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2023.12.29

知財ニュース

明治大、“熟成”や“新鮮”などの食味の時間軸を変える手法を発表─ひと晩寝かせたカレーや野菜の鮮度再現が即可能に

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明治大学の宮下芳明教授は2023年11月24日、飲食物の味の時間軸を変える研究の検証結果をまとめた論文を公開した。また、11月29日から12月1日に行われた「第31回インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ(WISS2023)」で、同論文を発表した。

論文は、カレースープやトマトなどを用いて、時間を置くことによる熟成(順行)と、時間経過で風味が落ちたものの鮮度再現(逆行)ができるかという検証をまとめたもの。測定は味覚センサーと実食で行い、調味には、宮下教授らが開発した高精度な味の調整ができる家電「TTTV3」を使用した。

検証では、作りたてのカレーや未熟なトマトを、数日寝かせた味わいに変えられることを確認。また熟成したものを数日前の味に戻すことも、一定程度可能という結論を得たという。

実施に際しては、バナナジュースなどで予備実験を行った上で、うま味・甘味・酸味などが変化し複雑な熟成が行われる食べ物として、カレースープとトマトを選定。1日目から4日目まで、味覚センサーによる成分分析と実食で状態を測定してモデル化し、そのデータをもとに調味を試みた。

調味に用いたTTTV3は、基本五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)や辛味などを感じさせる液体を食べ物に混合噴射して、味を再現する。チューブポンプを20機搭載しており、1,000段階で味を制御。0.02ml単位の細やかな調味ができる。例えば、コートジボワール産カカオを稀少なペルー産カカオの味に変えることも可能。味の加算だけでなく、苦味や酸味を抑えるなどの減算にも対応している。

カレースープは、具材に左右されないようカレールーのみで作って検証。作りたてのカレーで日数経過による渋味・うま味・塩味の変化を再現するため、グルタミン酸ナトリウム、タンニン酸、塩化ナトリウムを添加。結果、1~3日目の味が再現でき、実食でも熟成を確認している。

3日目のカレースープを作りたての状態に戻す検証でも、おおよその味を再現したが、再現品の方が実際よりも香りが強かったという。味の希釈に伴って薄まる成分追加などの課題が判明した。

トマトも同様に、順行ではトマトの熟成した味を再現。逆行では、1~2日前まではうまく再現できたものの、3日前の味の再現では希釈に伴う違いを確認したという。

Miya_sub1 左:カレースープ熟成過程の味覚センサー測定結果/右:カレースープ熟成3日目の味再現結果

宮下教授らは、検証結果を踏まえ、食品の時間変化を操作する体験ができるAR装置「Taste-Time Traveller」を開発。装置内に食品を入れて、ディスプレイのインターフェースで時間を指定すると、設定時間に応じて食品の味が変化する装置だ。

半透明なスクリーン上に時間経過した食品のイメージ画像も投影し、味の“時間旅行体験”となるようデザインした。例えば、バナナが黄色から茶色に変化する様子などを投影する。WISS2023では同装置の発表も行った。

味時間の順行・逆行が自由に制御できれば、フードロスの削減につながる。野菜などの熟成状態に関わらずに食材として利用でき、賞味期限を超えた食品も消費期限まで美味しく食べられる。また、熟成・発酵状態やテイスティングなどを学ぶ教材としての活用も見込まれる。

論文では最後に、味覚を含めた感覚をメディアとして自由に操作できれば、不可逆なことも可逆にできる可能性があると述べている。未来では焼いた魚を刺身に戻して味わうこともできるかもしれない。

研究報告レポート「Taste Time Machine : 飲食物を過去や未来の味に変える装置の実現に向けて」
「Taste-Time Traveller:食品の時間を操る味覚AR装置」
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Top Image : © 明治大学 宮下芳明教授

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