No.945

2024.11.26

常温で長期保存でき、血液型を問わずに使える血液製剤

人工赤血球製剤 by 奈良県立医科大学

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概要

「人工赤血球製剤 by 奈良県立医科大学」とは、常温で約2年間保存でき、血液型を問わずに使用可能な血液製剤。体内で酸素を運ぶ役割のヘモグロビン(Hb)を、人工の膜で包んで安定させる技術を構築し、備蓄可能で事前の血液型検査が不要な製剤を開発した。従来の赤血球製剤は、冷蔵で約1カ月間と保存期間が短かったが、劣化の要因となる膜を安定化させ長期備蓄を可能にした。救急車やドクターヘリなどで持ち運びもできる。実用化により、へき地・離島医療や夜間救急、災害・有事の緊急対応、少子高齢化に伴う献血量減少の補填に加え、移植用臓器の保存液、解毒剤としての活用や獣医領域への展開が期待されている。

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なぜできるのか?

有効期限切れの献血血液の再利用

「人工赤血球製剤」には、有効期限が切れた献血血液などを再利用している。研究開発の発端は、廃棄される献血血液の有効活用だった。血液製剤は通常、血液から赤血球・血しょう・血小板の成分に分けてつくられるが、赤血球製剤は外科手術などの輸血や貧血時に用いられ、緊急時の安定供給が必要となる。一方で、有効期限が約1カ月と短い。そこで廃棄予定の献血血液を活用し、人工赤血球(ヘモグロビンベシクル、HbV)を構築。それを用いて、輸血治療の補完となる「人工赤血球製剤」を開発し、実用化に向けた研究開発を進めている。

人工赤血球の製造技術

劣化の原因となる、赤血球内のヘモグロビンを包む脂質の膜を除去し、人工の膜で包む技術を開発。人体の成分を用いた人工の脂質膜で包むことで、酸化による劣化を抑制している。ヘモグロビンを含む水溶液を、複数回遠心分離するなどして膜を除去。ウイルスを不活化・除去する工程を経て、ポリエチレングリコール(ワクチン精製などに使われている化合物)などを用いたカプセルで、ヘモグロビンと水溶液を包んでいる。赤血球の血液型を決める膜を除去しているため、血液型を問わずに使用可能。血液型検査をせず、すぐに輸血できる。

製造工程でのウイルス除去

人工赤血球の製造工程で、加熱によるウイルス不活化とろ過による除去を行っている。ヘモグロビンを含む水溶液を約60℃で加熱処理。ナノミリメートルレベルの微細な穴のフィルタに通して、ウイルスを除去している。これにより感染源のない「人工赤血球製剤」を構築。従来の輸血製剤で起こり得るウイルス感染リスクを大幅に低減している。

相性のいい産業分野

医療・福祉
  • へき地や離島、夜間救急などの現場で輸血製剤の補完として活用

  • 解毒、酸素療法など輸血以外の治療や臓器の保存液として活用

官公庁・自治体

自然災害やテロなど有事の際の緊急医療で利用

資源・マテリアル

有効期限切れの献血血液を再資源化し循環させるシステムの構築

航空・宇宙

宇宙空間での長期滞在時の輸血用製剤として活用

ロボティクス

交通アクセスに制約がある、または断絶した場所に届けるドローン・ロボットの開発

この知財の情報・出典

・特許第6831589号
・WO2017150637

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Top Image : © 公立大学法人 奈良県立医科大学