No.708

2023.08.01

自分と周囲の空間を瞬時に認識し、地図を作る技術

Scan SLAM(スキャン スラム)

ScanSlam

概要

「Scan SLAM」とは、瞬時に周囲の空間と自己位置を認識し、地図を生成する技術。部屋の形状や室内の人・物を認識し、全周囲の地図を構築して、自律走行ロボットなどに情報を提供する。従来のSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)よりも処理速度が速く、自己位置把握の精度が高いため、リアルタイムで正確な地図情報を提供できる。ロボットや乗り物だけでなく、AR・VRなどバーチャル空間への活用や位置特定デバイスへの展開などが期待される。

なにがすごいのか?

  • リアルタイムに全周囲と自己位置を特定し地図を生成する

  • レーザやカメラなどのセンサ情報を高速かつ高精度に解析し空間を把握する

  • データ蓄積による地図の歪みと負荷を低減する技術

実現事例 実現プロジェクト

CanguRo

CanguRo(カングーロ)

「CanguRo」は、普段はロボットとして人をアシストし、移動する際は変形して乗り物になる、搭乗型・知能ロボット。千葉工業大学未来ロボット技術研究センター fuRoが、最新のロボティクスとAI、「Scan SLAM」技術を用いて開発した。通常は「ロイドモード」(ロボット)で、コミュニケーションしたり主人の後をついてきたりと、パートナーとして人に寄り添う。遠方からスマートフォンやタブレットで呼び出すと、指定場所まで自動操縦で迎えにきてくれたりもする。主人が移動したい時は、「ライドモード」に自動でトランスフォームし、走行可能な形態に変わる。また”人機一体感”を味わえる機能も実装。本体にはボディソニックスピーカーを内蔵しており、サドルの振動を通じて移動スピードを体感できる。ハンドルには力覚フィードバック機能を実装し、旋回時の回転半径も体感できる仕様としている。安全性にも配慮し、万が一事故を起こしそうになった際は未然に衝突を回避し自動ブレーキが働く、スマートストップ機能を実装している。単なる乗り物ではなく、馬に代わる人の新しいパートナーというコンセプトで、シニアをアクティブ化するなど社会活性にも寄与すると期待されている。

意匠登録第1644482号

次世代ロボット掃除機

次世代ロボット掃除機 by パナソニック・千葉工業大学

「次世代ロボット掃除機 by パナソニック・千葉工業大学」は、2018年11月に共同開発された次世代ロボット掃除機のコンセプトモデル。「Scan SLAM」と、AI技術、ロボット技術、自動操縦技術などが用いられている。「Scan SLAM」と360°レーザセンサシステムで、部屋全体と人や物を検知して地図を構築し、正確な走行位置を特定。AI技術で充電台の位置も把握できるため、掃除終了後は自動で充電台に戻る。自動車にも用いられている自動操縦技術と「Scan SLAM」を組み合わせて、タブレット端末で遠隔から掃除場所を指定して走行させる機能も搭載している。また「Scan SLAM」の動体認識技術とAIによる動き予測制御技術で、掃除したい場所を歩くとついてきて掃除してくれるotomo機能も実装。人とロボットが共同作業のように掃除する体験も提供している。そのほか、AI技術と複数のレーザ距離センサで床面の物体を認識する「AI床センサ」も搭載。ラグなどを検出すると、段差に応じて自動的に本体を持ち上げて乗り越え走行を続ける。パナソニックは、本コンセプトモデルをベースにさらに開発・製品化を進め、20年4月に「ロボット掃除機RULO(ルーロ)」の販売を開始している。

特開2021-10761
意匠登録第1608987号、1608988号、1608989号

なぜできるのか?

複数センサを組み合せた位置情報の把握

複数のセンサデータで解析を行うセンサ融合技術を用いることで、高精度な位置推定を可能にしている。レーザの反射光による対象物までの距離計測や、カメラの複数画像認識による計測、車輪型ロボットの場合は移動した車輪の回転数や距離など。それにより、周囲の物体の多寡などの条件が変化しても左右されない、高精度な位置推定を可能としている。

センサデータの点を融合させて地図を生成

地図生成にあたってはまず、複数センサから得たデータの点から、同一と推定される点を見つけ1個のマップ点を生成する。マップ点の選定には機械学習の1つであるクラスタリングを実施。データ間の類似度でグループ分けして代表となる点を選定する。選定されたマップ点をつなぎ合わせ、地図を構築している。

地図の歪みを減らし機械の負荷を低減する技術

継続的にSLAMを行うと次第に誤差が累積し、地図が歪んでいく。それを解消するため、同じ場所に戻ってきたらその地点で地図形状が一致するように周回経路の軌跡を修正する、ループとじ込み技術を用いている。一方で、ループとじ込みは蓄積した全センサデータをもとに処理を行うため、時間とメモリを消費する。そこで、蓄積されるセンサデータの内、情報が古く有効性の低いデータを削減する技術を開発し、負荷低減も図っている。

相性のいい産業分野

ロボティクス

掃除して欲しいところに呼ぶと来て終わったら自分で戻る掃除ロボット

流通・モビリティ

呼ぶと好きな場所まで迎えにきてくれる乗り物

IT・通信

AR技術と組み合わせたナビゲーションシステムの開発

生活・文化

子供や高齢者向けの自宅に帰れるデバイスの開発

アート・エンターテインメント

街中のディスプレイや窓を使い、参加者が来ると表示されるARゲーム

この知財の情報・出典

再公表特許WO2020/026294
特許第7199772号
商標登録第6192759号、第6229309号

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