No.859
2024.06.07
薄い膜を優しくしっかりつかめる“究極の”医療用ピンセット
サメ肌鑷子
概要
「サメ肌鑷子(さめはだせっし)」とは、薄い膜でも傷をつけずにしっかりつかめる医療用ピンセット。先端部分にサメ肌の形状を模した加工を行い、臓器や組織を守りながら把持することを可能にしている。従来の器具では、溝加工などが施されていても、滑りやすい臓器や表面を覆う薄い膜の把持力が不十分で使いづらさもあったため、安全で操作性が高く、手術で実用できる鑷子を開発した。手術効率の向上に加え、サメ肌加工の他医療器具・機器への活用や、国内外の医療機関やアカデミアなどへの展開が期待されている。
なにがすごいのか?
薄い膜でも傷をつけずにしっかりとつかめる鑷子
臓器や血管などの組織を損傷することなく把持可能
サメ肌の形状を手術器具に応用
長崎大学の医学部と工学部が連携し共同研究で開発
なぜ生まれたのか?
長崎大学の永安武教授(現学長)が、外科医として医療現場の最前線に立っていた2013年から開発を始めた。それまで、臓器を傷つけることなくしっかりつかむという、相反することができる鑷子は「永遠のテーマ」だったという。安全で確実に臓器をつかめる形状を模索する中で、魚ロボットなどの研究開発を手がけていた同大学工学部の山本郁夫教授(現副学長)と連携し、サメ肌にフォーカス。鑷子の先端に使えると考え、共同研究で医療用鑷子の開発を開始した。サメ肌加工は、従来の金属加工装置では実現が難しかったため、自動車内装部品などの金型事業を手がけるKTX社の協力を得て実施。最新の高性能レーザー金属加工装置を用いて開発を進め、安全性と把持力・操作性を持つ「サメ肌鑷子」を構築した。
なぜできるのか?
隙間を残しながら噛み合う鑷子先端の加工
小さい歯のようなウロコで覆われ、微細な凹凸で構成されるサメ肌の形状を応用し、円弧状の溝を構築。その溝を鑷子先端の内側に複数整列配置している。溝の深さは5μm(マイクロメートル=1/1000mm)。鑷子の先端部を閉じると、溝に突起が嵌り、溝の底と頂点部の間に隙間を残して噛み合う。また、手術用の手袋をしていても把持力を保てるよう、鑷子を操作する把持部にも滑り止めを加工。血液が付着しても把持力を保ち、繊細な操作ができる鑷子を実現している。
新しいモノを生み出す医工連携の土壌
長崎大学および大学院では、医工連携による機器・器具の開発を積極推進している。2013年からは、医学部・工学部が連携した相互乗り入れ型教育「ハイブリッド医療人養成コース」を展開。医療領域で新しいモノづくりを推進する、横断型・融合型人材を「ハイブリッド医療人」と定義し、医工連携の学問とともに、実践できる環境を提供している。コースでは、医学部・工学部の教員や、連携する民間企業の講師による先端技術の実習教育や、3Dプリンターなどを使った医療器具の企画・設計・開発などのプログラムを実施。「サメ肌鑷子」開発時にも、3Dプリンター・3D-CADを用いた。開発を主導した永安武教授は、センター長として同養成コースの立ち上げ・事業運営を担っている。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
・特許第6310051号
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 長崎大学 研究開発推進機構