No.1026
2025.03.31
独自バイオ3Dプリンティング技術で実現した、ヒト細胞由来の肝臓機能デバイス
ヒト3Dミニ肝臓

概要
「ヒト3Dミニ肝臓」は、人体の肝臓機能を体外で再現する世界初の機能性細胞デバイス(Functional Cellular Device: FCD®)。独自開発されたバイオ3Dプリンティング技術を用いて、スキャフォールド(足場材)を使わず、ヒト肝臓由来の細胞だけで約1mmの球状体として製造される。従来の細胞培養では実現できなかった安定性(1ヶ月間で90%以上の生存率)と高い代謝機能を持ち、長期間の薬物評価試験や高感度な代謝試験が可能となった。将来的には動物実験の代替法としての活用も視野に入れており、化粧品開発や機能性食品の安全性評価など、幅広い産業分野での活用が期待されている。
※スキャフォールド:細胞を支える足場となる構造物。人工材料や動物由来材料が使用される。
なぜできるのか?
独自バイオ3Dプリンティング技術による細胞のみで作られた立体構造
サイフューズの「剣山メソッド」と呼ばれる独自手法により、スキャフォールドを使わずに、細胞だけの三次元組織を作りだした。従来の細胞培養モデルでは、スキャフォールドとして動物由来の材料を必要としたり、細胞を積み上げた際に内部の細胞に酸素や栄養が届かず壊死する問題があった。ヒト3Dミニ肝臓では、まずヒト肝臓由来の実質細胞と星細胞からスフェロイド(細胞塊)を形成。これらを剣山状の針に積み上げて三次元構造を構築し、培養過程で細胞が自然に融合して一体化して組織となる。この剣山状の針を用いた「剣山メソッド」の手法により、従来技術では難しかった、スキャフォールドフリー(足場材を必要としない100%ヒト細胞由来)の均質で再現性の高い組織が完成した。さらに、肝小葉と同じ1mmサイズを実現した。
※スフェロイド:細胞が集まって形成された球状の塊。 ※肝小葉:肝臓の機能単位となる小さな集合体組織。
臓器機能の精密な再現と高い薬物代謝機能
完成したミニ肝臓は、ヒト肝臓に類似した代謝機能を有する。CYP3A4をはじめとする薬物代謝酵素の活性が高く維持され、通常の細胞培養と比較して圧倒的に高い代謝能力を実現した。また、幅広い化合物の代謝経路解析や毒性評価が可能。例えば、低分子医薬では、肝細胞の生存率、アルブミン分泌率、エクソソーム中のmiRNA量の3つの指標を用いて高感度の毒性評価を得た。これにより、医薬品の開発段階で、より早期に有害な影響を見極めることができるようになる。また近年注目されている高分子医薬の核酸医薬においても有効で、ヒト特有の遺伝的要因に基づいた毒性評価ができ、新薬開発の成功率を向上させることが期待される。
※CYP3A4:肝臓で薬物代謝に関わる重要な酵素の一種。※アルブミン:血液中に最も多く含まれる栄養や薬物を運搬するタンパク質。※エクソソーム:細胞から分泌される小胞で、タンパク質や核酸(DNAやRNA)などを含む。※低分子医薬:小さな分子サイズで細胞内外の標的に作用しやすい化学合成医薬品。※高分子医薬:主にタンパク質や抗体、核酸などの大きな分子からなるバイオ医薬品。 ※核酸医薬:核酸(DNAやRNA)を利用した医薬品。
長期アッセイへの対応と容易な取り扱い性
従来の2D培養の肝細胞モデルでは、細胞が数日以内に機能を失い、長期間の評価が難しいという課題があった。ヒト3Dミニ肝臓は、約1ヶ月間にわたって90%以上の生存率を維持できる安定性を持ち、長期間の薬物暴露試験や慢性毒性評価が可能になった。それにより、低クリアランス化合物の評価も簡便かつ高感度に実施できる。また、培地交換は週1回程度と管理が容易で、96ウェルプレートに1個ずつ配置された形で提供される。これにより、研究者は複雑な操作なしに再現性の高い評価が行える。
※アッセイ:生物学的な活性や機能を測定する実験。 ※低クリアランス化合物:体内での代謝・排泄が遅い薬物。 ※96ウェルプレート:実験に用いる96個の小さな穴(ウェル)がある平板。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
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