No.1006

2025.01.22

点滴スタンドなしで使える、動きやすく災害にも強い点滴

吊るさない点滴

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概要

「吊るさない点滴」とは、点滴スタンドを使わずに輸液製剤を投与(点滴)できる、移動の自由度を高める点滴装置。大気と真空の圧力差を活用した独自の装置で、吊り下げによる重力や電気供給を必要とせず、安定的に輸液を投与できる。点滴スタンドに吊るす従来の方法は、患者の移動を制限し、移動時の転倒や輸液バッグの落下といった血液の逆流リスクをもたらすため、空気加圧で動き、袋などに入れて携帯できる装置を開発した。点滴治療が必要な人のQOLを高めるとともに、災害現場や緊急移送時にも利用でき、国内外の医療・介護領域での展開が期待されている。

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なぜできるのか?

空気加圧技術の活用

大気と真空(大気より圧力が低い)の圧力差を利用した空気加圧技術を駆動源にしている。大気と真空の差圧をほぼ一定に生み出す真空ピストンシリンダーを搭載。圧力差によってシリンダーを押し下げて加圧用のバッグに空気を送り、輸液バッグを圧迫して輸液を吐出させる。空気加圧が吊り下げ点滴の重力の代わりとなり、また空気は手動で充填する仕組みで電気も使わない。さらに、圧力を効率的に伝える独自機構を組み合わせ、輸液バッグの液体がなくなるまで安定的に点滴できる装置を構築した。

圧力伝達機構の独自開発

圧力を安定的に伝達する独自のサンドイッチ型の機構を開発し搭載している。開発途上の課題は、輸液バッグを圧縮する際に生じる表面の皺だった。皺が発生すると圧力を伝達する力が削がれ吐出量が低下し、吊り下げ点滴の性能に到達しない。また皺に液体が残ることで薬液を最後まで投与できない。プロトタイピングを重ねる中で、分離した2つの加圧用空気バッグで輸液バッグを挟みこむサンドイッチ形状にたどり着いた。
開発した機構では、輸液バッグに空気バッグを密着させた状態で加圧が可能。空気バッグの左右外側に膨張した空気バッグを伸ばせる構造で、輸液バックの変形に応じて両端を引っ張ることで皺をつくらず、最後まで安定した圧力で輸液を吐出できる。実証実験で吊り下げ点滴と同等の吐出性能を確認。製品化に至っており、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医療機器として登録された。

技術融合による共同開発

産業技術総合研究所の工学計測標準研究部門のメンバーと、半導体装置や製造装置などの真空バルブ・機器を手がけているメーカー・入江工研が共同で開発した。入江工研を通じて寄せられた医療現場からの「点滴によるトイレや食事などの生活の不自由を減らしたい」という声をきっかけに開発に着手。産総研が持つ液体流量の計測・制御技術と、入江工研が持つ真空技術を融合させ、「吊るさない点滴」という新たなコンセプトの点滴装置を実現した。

相性のいい産業分野

医療・福祉

医療機関・介護施設や在宅医療の点滴治療に活用

教育・人材

点滴治療中の筋力低下を防ぐ歩行トレーニングやリハビリに導入

官公庁・自治体

緊急時の医療機器として災害拠点病院や避難所などに配置

スポーツ

アスリート向けの体力回復・栄養補給システムの開発

製造業・メーカー

加圧状況を検知してデータを無線送信する無電源システムの開発

この知財の情報・出典

・特許第6298208号 / 6980359号

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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