倣った延命技術(バイオミミクリー)
負傷・感染後の生体システム崩壊までの、生死を分ける限られた時間を延長
戦場での負傷者のみならず食品や医薬品の貯蔵・冷凍保存へも応用可能
なぜ生まれたのか?
負傷してから死に至るまでの生死を分ける限られた時間(ゴールデンアワー)内に救急搬送を行うため、ロジスティクスや治療技術の向上が目指されてきた。一方で、負傷者自体の状態を変化させるアプローチも考えられてきた。そのアプローチの一つとして、2018年3月1日、米国国防総省が「バイオスタシス」プログラムとしてクリプトビオシスの分子・細胞レベルでの研究をスタートさせた。
なぜできるのか?
水分損失の抑制
クマムシをはじめとする緩歩動物は、塩イオンセンサーを通じて乾燥を検知。乾燥状態において身体を丸めることで、クチクラ層の薄い節間膜を内側に陥没させ、体内水分の損失を抑える。
生体保護のためのトレハロース
同じく乾燥状態において、生体成分保護物質であるトレハロースの合成誘導が促進され、トレハロースが蓄積される。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
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