No.940
2024.11.22
廃棄物を出さずに“森になる”未来志向の仮設建築
Seeds Paper Pavilion
概要
「Seeds Paper Pavilion(シーズペーパーパビリオン)」とは、使命を終えた後、廃棄物を出さずに森になる未来志向の仮設建築。生分解性を持つ植物由来の樹脂を材料に3Dプリンターで建築し、外装は子どもたちがつくる植物の種を含む手すきの紙で仕上げることで、使用後は時間をかけて土に還り森を形成する。大阪・関西万博で用いるパビリオンの1つとして開発を進めており、会期中は種の芽を育み、会期後は朽ちて森になる、循環する仮設建築を目指している。仮設建築が種になり森を形成するという未来を見据えた建築デザインが、今後の都市開発に波及効果をもたらすと期待される。
なぜ生まれたのか?
「Seeds Paper Pavilion」は、竹中工務店のグループ従業員を対象とした提案コンペから誕生した。「SDGs達成や日本文化を世界に発信するために、竹中グループが万博パビリオンに関わるとしたら」という課題で、2020年から2021年にかけて提案コンペを実施。200を超える応募アイデアの中から、「森になる建築」のアイデアが最優秀賞に選ばれた。
選出後は、アイデアの具現化に向けて技術開発体制を構築。2023年5月より、竹中技術研究所で大型3Dプリンターによる試験を開始した。万博では、休憩に使える仮設建築物として、直径4.65m/高さ2.95mの建築物2棟を設置する予定で、2024年4月に実物サイズの出力に成功。同年8月より万博会場内での工事を開始し、現地で3Dプリントによる建築を進めている。生分解性樹脂を使って3Dプリンターでつくる建築物としては、世界最大級となる見込みだ。
なぜできるのか?
循環に焦点を当てた建築デザイン
イベントなどで設置される建築物が大量のゴミにつながることへの課題提起と、その解消につながる循環をテーマに、仮設建築をデザインした。現代では、多数の材料を組み合わせた建築が主流で、分解・再利用しづらい状況がある。「Seeds Paper Pavilion」は、生分解性を持つ植物由来の素材を用い、単一素材で3Dプリントして建築することで分解を促し、建物の物理的な循環を目指している。さらに、廃棄につながらないよう、人と建築の距離を縮めることも重視。建築に愛着を持たせる仕掛けを予定している。
人が関わりを持つ仕掛け
3Dプリント建築という先端技術でつくる仮設建築に愛着が持てるよう、建築物の外装仕上げやメンテナンスで人が関わる仕掛けを提供する予定。仕上げ材に用いる、手づくりの和紙に日本の草木の種をすき込む「Seeds Paper」は、各地の子どもたちが牛乳パックや古新聞を使って作成。3Dプリントした建築物に貼り付けて仕上げる。この参加型の取り組みを「資材のクラウドファンディング」と命名している。また、水やりや芽吹きの手入れ、修理も人が行う。万博会期後は、仮設建築のかけらを子どもたちに渡し、各地で土に還して植物を育む。そうした取り組みの中で、人の共感や共鳴を生み出す新しい建築サイクルを目指す。
生分解性を持つ酢酸セルロース樹脂
仮設建築の素材に、生分解性と透明性を持つダイセルの酢酸セルロース樹脂「CAFBLO®(キャフブロ)」を用いている。「CAFBLO®」は、木材や綿花などの植物由来のセルロース(植物繊維)と、酢の主成分として知られる「酢酸」を原料とした樹脂素材。高い生分解性を持ち、土中・堆肥中・海洋中で微生物と水によって分解され、最終的に水と二酸化炭素になる。さらに、環境に配慮した非フタル酸系可塑剤で熱可塑性を持たせており、熱を加えると柔らかくなり冷やすと固くなる。ガラスのような風合いを持つ透明感のある造形物を構築できる。「Seeds Paper Pavilion」では、光の透過性を活かしながら、雲や緑を感じられる仮設建築を予定している。
相性のいい産業分野
- アート・エンターテインメント
展示会やイベント会場の仮設施設に活用して廃棄物・環境負荷を削減
- 住宅・不動産・建築
自然に還り循環する建設・建築デザインの採用
- 農業・林業・水産業
移動可能でやがて土に還る農業・林業の拠点として活用
- 官公庁・自治体
災害時の避難用シェルターとして使い、復興後は森の再生に活用
- 旅行・観光
エコツーリズム拠点にして、建築から自然に還るまでの過程をツアーで提供
この知財の情報・出典
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 株式会社 竹中工務店