No.952
2024.11.27
養殖魚の飼料原料をサステナブルにする昆虫プロテインビジネス
昆虫プロテイン事業 by 大日本印刷・愛媛大学
概要
「昆虫プロテイン事業 by 大日本印刷・愛媛大学」とは、養殖魚の飼料原料にサステナブルな昆虫プロテインを活用する事業。栄養価が高く、農産物のかすなどを餌に育ち繁殖能力が高いミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)を飼育・加工し、養殖魚の飼料に用いる。従来、鯛やブリなどの養殖飼料には主にカタクチイワシなどの魚粉がプロテイン源として用いられてきた。しかし天然資源のため持続可能性が低く、供給リスクも生じるため、安定供給が見込める昆虫プロテインの生産を開始した。魚類養殖用飼料の国内生産を可能にし、水産物の安定供給を促して、世界的に課題視されているタンパク質危機(タンパク質供給量の不足)にも資すると期待されている。
昆虫プロテインを配合した飼料のイメージ
なにがすごいのか?
養殖魚の飼料供給の安定化に昆虫プロテインを活用
植物性・他の動物性タンパク源に比べ栄養価の高いミールワームに着目
飼育場所を限定せず飼育の環境負荷も低いミールワームを活用
なぜ生まれたのか?
愛媛大学大学院農学研究科の三浦猛教授は、昆虫を利用した飼料の研究開発に長年取り組んできた。背景には世界規模での食料供給量不足の懸念がある。
農林水産省がまとめた「2050年における世界の食料需給見通し」によると、世界的な人口増加による世界の食料需要量は、2050年には2010年比1.7倍(58.17億トン)に達する。特に、経済発展に伴って需要が増す魚や肉などの動物性タンパクの安定供給が危ぶまれている。
安定化に寄与する魚類養殖の重要性が高まっているが、養殖飼料の約半分にカタクチイワシなどの天然魚由来の魚粉を用いており、その使用量は養殖魚の数倍に及んでいる。サプライチェーン上のリスクも顕在化してきており、特に欧州などでは養殖飼料への昆虫の活用が進んでいる。
大日本印刷は2021年頃から昆虫事業の事業化に着手した。2023年8月より、愛媛大学とミールワームの飼育工程の自動化・効率化を目的とした共同研究を開始。両者共同での「昆虫プロテイン事業」参画に至っている。研究では、機能性に関する従来飼料との比較実験や、ミールワームの自動飼育装置の開発などに取り組んでいる。
なぜできるのか?
飼育しやすく高い栄養価を持つミールワームの活用
ミールワームは、チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫で体長は20mm程度。米や小麦粉といった穀物粉末や野菜のかすなどを餌に育つため、雑食で飼育しやすく繁殖力も高い。飼育場所は小規模で足り、水などの資源使用も抑えられるため、環境負荷も低い。また、植物性や他の動物性タンパク原料と比べて、必須アミノ酸や不飽和脂肪酸などといった栄養素を多く含む。昆虫由来の多糖類が魚類の免疫系を活性化させ、養殖魚の免疫力向上や身質改善につながる機能性を持つことも発見されており、共同研究ではその効果に関する従来飼料との比較実験も行われる。
長年取り組んできた基礎研究の実績
愛媛大学の三浦猛教授は、養殖や畜産に昆虫が必要となる時代が必ず来ると考え、2008年頃から昆虫を利用した飼料の研究開発に取り組んできた。大豆などの植物性タンパク主体の飼料では、養殖魚の疾病増加や極端な成長の個体差が生じるなど課題が多い。そこで養殖魚の安定供給につながる動物性タンバク源として昆虫に着目し、長年研究を行ってきた。初期には、増殖速度が速く生育を制御できるイエバエを活用。魚粉をイエバエの幼虫粉末に置き換えることに成功した。しかしイエバエは食品残渣や家畜の糞尿などを餌とするため、食用としてのイメージに課題があった。そこで農産物の残渣を餌にするミールワームに着目。栄養価が高く安全な昆虫として活用し、養殖魚飼料の開発を進めている。
印刷事業のノウハウ・実績を活かした自動飼育装置の開発
ミールワームを飼育する自動飼育装置の開発・製造は、大日本印刷が担う。印刷事業で培った自動化・機械設計ノウハウや、大量生産技術、無菌操作技術などを用いて、装置開発を推進。手作業が多いミールワームの飼育を自動化して効率的な大量生産を可能にする。それにより、養殖魚飼料用の昆虫プロテインの国産化・安定供給を目指している。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
・特許第5759895号/第6010725号/第7093556号
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 大日本印刷 株式会社