No.370

2021.07.15

機械学習と記号推論を融合させた人工知能

ニューラルシンボリックAI

ai

概要

ニューラルシンボリックAIとは、人間が信頼できるAIをつくろうとするAI研究の概念あるいはAIそのもの。従来のAI研究で分離されていた二つの潮流「機械学習」「記号推論」を有機的に融合することで、人間の解釈しうるメカニズムを説明することができ、不確実性にも対処できるAIを構築する。将来的にはあらゆる分野のAIがニューラルシンボリックAIとして今より常識的に振る舞い、人類未踏の仮説や洞察を導くように発展することが期待されている。

なにがすごいのか?

  • データのノイズや不確実性といった不測の事態に対応

  • 結果に至るメカニズムを人間が分かるように説明可能

なぜ生まれたのか?

AI研究では二つの潮流「機械学習」「記号推論」がありながら、これらは分離したまま発展してきた。昨今、デジタルプラットフォームの整備拡充やセンシング技術の発展に伴い、あらゆる分野でビッグデータが蓄積されるようになり、ディープラーニングで高精度に予測・分類するAIが開発されてきた。しかし、与えられたデータにフィットしただけのAIは常識的な推論や説明の能力を欠き、いくつかの人道的な問題さえ起こしてきた(黒人をゴリラとタグ付けしたGoogleの画像認識問題、陰謀論に染まり不適切発言で公開停止となったMicrosoftのチャットボット問題、事故を起こした自動運転車の責任所在の問題など)。そこで、人間がAIを信頼して使えるべく、メカニズムを説明でき不確実性のあるデータにも柔軟に対応できるAIを構築する必要性が高まってきている。

なぜできるのか?

実世界の観測と知識を形式世界に落とし込み数値的・記号的に処理

「機械学習」は大規模データから規則性を発見することに長けた数値処理であり、観測するデータはしばしばノイズや不確実性を含むが、学習モデルに大量のデータを与えることで頑健なパターンを見つけられる。ただし学習には、与えられたデータに適合するあまり予想外の変化球に対応しづらく、その結果だけを見て人間が常に解釈可能であるとは限らない。一方で、「記号推論」は、私たちが日々獲得する知識を定式的に表現することに長けた記号処理である。因果関係や相関関係を論理プログラムに変換して繋ぎ合わせ知識表現・推論することで、新しい仮説を発見したり得られた結果の背後にあるメカニズムを説明したりすることが得意とされる。こういった機械学習と記号推論を融合して、それぞれの強み弱みを補完し合い、思いがけない知識の発見や洞察を得ることができる。

相性のいい産業分野

生活・文化

プロジェクトメンバーの人間関係や健康状態も加味しながら、最適な勤務表を作成するスケジューリングAI

AI

周囲環境の情報も用いて人の表情をセンシングして回答するビジュアル質問応答AI

アート・エンターテインメント

ゲームのルールと大量のリプレイ映像を学習しプレイヤーの戦略を先読みし、悪い手癖を指摘してくれる「賢いゲームAI」

流通・モビリティ

交通ルールにまつわる知識を組み合わせることで危険を推論し一時停止できる自動運転支援システム

製造業・メーカー

災害時の物資調達において挙動の意図を認識し、最適な配置につく「目的認識ドローン・レスキュー隊」

医療・福祉

放射線照射下での培養細胞の増殖・分裂を捉えた映像から、がん放射線治療の標的となる細胞周期段階を予測

この知財の情報・出典

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