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2022.04.12

コラム | 特許図面図鑑

【特許図面図鑑 No.13】図面で垣間見る日本の歴史⑥~平成後期・令和前期~

特許図面図鑑 13

ユニークで奥深い「特許図面」の世界を紹介するこのコラム。今回は「図面で垣間見る日本の歴史」シリーズ第六弾、平成後期・令和前期です。(過去のコラム:①明治期②大正期③昭和初期④高度経済成長期⑤昭和後期・平成前期

いよいよシリーズ最終回となりました。技術の結集により成される「空中ディスプレイ」関連の特許や、世間で話題となった飲食店の提供システムに関する特許、そして芸術的な演出表現についての特許などを紹介していきます。

福沢諭吉氏や高橋是清氏によって明治時代にもたらされた特許制度。制度導入から100年以上経過し、ソフトウェアやビジネスモデル関連など様々な特許が誕生してきました。

01 ミニ四駆(特許第4563193号:模型自動車)

権利者:株式会社タミヤ
出願日:2005.1.21、登録日:2010.8.6

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特許第4563193号 図6 J-PlatPat リンク

まずはミニ四駆に関する特許です。ミニ四駆は1982年に発売され、その後も改良が重ねられてきました。本特許は、車体の中心付近に重心がある「ミッドシップ型」のミニ四駆を実現しようとするもの。この様な改良によって楽しさを増大させることが、長年愛されてきた理由なのかもしれません。発売以来、販売台数は1億8000万台にもなるとのことです。(参考:「ヒット商品を支えた知的財産権」パテント・アトーニー Vol.95, 2019年秋号, 日本弁理士会広報誌)

02 AKB48恋愛ゲーム(特許第5710187号:プログラム及びゲーム装置)

権利者:株式会社バンダイナムコゲームス、株式会社秋元康事務所
出願日:2010.9.13、登録日:2015.3.13

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特許第5710187号 図7 J-PlatPatリンク

AKB48メンバーと恋愛を繰り広げるゲームに関する特許。秋元康さんも発明者として名を連ねています。

こちらの図面は優子さんから告白されているシーンですね。プレイヤーがコマンドガイド24dを選択すると恋愛成就となり、24eを選択すると、告白した優子さんは失恋することとなります。

03 Dyson Air Multiplier(特許第5048800号:ファン組立体)

権利者:ダイソン テクノロジー リミテッド
出願日:2010.3.2(優先日:2009.3.4)、登録日:2012.7.27

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特許第5048800号 図1 J-PlatPat リンク

2010年グッドデザイン大賞を受賞した羽根無し扇風機。掃除機におけるサイクロン技術をはじめとし、ダイソン社は多くの特許権を取得しています。羽根無し扇風機のコンセプト自体は1980年に東芝から特許出願されていましたが(関連コラム)、初めて製品化したのはダイソン社でした。

Schuyler Wheeler氏(Wikipedia)が世界で初めて扇風機を発明したのが1882年。扇風機は「風によって涼を感じる」という基本機能はそのままに、130年の時を越えた技術革新の積み重ねを感じることができる素晴らしい製品ですね。

04 BALMUDA The Toaster(特許第6651292号:加熱調理装置)

権利者:バルミューダ株式会社
出願日:2015.3.16、登録日:2020.1.24

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特許第6651292号 図1(左) 図2(右) J-PlatPat リンク

2015年グッドデザイン金賞を受賞したトースター。本製品には様々な特許権が関わりますが、本特許はボイラ40(水蒸気発生器)へと水を案内する水案内路50の配置に関する内容にて権利化されています。

05 ロバート秋山氏Tシャツ(特許第6249501号:小道具及び小道具の使用方法)

権利者:株式会社エース・マーチャンダイズ
発明者:秋山 竜次 氏
出願日:2016.4.11(優先日:2016.3.7)、登録日:2017.12.20

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特許第6249501号 図2(左) 図3(右) J-PlatPat リンク

こちらはロバート秋山氏によって発明されたシャツ。着衣した状態から図のとおりシャツを捲し上げると、シャツ裏面にプリントされた顔である「正面像21」を見せることができます。「腋36」が露出される点がポイントです。特許内容の詳細はこちらの記事も是非ご覧ください。

ロエベの顔Tシャツはロバート秋山さん特許の内容に似ているのか?検証してみた。(2022.2.1)

06 いきなりステーキ(特許第5946491号:ステーキの提供システム)

権利者:株式会社ペッパーフードサービス
出願日:2014.6.4、登録日:2016.7.6

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特許第5946491号 図2(左) 図3(右) J-PlatPat リンク

「いきなりステーキ」におけるステーキの提供システムに関する特許です。カットした肉を計量し、その量やテーブル番号等が記載された「シールS」を設けることなどに特徴があります。

この内容が果たして特許法の保護対象である「発明」といえるのか…!その点が争点となり、裁判にも発展しました。特許とはどういうものか?どうやってビジネスに活用すべきか?等、様々な学びのある事例です。詳しくは以下ページをご覧ください。

『いきなり!ステーキ』のビジネスモデル特許 判決から学べること l ライトハウス国際特許事務所

また、次に紹介する案件も飲食物の提供システムに関する特許事例です。

07 GACHA GACHA COFFEE(特許第6912846号:コーヒー飲料の提供システム及びコーヒー豆の粉砕装置)

権利者:有限会社nendo
出願日:2018.2.2、登録日:2021.7.13

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特許第6912846号 図1 J-PlatPat リンク

こちらはデザインファーム「nendo」が手掛けた珈琲提供システムについて。「コーヒー豆の展示エリアA」にて、コーヒー豆が入ったカプセル収納容器達を眺めるところから体験が始まります。それぞれのカプセル収納容器には様々な種類のコーヒー豆が入っています。(例:カプセル収納容器2aがモカ、2bがマンデリン 等)

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特許第6912846号 図2(左), 図3(右)

そしてカプセル内のコーヒー豆を粉砕エリアにて粉砕し、自らコーヒーをドリップするという内容です。カプセルトイから始まる一連の体験価値を、技術的側面から特許権にて保護している事例ですね。

参考:GACHA GACHA COFFEE l nendo

08 パリティミラー(特許第6837668号:光学素子及びそれを用いた映像表示装置)

権利者:株式会社パリティ・イノベーションズ
出願日:2018.2.2、登録日:2021.2.15

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特許第6837668号 図3(左)、図11(右) J-PlatPat リンク

こちらは空中ディスプレイに関する特許です。非接触にて各種入力操作が可能なことから、コロナ禍においてより注目される技術となりました。技術内容や用途などは以下記事もご覧ください。

パリティミラー :空中に立体映像を浮き上がらせるディスプレイシステム

09 チームラボ / teamlab(特許第6841957号:泡演出システム及び泡演出方法)

権利者:チームラボ株式会社
出願日:2020.4.20、登録日:2021.3.10

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特許第6841957号 図1(左) 図5(右) J-PlatPat リンク

アーティスト集団チームラボは、その独創的な表現の中で種々の特許技術を活用しています。こちらの泡演出システムは、代表である猪子寿之氏による発明。作品「質量のない雲、彫刻と生命の間」に関わるものと思われます。

10 brighter Redact(WO2021219665:Method and system for selective and privacy-preserving anonymization)

出願日:2021.4.27(優先日:2020.4.27)
出願人:Brighter Ai Technologies Gmbh

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WO2021219665 Fig.2 Google Patents リンク

最後は画像処理技術について。欧州ではプライバシーの観点から個人データの保護について厳格に規定されており(GDPR:一般データ保護規則)、例えば監視カメラに写り込む画像に関しても取り扱いに注意が必要です。

そこで本発明は、画像に写り込んだ車のナンバープレートや顔を「ちょっと」変化させて匿名化するというもの。日本においても重要となる技術で、色々な用途が考えられそうですね。人物像における使用事例や、当該技術を活用した ”妄想” などは以下記事をご覧ください。

レポート:「brighter Redact」から映像加工技術の未来を妄想してみた


以上、平成後期・令和前期に特許出願された10件を紹介しました。

明治期における「特許第2号:生茶葉薫器械」に始まり、最後はAIを活用した次世代画像処理技術。特許情報を見ていくことで、時代に応じて求められる技術や社会背景などが垣間見えたかと思います。1970年大阪万博にて披露された「人間洗濯機」は、2025年万博にてどの様な進化を遂げて出てくるのか…!?今からとても楽しみです。

そして特許情報を眺めていくことで、「モノからコトへ」の変化も感じられました。

制度導入当初における特許権は「改良楊枝(特許第506号)」「真珠養殖篭(特許第25757号)」といったモノに関する内容です。一方で平成期以降においては、ステーキやコーヒーの提供システム、そしてアート表現を通じた体験(コト)を特許権として保護する事例が見受けられました。技術によって提供可能な価値をいかに特許権として保護するか?その多様性が広がっている時代と言えそうですね。

では、本シリーズのコラムはこれにて一旦終了です。
いずれまたお会いしましょう!

ライティング:知財ライターUchida
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