No.830

2024.03.05

微小重力環境に対応する宇宙のドリンクカップ

Capillary Cup

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概要

「Capillary Cup(キャピラリーカップ)」とは、重力の小さいISS(国際宇宙ステーション)でも、地球上と同じような動作で飲料を飲めるドリンクカップ。毛細管流体力学を用いて液体をカップの内側に沿って飲み口につたわせ、液体が下に引っ張られない宇宙空間でも、通常の飲用を可能にしている。NASAの宇宙飛行士が、ISSで流体物理学の研究の1つとして開始し、メンバーとともにプロトタイプを開発。関連技術は特許を取得している。「Capillary Cup」の設計研究・技術は、飲料だけでなく、洗剤や燃料など宇宙空間で用いる液体開発や、液体制御・処理設備にも活用できると期待されている。

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15267552 10155690055127281 4838473534955523505 n [Don Pettit. Coffee Cup for Astronauts. 2008. Glazed earthenware. Gift of Samantha Cristoforetti. Study Collection]

15401033 10155690055122281 1925817628040770474 n [Don Pettit. Coffee Cup for Astronauts. 2008. Glazed earthenware. Gift of Samantha Cristoforetti. Study Collection]

なにがすごいのか?

  • 微小重力状態でも地球上と同じように容器から飲用が可能

  • 毛細管現象を活用した形状設計

  • 重力が大きい地球上では捉えきれない流体物理研究の実践

なぜできるのか?

毛細管現象を活用した液体の移動

流体力学の1つである毛細管現象を活用して、液体のコントロールが難しい微小重力空間で、カップの内側に沿った液体移動を実現している。カップと液体の分子との間に働く力(付着力や濡れやすさ、表面張力など)を用い、カップの鋭角な淵に液体をつたわせて、口元へ運ぶ。液体の表面張力や湿潤状態の研究、カップ形状の検討などを重ねて開発した。

NASAの長年の研究にもとづいた形状設計

形状設計のベースには、ISSで行われた先行研究がある。これまでの研究では、プラスチックフィルムと耐熱テープで袋をつくり、毛細管現象を用いて袋の接合部に液体の自然な流れを形成。淵に集まった液体をストローで吸引する、手で絞って飲むなどをしていた。そうした研究をベースに、宇宙でもカップで飲料を飲みたいという研究者の想いから開発に着手。毛細管流路の原理を応用し、しずくのような特殊な形状の「Capillary Cup」を実現した。プラスチック製の初期バージョンを経て陶器製がつくられ、ISSで備品として活用されている。

相性のいい産業分野

航空・宇宙

宇宙空間での液体制御・処理施設の設計開発への活用

製造業・メーカー

ISSの環境に適した洗剤や調味料、薬剤などの液体の開発

食品・飲料

宇宙用流動食品の開発と、食事の時間が取れない地球人への展開

農業・林業・水産業

適切な場所・タイミングで水や栄養を届ける宇宙農場設備の開発

医療・福祉

医療設備の整っていないエリアで使える血液検査装置や備品の開発

この知財の情報・出典