No.335
2021.06.02
蛾の眼を模倣した反射防止フィルム
モスマイト
概要
モスマイトは蛾の眼(モスアイ)が有する微細な凹凸構造を模倣した高機能フィルム。蛾の持つ、夜間のわずかな光をより効率的に取り込むために反射を極力抑える複眼の仕組みを応用しており、高い透明性を保ったまま表面での反射を抑えることができる。額装・ショーケースなどディスプレイや、建材・塗装代替用途など幅広い分野で効果を発揮しており、透過と視認性を応用した新たな手法や表現の素材として期待されている。
実現事例 実現プロジェクト
吾輩(わがはい)の猫展 2017
日本画や洋画を中心に現代作家70人がネコをテーマに作品を手掛ける「吾輩(わがはい)の猫展」(2017年開催)が額装にモスマイトを使用。作品に目を凝らせば凝らすほど自分の姿や展示室の照明の写り込みが目に付き、細かい部分や絵の本来の色が見にくくなってしまうという、従来使用されていた透明のガラスやアクリル板のデメリットを補った。
air hanger(エア ハンガー)
「air hanger(エア ハンガー)」は、モスマイトを使用したアクリル板を活用した“目に見えないハンガー”。Material ConneXion Tokyoの出品を目的にCreative Technologistの諸星智也によって製作された作品。アパレルの店舗での活用や、商品撮影における応用が期待されている。
なぜできるのか?
蛾の眼が有する微細な凹凸構造を模倣したバイオミミクリー
ナノメートル(nm:1メートルの10億分の1)サイズの小さな突起が並んでいる蛾の目を模倣したモスマイトの表面には、高さ200ナノメートルの突起が100ナノメートルの間隔で並んでおり、この突起の幅が可視光線の波長よりも狭いことで光の屈折率の変化が緩やかになり、光の反射を抑制することが可能となる。
視認性を高めるモスアイ型ARコーディング
従来の多層ARコーティングよりも広い波長域で光を反射しないモスアイ型ARコーティングは、フィルムを通しても色味の変化がほとんどなく、斜めからでも見やすいという特徴がある。そのため、明るい場所でも画面が見やすくなったり、展覧会でガラスが光って絵が見えにくいなどの現象を回避できる。また、モスマイトは防曇性能も併せ持っているため、温度や湿度などの環境に左右されず使用できる。
安価での量産が可能
アルミ板には、電気を流しながら酸性の液体に浸けると、表面に多くの穴が開いた酸化アルミニウム(アルミナ)の被膜が形成され、液の濃度や電気の強さを調整することで、一定間隔に揃った穴ができる性質がある。この性質を利用して円筒状のアルミ表面に無数の穴を開けて鋳型を作り、この鋳型にフィルムを抱かせて、回転させながら樹脂を流し込んで固めることで、フィルムの上にモスアイ構造ができる。モスマイトは、この技術によって継ぎ目なしの大面積で製造することができるようになり、安価での量産が可能となっている。
相性のいい産業分野
- メディア・コミュニケーション
展示や美術館における、光が反射しない見やすい額装
- 生活・文化
家事をしながらも幼児の様子をすぐに確認できる透明ベビーゲート
- アート・エンターテインメント
見えない壁が行手を阻む「超難関脱出ゲーム」
- 流通・モビリティ
超クリアな窓ガラスで風景を楽しめるモスマイト列車
- 製造業・メーカー
見栄えを邪魔することなく会話を楽しめる「フェイスシールド」
- 教育・人材
より鮮明に中身が確認できる「モスマイト活用アクリル実験器具」
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © Getty Images