No.829

2024.03.01

動くロボットを人が食べたときの感覚変化・心理的影響の探求

ロボット実食に対する人の反応の研究

人が食べる_top

概要

「ロボット実食に対する人の反応の研究」とは、動く可食ロボットを人が食べたときの感覚の変化や心理的影響を探る研究。ゼラチンと砂糖を主原料に、市販のグミ程度の硬さの空気圧で動く可食ロボットを開発し、「ロボットの見た目からどのような印象を受けるか」と、実際に「ロボットを食べた際の印象、味、および食感」を検証した。これまでも可食素材を用いたロボットの開発は行われているが、実食した際の感覚の変化や心理的影響については明らかにされていなかった。本研究は、人間と可食ロボットの相互作用を解明して、「生命とは何か」など、食べることの倫理的・社会的・哲学的な問題を理解する「HERI(Human-Edible Robot Interaction)」の探求につながる。研究の深化により、食文化の調査進展や、新しい食体験の提供、口腔刺激による脳の活性化といった医療への応用などが期待されている。

人がたべる_sub (a)可食部および可食部に空気を供給するチューブを接続するための部品の3Dモデル/(b)aの断面図、可食部の内部には2つの空気室がある/(c)可食ロボットの実物/(d)実験のために、3Dプリンタで製作した持ち手を付けた可食ロボット

なにがすごいのか?

  • 動くロボットを食べたときの感覚変化・心理的影響に着目

  • 可動部を全て食べられる動くロボットの開発

  • 食べることの倫理的・社会的・哲学的な問題をロボットで検証

なぜ生まれたのか?

食事は人間の生命維持に欠かせないが、社会的・文化的な活動でもある。特に肉を食べることへの道徳観や罪悪感などは国によって異なり、また日本には水産物の「踊り食い」という独特の文化もある。しかし、食文化を形成する認知的・心理的メカニズムを探るために、生き物を制御して科学実験を行うことは難しい。そこで、「HERI」という概念を導入し、動くロボットの実食による人の反応の検証に着手した。

これまでの可食ロボットは、動作箇所の強度を高めるため硬くて容易に噛めない素材を使っていたり、医療用では飲み込むことが前提だったりと、可食部の食感や味について配慮されていなかった。そこで本研究では、食感や味を考慮した可食ロボットを開発して、実食実験を行った。

なぜできるのか?

食用に適した可食部の開発

弾力性が高く壊れにくい素材としてゼラチンを採用。ゼラチンは砂糖やシロップと組み合わせるとグミのような形態になるため、食べやすさを考慮してその特性を用いた。材料には、主原料のゼラチンと砂糖に加え、炭酸カルシウムと100%のリンゴ果汁を混合。調整を重ね、「ゼラチン:果汁:砂糖:炭酸カルシウム=25:100:30:1」の最適比率を特定した。この比率で混ぜた液体を金型に流し込み、12時間冷蔵。市販のグミのような弾力性や食感、風味を備えた可食部を構築した。可食部はまた、口に含みやすいようスティック状にしている。

食べられる可動部の開発と制御

スティック状の可食部内部に、2つの空気室を形成。2つ同時に空気を供給すると縦方向に振動し、交互に入れると横に揺れる仕組みで、可動部の制御と可食化を実現している。空気室への給気・排気タイミングとサイクルで、ロボットの動きを調整できる。空気の供給には、オイルフリーのエアコンプレッサーを活用。濾過度0.3μm(マイクロメートル=1mmの1/1,000)のエアフィルターに空気を通して不純物を除去した上で、可食部に供給している。

2つの実験による反応の検証

ロボットの動きや見た目からどういう印象を受けるか、動くロボットを食べたときにどういう印象を持つかという、2つの実験で検証した。見たときの印象実験は、クラウドソーシングで参加者を募りオンラインで調査(n=315名)。参加者は、可食ロボットの動きを映した15秒間のビデオ視聴後、印象に関する10の質問に回答した。結果、縦方向の振動よりも、横方向に揺れる動きに対して生きているような感覚を強く抱くことが判明した。

食べたときの印象実験は大阪大学の学生が参加(n=16名)。横方向への可動時と静止時の2条件でロボットを実食し、「生気を感じたか」など13項目の質問への回答と、実食の感覚を「ボリボリ」などの14のオノマトペで表現するよう求めた。結果、静止状態よりも、動いているロボットを食べたときの方が、ロボットに対して、生き物らしさや新鮮さ、知性、感情、罪悪感などを強く知覚すると分かった。また食感では、可動時は「コリコリ」「ガブガブ」、静止時は「ムニャムニャ」などといった異なるオノマトペを知覚した。

相性のいい産業分野

ロボティクス

食感・味・香り・見た目など、食事として楽しめる可食ロボットの開発

食品・飲料

食が細い人や食べることが困難な人の食事を促す可食ロボットの開発

教育・人材

生き物を食べることへの倫理的・社会的・哲学的な学びを深める教材やロボットの開発

生活・文化

日本文化の「踊り食い」「活き造り」を含めた、世界の食文化の背景・心理の解明

医療・福祉

口腔刺激によって脳の活性化を促す医療機器・ヘルスケア商品の開発

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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