No.874

2024.08.01

螺旋構造を持たない“緩むことのないネジ”

L/R neji(エルアールネジ)

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概要

「L/R neji(エルアールネジ)」とは、一般的な螺旋(らせん)構造を持たない“緩むことのないネジ”。特殊な三次元構造を持つボルト・フォルムを開発して、右ねじと左ねじのナット同士を機械的に結合させ、緩まないネジを実現している。従来のねじは主に、時間経過などで失われる摩擦力に依存する螺旋構造を用いており、ねじの緩みを生じさせていたため、締結方法の異なるネジを開発した。緩まないことで、インフラやモビリティ、建物、設備、電子デバイス、医療機器などのあらゆる締結箇所の増し締め・点検作業を減らし、持続可能性を高めると期待されている。

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実現事例 実現プロジェクト

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L/R-ΔLoc

「L/R-ΔLoc(エルアールデルタロック)」は、カシオの時計「G-SHOCK MRG-G2000R-1AJR」に搭載されたネジ。同製品は、2018年10月に当時最高上位モデルのG-SHOCKとして発売された。「L/R neji」の三次元構造で構築したL/Rボルトを用いている。

搭載にあたり、ネジ部径わずか1.6mmの微細な加工に対応し、メンテナンス用に外せるようにするため、金属の形状を変化させる「弾塑性力学」を応用した「Δ(デルタ)ロック」機構を開発した。同機構では、先に装着する左ねじの「Lナット」に三角柱状のデルタ部を造形しており、後から装着される右ねじの「Rナット」の円筒部を3つの頂部が塑性変形(外部の力で永久的に形を変形)させる。デルタ部に嵌め合わせる際に、円を三角に沿わせて馴染ませつつ、部分的に残った弾性(元の形状に戻る性質)域で圧力を加えて接合。2つのナットを一体化させて、緩まないネジを実現している。

なぜできるのか?

独自三次元構造の「L/Rボルト」

通常の螺旋構造ではなく、右螺旋と左螺旋を組み合わせたような特殊な三次元構造の「L/Rボルト」を開発。同じボルト軸に幾重にも溝を重ねて形成し、右ねじナットと左ねじナット両方の組み付けと、ナット同士の機械的な結合を実現している。両ナットが機械的に結合することで、相互に締め付け力を誘導。振動などでネジが緩みそうになると、ナットがぶつかり合う、または引っ張り合うことで、緩みを解消する。その性能は、世界最高レベルとされるNAS(米国航空宇宙局)の緩み試験規格NAS3350/3354に準拠した衝撃振動試験に合格。同試験規格の20倍以上の力で振動を加えた社内試験でも、緩むことなく試験をクリアしたという。

最適な断面形状の特定

「L/R neji」では、ネジ山の角度は70度が最適と特定し、ネジ山の断面形状として採用している。これまで推奨されてきた、ねじ山の角度=60度の規格にしばられず、試験を重ねて仮説・検証を繰り返し実施。引張強度・耐久性・締め付け・緩みなどの観点から、最適な角度を発見した。その他所要条件を満たせば、従来のねじと同等以上の強度を有するという結果を得ている。

多様な用途に応えるバリエーション

「L/Rボルト」と、目的に合わせた専用ナットを組み合わせて締結する仕組みで、多様なバリエーションを持たせている。例えば、一度締めたら外せないタイプ、所定の工具で取外し・再締結が可能なタイプ、ボルト上の任意の位置で固定できるタイプ、ナット1個で緩み止めが可能なタイプなどを展開。様々な用途やニーズに対応する豊富なバリエーションで、あらゆる箇所の締結を可能にしている。

相性のいい産業分野

官公庁・自治体

橋やダム、大規模構造物などに活用しメンテナンス工数・コストを削減

流通・モビリティ

飛行機・鉄道・船舶・自動車など安全性が求められるモビリティの部品に利用

住宅・不動産・建築

ビル・大型施設や住宅などの建材として活用

医療・福祉

ペースメーカーや体内インプラントなど、メンテナンスが難しい医療機器に搭載

IT・通信

持ち運びが多い電子デバイスや、大きな振動がかかるデバイスコントローラーに利用

この知財の情報・出典

・特許第6715455号/第6766929号/第7014395号/第7249065号
・WO2016006598/WO2017183593/WO2018088282  etc.

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Top Image : © NejiLaw inc.