No.1043
2025.06.17
認知症の発病リスクを超早期に発見できるVR測定法
脳健康VR測定

概要
「脳健康VR測定」とは、VRゴーグルを用いて空間ナビゲーション能力を測定することで、認知症の発病リスクを超早期段階で発見するアルツハイマー測定法。アルツハイマー病の最初期病変が発生する脳の「嗅内野(きゅうないや)」の機能低下を、VRによって測定することで、自覚症状の出る20〜30年前という超早期から病理リスクを特定する方法を確立した。予防効果が十分に期待できる段階でリスクを見える化することで、個人に合わせた生活習慣改善や予防プログラムの実施につなげる。健康への意識が高い現役世代を対象に、医療機関や企業の健康経営プログラムでの普及が進んでいる。
なぜ生まれたのか?
認知症の原因の 70%程を占めるアルツハイマー病は発症までに20~30年もの長い間ゆっくりと進行し、40代後半では約半数が病理学的な「最初期」段階に入っている。現在の診断法では、症状が現れる前にアルツハイマー病を検出することは困難であり、症状が顕在化する軽度認知障害(MCI)段階での発見が限界だった。実際に、その段階からの予防は、効果を十分に得ることが難しい。「治療法がないのに検査しても怖いだけ」という認識が広まり、多くの人が検査自体を回避する現状である。この課題を解決するため、検査が簡易的で、症状が現れる前の超早期段階でリスクを検出できるVRを活用した測定法が実現した。
なぜできるのか?
最初期の病変を可視化するVR技術
アルツハイマー病の病理変化は「嗅内野」という部位から始まり、この領域は空間内での自己位置認識を司る「経路統合能」と呼ばれる機能を担っている。VRゴーグルによる空間ナビゲーション課題では、使用者が仮想空間で移動した距離や方向を手がかりに、「空間内で自分のいる位置」をどれだけ正確に推定できるかを測定し、経路統合能を定量的に評価することができる。これにより、アルツハイマー病に⾄る最初の病変である嗅内野の「神経原線維変化」を検出することに成功した。この測定法の信頼性は、VR測定結果と病理進行・最新の血液バイオマーカーとの相関性が科学的に確認されていることで裏付けられている。この技術によって、自覚症状が出る前から病変を発見できるため、生活習慣を改善するなど個々のリスクに応じた効果的な予防活動を行うことができるようになる。
※嗅内野:
脳の側頭葉内側にある領域で、記憶や空間認知、嗅覚に関わる。
※経路統合能:
空間内の自分の位置を把握し、移動経路の距離と方向を脳内で計算して出発点や目的地に戻る能力。
※神経原線維変化:
アルツハイマー病の病理変化の一つで、過剰に神経細胞内にリン酸化タウというタンパク質が凝集して形成される。この異常が起きた脳領域では神経細胞死が増加することがあり、この変化が脳内に広がることで認知症症状が発現する。
継続的なモニタリングで個別化された脳健康管理を実現
この方法は、VRのみを用いた身体に負担をかけない非侵襲的測定方法であるため、医療機関だけでなく企業や健康施設など様々な場所で実施可能である。測定自体はゲーム感覚で8分程度と短時間で完了し負担が少ないことから、定期的なモニタリングにも最適。企業や健康施設での導入時にも、医療機関と連携したフォロープロセスが構築されており、リスクに応じて適切な医療介入へとつなげる体制が整っている。近年登場したアルツハイマーの治療薬の効果を最大化するには、症状出現前から病態をモニタリングし、最適な投薬タイミングを見極めることが不可欠であり、継続的なモニタリングと医療機関のフォロー体制は欠かせない。「もう年だから遅い」「まだ若いから関係ない」という思い込みを排し、個人差の大きい脳健康状態を客観的かつ安定的に測定できる画期的なサービスである。
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