No.711

2022.05.09

従来の30倍の強靭性を誇る3分岐構造のゲル

伸びすぎるゲル

伸びすぎるゲル

概要

「伸びすぎるゲル」とは、理論限界の90パーセントまで破断せずに伸びる3分岐構造のゲル。ゲルを構成する高分子の網目は通常4方向に枝分かれするが、分岐数を3つに減らすことで、従来の30倍以上伸びる性能を持つに至った。人工の腱や靭帯用のゲル材料としての利用や、材料寿命を延ばしたり、添加剤を削減したりするなど環境への負荷を低減させる効果も期待される。

伸びすぎるゲル

伸びすぎるゲル

伸びすぎるゲル

なぜできるのか?

3分岐構造で従来の30倍の耐久性

ゲルは、ひも状の高分子鎖の間に橋を架ける架橋反応で作製される。2本の高分子鎖を架橋すると、4方向に枝分かれした分岐点ができるのが一般的だが、3分岐構造に簡素化すると、最大30倍伸ばしても破断しない強靭性を獲得した。通常の4分岐ゲルは理論限界の30パーセントで破断するが、3分岐ゲルは90パーセント近くまで伸びる。また、何度も繰り返し負荷を加えても常に一定の強靭性を示す「ロバスト強靭性」を有するという特徴も判明している。

ナノスケールの結晶化に由来する強靭性

3分岐ゲルの高い強靭性は、伸張誘起結晶化に由来する。伸張誘起結晶化は、強く引き伸ばされた高分子の紐が互いに寄り合うことで、ナノスケールの微結晶を形成する現象。力が集中して強く伸ばされた部位が結晶化によって硬化し、補強されるために破断が抑制される。

「ロバスト強靭性」を生かした生体への応用可能性

腱や靱帯など常に衝撃が加わる軟部組織は、修復機能が乏しいため、バイオマテリアルによる補助が必要とされてきた。しかし、これまで補助に使われてきた人口腱、靭帯などは材料において生体との親和性などに難があった。一方で、ソフトコンタクトレンズなどに使われているゲルは、三次元の網目状分子が水を保持してできた物質であり、生体親和性が高いものの、強度が不足するという欠点も指摘されてきた。対して、この3分岐構造のゲルでは、何度も繰り返し負荷を加えても一定の強靭性を示す「ロバスト強靭性」が確認されており、こうした不足を補えると期待される。

相性のいい産業分野

医療・福祉

優れた強靭性を生かした人口腱などの軟組織補助

資源・マテリアル

従来の30倍伸びるゴム製品

住宅・不動産・建築

理論値の9割まで伸びるゲルを緩衝材に使った、耐震性に優れた建築

アート・エンターテインメント

長く伸びる性質を利用した「伸びる」パブリックアート

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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