No.721
知財図鑑関連アワード受賞知財
2022.06.03
意匠から読み解く趣深い和菓子の世界
読んで味わう『和菓子図像学』の研究
概要
「読んで味わう『和菓子図像学』の研究」とは、日本の風土や文化と結びついた食文化である「和菓子」の意匠から、その成り立ちにまつわる物語や、背景に紐付けられた文化を暗喩的に解読する「和菓子図像学」を新たな学問として提案する試み。本学問の確立にあたっては、宗教画などに現れる図像から寓意(隠された意味)を読み解く「図像学(イコノグラフィー)」を和菓子の意匠に応用することで、和菓子に登場するモチーフと寓意を関係づけ体系化を行った。また、「和菓子図像学」のガイドとして『和菓子図像学かるた』を制作。かるたの絵札に和菓子の意匠を、読み札に意匠の名前と寓意を記載することで、遊びながら「和菓子図像学」を習得できるよう工夫した。和菓子の味わい方に“読む”楽しみが加わることで食文化への興味を喚起し、従来の食体験を拡張できることから、食育や異文化コミュニケーション、地域理解などへの応用が期待されている。
(論文:「読んで味わう『和菓子図像学』の研究」)
なにがすごいのか?
豊かな文化的・歴史的背景を持つ「和菓子」のデザインを研究テーマに採用する着眼点
西洋美術史の伝統である「図像学(イコノグラフィ―)」を理論的裏付けとして用いる学術的な厳密さ
『和菓子図像学かるた』のプロダクトとしての高いクオリティ
食育や異文化コミュニケーションなどへの幅広い応用可能性
なぜ生まれたのか?
著者の糸井康子氏は、友人と和菓子店に出かけた際、実際に和菓子職人が和菓子を成形しているのを見て、和菓子の構造と意匠の意味に関連性があることを知り興味を持ち始めた。また、和菓子の意匠には抽象的な表現が多いことや、構造的な特徴に着目することで年中行事や伝統的な習わしにまつわる暗喩的なモチーフを抽出・分解できることに気付いた。そこで、特徴的な物語を持つ和菓子を収集し、色や形、構造といった意匠から寓意(ぐうい:直接には表さず、別の物事に託して表すこと)を推測できるツールの開発を着想。『和菓子図像学かるた』の制作と「和菓子図像学」の研究を開始した。
なぜできるのか?
食べ物を「読み解く」体験の提唱
「読んで味わう『和菓子図像学』の研究」では、和菓子の意匠を図像と捉え、和菓子の色や形、構造からその和菓子の物語を読み解く「和菓子図像学」を提唱。この学問をさまざまな和菓子以外の食べ物に応用することで、食の文化や歴史から食への理解や興味関心を深められる。
遊びながら和菓子を読み解く『和菓子図像学かるた』
著者の糸井康子氏は「和菓子図像学」を習得できるツールとして『和菓子図像学かるた』を作成。絵札には、日本文化らしい和風で落ち着いたテイストを演出しつつ、ポップな色合いで親しみやすさを意識し、遊びながら「和菓子図像学」を習得できるよう工夫した。
『和菓子図像学かるた』が育む食文化への興味関心
糸井氏は『和菓子図像学かるた』の有用性を立証するため、20代の日本人9名を対象に、Aグループ(『和菓子図像学かるた』を遊んでから和菓子を実食する)と Bグループ(『和菓子図像学かるた』を遊ばずに和菓子を実食する)に分けて対照実験を実施した。その結果、かるたを遊ばなかったBグループに比べ、かるたを遊んだAグループは、実食した和菓子の意匠とその成り立ちに興味を持つ傾向が浮き彫りになり、『和菓子図像学かるた』が食文化への興味を喚起することが立証された。
相性のいい産業分野
- 生活・文化
『和菓子図像学かるた』で和菓子の歴史的・文化的背景を楽しく習得
- 教育・人材
『和菓子図像学かるた』を教材に用いて豊かな日本の食文化を教育
- アート・エンターテインメント
「和菓子図像学」をテーマにした和菓子の意匠の展覧会
- 食品・飲料
食品のパッケージに印字されたQRコードから、その食品の意匠の隠された意味を学べるサービス
- 旅行・観光
ご当地和菓子から地域の食文化や食の歴史を学べるスタンプラリー
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 糸井康子