No.602
2022.02.17
時代を超えて進化を続ける、プリンティング・テクノロジー
印刷技術
概要
「印刷技術」とは、インキにより紙などの媒体に文字や絵、画像を転写・再現する技術群である。印刷技術のルーツとなる木版による印刷は7世紀頃には東アジアで行われていたと考えられているが、1450年頃にドイツのヨハネス・グーテンベルクによって確立された「活版印刷」により印刷技術が世界に普及、その後「オフセット印刷」が開発され現代印刷へとつながった。近年は紙媒体への高精細かつ高速な印刷に加え、車体や模型といった立体物に印刷する技術や、設計図をもとに立体的なプロダクトを印刷生成する3Dプリントなど、さまざまな形状・媒体への出力を可能とした技術として発展を遂げている。
妄想プロジェクト 妄想プロジェクト
最寄りのコンビニで手軽に出力「2.5Dウェアのオンデマンド印刷機」
2.5Dプリント技術が確立されることによって、印刷機だけで洋服がつくれるようになるかもしれない。全国のコンビニに「2.5Dウェア」用のオンデマンド印刷機が設置されたら、消費者は好みのサイズ、素材、色などを選択するだけで、自分だけの洋服を手にできるだろう。これは、多くのクリエイターにも大きなインパクトを与えるはずだ。洋服のデザインを2.5Dプリンタ用の出力データに変換できるソフトウエアが普及すれば、多くのデザイナーやブランド、さらには一般消費者までもが2.5Dウェア市場に参入するかもしれない。在庫や輸送のコストやリスクを負うことなく、全国のコンビニで自らデザインした洋服が販売でき、業界最大の課題である廃棄の問題も解決し得る2.5Dウェア印刷機は、アパレル産業に大きな革命をもたらすだろう。
印刷の可能性を拡張する匠の技「記憶効率を倍増させる工芸印刷」
巷の学習コンテンツの多くがデジタル化する中、とある印刷技術者が、使い込むほどにアジが出て愛着が湧くことを売りにした「工芸印刷」という独自の技術で一冊の教科書を製作する。後にこの教科書を導入した学校の生徒たちの成績が飛躍的に伸び、これに目をつけた研究者によって、「工芸印刷」に記憶の定着を倍増させる効果があることが証明される。一躍脚光を浴びることとなったこの印刷技師には、印刷業界としては異例の褒章が国から与えられ、各種メディアからも引っ張りだこに。これを期に、受け手の五感に訴えかける印刷技術を追求するムーブメントが生まれ、人間の能力を補完・拡張するという印刷物/印刷技術の新たな可能性にさらなる期待が寄せられるようになる。
冷蔵庫体験を激変させる 「スマート食品パッケージ by IC印刷」
冷蔵庫にある食材の情報をもとに、賞味期限の通知やレシピの提案などをしてくれるスマート冷蔵庫。その利便性とは裏腹に、在庫データの登録作業などがネックとなっていたが、ICタグ印刷の技術を活用した「スマート食品パッケージ」の登場によって状況は一変するだろう。食品の情報が書き込まれたICタグをスマート冷蔵庫が読み取るため、ユーザーは一切の作業をすることなくスマート冷蔵庫の恩恵を受けられるようになる。ICタグを大量かつ安価に印刷できる技術は、賞味期限をはじめ商品ごとに異なる情報を埋め込む必要がある食品パッケージと相性が良く、生分解性の包材を用いることで環境負荷も抑えられる。こうしたさまざまな利点からスマート食品パッケージは急速に普及し、生活者の食生活に革新がもたらされるはずだ。
なぜできるのか?
世界最古の「木版印刷」
「木版印刷」は東アジアで7世紀から8世紀頃に発明されたといわれる印刷技術。文字や絵を彫り込んだ木の板にインキを塗り、図柄を転写する。紙に印刷された木版印刷の最も古い例は7世紀半ばに中国で見つかっているが、現存する印刷物では日本の『百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)』が世界最古とされており、その手法は木版説と銅板に文字を鋳造して印刷した銅凸版説の二説がある。
大量印刷を可能にした「活版印刷」
「活版印刷」は文字や記号を彫り込んだ型(活字)を組み合わせて版を作り、そこにインキをつけて印刷する手法。15世紀、ドイツのヨハネス・グーテンベルクは、ブドウ絞り機を改良し活字を紙に押し付けるプレス印刷機を考案。書籍の大量印刷を可能にし、金属による活字はタイポグラフィやフォントの作成へとつながった。
高速印刷を可能にした「オフセット印刷」
「オフセット印刷」は、大きなドラムに版を湾曲させて取り付けドラムを高速回転させながら版に付けたインキをブランケット胴に転写(オフ)し、紙に転移(セット)して印刷する手法。短時間に大量の印刷が可能であり、新聞や雑誌などの印刷に多く用いられる。専用の建屋を必要とする大型のものから、可搬式の小型のものまでさまざまな形態がある。
データを紙に転写する「レーザー印刷」
レーザープリンターで採用されている「レーザー印刷」では、パソコンから送られるデジタルデータに基づいてトナーが印刷機の感光ドラムに吸い寄せられ、吸い寄せられたトナーが紙に転写し熱定着することでイメージが描かれる。PC上のデータをプリントするDTP(デスクトップパブリッシング)の進化において重要な役割を果たした。
相性のいい産業分野
- 生活・文化
使い心地や触り心地によって人の感情に作用する印刷物
- メディア・コミュニケーション
視覚や脳の情報を自動で印字することで情報伝達できるコミュニケーション技術
- AI
アナログな紙媒体とデジタル情報やガジェットを複合して楽しむことができる次世代の読書体験
- IT・通信
電子情報を手軽に紙やパッケージに組み込むことができるICチップ印刷
- 資源・マテリアル
3Dプリントならぬ、紙と立体物の中間となる「2.5Dプリント」
- 教育・人材
暗記力など、人の記憶や学習意欲に作用するような印刷技術の発明
- 環境・エネルギー
より環境負荷の低い紙やインキが開発されることによるサステナブルな印刷産業の構築
- 食品・飲料
商品パッケージや食べ物自体に、あらゆるトレーサビリティ情報を印字
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
詳細な情報をお求めの場合は、お問い合わせください。
Top images:© Getty images
「妄想プロジェクト」TEXT:原田 優輝