Pickup

2021.12.01

インタビュー | 都 淳朗

実験的NFTオークション『100 COPIED BANANAS』が問いかける、デジタル時代における"複製"の価値

Konel inc.

12 バナナ

「コピーの価値はオリジナルの価値より下がる」― テクノロジーの発達により、デジタル情報が現実世界に匹敵、もしくは凌駕するこの現代において、この定説は崩れる可能性があるかもしれない。

クリエイター集団Konelは、100本のバナナの3Dデータを一斉オークションするためのNFTストア『100 COPIED BANANAS』をリリース。本日、2021年12月1日より同ストアにて販売を開始した。本作品は市販のバナナを3Dスキャンし、そのデータをもとに3Dプリント、それを更に3Dスキャン、3Dプリントするというコピーサイクルを確立し、100回に渡りデジタル複製したものだ。

『100 COPIED BANANAS』 オークションサイトはこちら

banan01

banana02 オークションは2021年12月1日、日本時間PM12:00正午よりスタート。NFTストアサイトではバナナ100個分の3Dデータ(gif)を見ることができる。

作品の唯一性という概念に一石を投じるような本プロジェクトの発案者・制作者であるKonelのクリエイティブテクノロジスト・都 淳朗(みやこ・あつろう)に、作品制作の動機と、実験とも言えるこのオークションに対する思いを聞いた。

miyako01 クリエイティブ・テクノロジストの都 淳朗。Konelがオフィスを構える「日本橋地下実験場」にて。

オリジナルから乖離していく「3次元物体の複数回コピーによる劣化現象」

─今回のプロジェクト、非常に風刺的でありながら実験的アートの側面も強いと思います。まず、このプロジェクトを実現した「Konel」というチームについて教えてください。

Konelは、30職種を越えるクリエイターやアーティストが所属しながら、未来の体験を実装していくクリエイティブカンパニーです。企業や製品のPRやブランディング、メーカーと共同で技術応用の検討をするR&Dなどを主に行っていますが、メンバーの根底にあるのは「欲望のままつくりたいものをつくる」という価値観です。そのため、クライアントワークと並行して、自社プロジェクトとしてのアート制作も活発に行っている会社で、今回の『100 COPIED BANANAS』はその一環と言えます。

─都さんはKonelの中で、どのような役割を担っているのでしょう?

クリエイティブ・テクノロジストとして、さまざまなプロジェクトの初動となるアイデアやプロトタイプを考えています。扱うジャンルや媒体に定義はないですが、テクノロジーを起点にして未来を発想し、「誰も見たことのないもの」を形にしていくということがKonelの中での僕の役割かなと思っています。Konelに入社して一年程度ですが、展示のインタラクティブコンテンツのプロデュースや立体音響設備のサウンドコンテンツと空間の制作、WEBサイトと連動した映像インスタレーションのUX設計など、さまざまなアウトプットの案件に携わっています。

miyako

─今回の企画『100 COPIED BANANAS』ですが、まずはこのプロジェクトの発端や背景について教えていただけますか?

今回のプロジェクトの元となるアイデアはすでに大学院生時代にあったものです。「3次元物体の複数回コピーによる劣化現象」と僕は呼んでいますが、ある物体を3Dスキャンして、そのデータを3Dプリントする。その3Dプリントされたコピーの物体をまたスキャンしてプリントする、という行為を繰り返すと徐々にモニョモニョと本来の形を失っていき、輪郭の解像度が下がっていきます。回数を重ねるごとにその劣化現象が大きくなり、段々とオリジナルの形から遠ざかっていく。Twitterの投稿で、使いまわされてガビガビに劣化した画像なんかを見たことがある人もいると思いますが、それと同じような現象が3Dプリンターを使うと立体物でも現れてきます。この現象を学生時代に発見して、一本のバナナで複数回コピーをしたもの比較をSNSで発表したら思いのほか反響があって。自分以外にもこの現象を面白がってくれる人がいることはそこで分かりました。

─今回は、その学生時代に発見した現象をさらにアップデートして進化させたプロジェクトということでしょうか?

まずやったこととしては、一本のバナナを3Dスキャン・3Dプリントするという行為を100回繰り返しました。学生時代にも100回やってみたいという構想はあったのですが、その頃はスマホアプリの簡易な3Dスキャンを使っていたので精度も低く、劣化現象の表現に限度があったので5回のスキャンに留まっていました。Konelには3Dスキャン・プリントともに充分な設備が備わっているため、かなり高い精度でこのコピーサイクルを実行でき、今回のプロジェクトが実現しました。そこで得られた、それぞれが少しずつ違うバナナの3Dスキャンデータ100個をNFT(非代替性トークン:ブロックチェーン技術により複製可能なデジタルアイテムを一意なアイテムとして関連づけることができ、所有権の公的な証明を提供する)としてオークションで出品します。NFTプラットフォームには「Mint(ミント)」という、デザイン性と拡張性の高いNFTサービスを使用しました。

banana 一番左から、1st・20th・40th・60th・80th・100th COPY。コピーを繰り返していくことで、本来の輪郭を徐々に失っていきオリジナルから離れた形状となっていく。

─なぜバナナという対象物が選ばれたのでしょう?

複製する対象として、誰もが知っていて、人によって感じる価値が大きく変わらない方がいいと思ったからです。バナナのように高価ではなく、人々が普遍的な共通認識を持っているもの方が、その後の価値のギャップがわかりやすい。そういう意味で、僕のような若くてまだまだ無名なクリエイターがやることがこのプロジェクトにとって価値があると思っていて。誰もが知ってる著名なアーティストの人がこれをやってしまうと、その複製の行為自体に重みや価値がついてしまいます。

─スキャンする対象も、制作者である都さんさえも、できるだけ記号的な存在として匿名性を持ったプロジェクトにしたかったということでしょうか。

僕が心血注いで制作した彫刻作品で同じようなことをしても意味がないと思っています。今回のプロジェクトのメインは「コピー」の部分になるので、オリジナルに対する印象の個人差はゼロである方が望ましく、そのほうがオークションの結果をフラットに考察できると考えています。あとは複製する上での制約です。3Dプリントや3Dスキャンのスペック上、大きすぎると複製が大変になってしまいます。僕がこの作品の制作に手間と時間をかけ過ぎると、もともとのバナナの価値というよりこの作品に対する僕の労力や人件費的な価値がどんどん上乗せされてしまうので、それも避けたかった。僕はあくまでただの“歯車”として、3Dスキャナーと3Dプリンターの間を行き来して、データのパスをしていただけの存在です。

─そこに都さんの人間性やデザイン性が介入してしまうと、今回の実験における面白さが損なわれてしまうと。

極力、僕個人の感情や意図は排除して、鑑賞する人や購入する人にとってフラットに価値の変化を評価してもらえる場を提供したいと考えました。スキャン自体は数分、プリントは数時間かかるのですが、一度セットしたらあとは放置しておくだけなので、制作期間の数ヶ月は出社時のモーニングルーティンみたいになっていましたね。朝顔の観察日記のような感じです。アイデアを発想したのは僕ですが、作品自体は機械たちがつくったと言えるかもしれません。

banana

scan 3Dスキャンには​​日本3Dプリンター株式会社の「EinScan Pro HD」を使用。

コピーは劣化か悪か、NFTによる唯一無二な「100個の贋物」

─このプロジェクトは「コピー」という概念について考えさせられますが、このテーマに着目した理由を教えてください。

コピーって、便利過ぎるゆえに人間が制御できていない技術だと考えています。個人情報を複製して盗んだりする明らかな悪人や、価値あるコンテンツを無断転載して儲けている業者や個人もいますよね。しかも、それが悪用された複製物だと気づかずに知らず知らずに消費者が加担してしまっているケースも多々あると思います。事実よりも、捻じ曲げられたスクープの方が市場的には価値がついてしまうように。

─確かに、ネットニュースの転載情報の真偽をいちいちユーザーは調べないし、違法動画のアップロードも整備より需要が上回ってしまっている印象はありますね。

ネットミームもそうですよね。「w(わら・くさ)」とか今の若い世代でも普通に使うと思いますが元ネタの2ちゃんねるの文脈は知らない人も多いと思います。ガジェットなんかに関しても、オリジナルなものより後発に出てきた安価で便利な類似品を日常使いしているという経験は当たり前にあると思います。

─そもそもオリジナルな製品のことをよく知らなかったりもしますし、ユーザーが情報を辿るには複雑化している文化もあると思います。

一方で、クリエイターが新しくものを生み出そうとする時、真似をするつもりはなかったのに、たまたま他の人がつくったものや過去にすでに生まれていたものと類似してしまうこともあります。でも、多くの消費者からしたら、それがオリジナルであるかの文脈の真偽はあんまり関係なくて、元の価値と受け手が受け取る価値にギャップが生まれているのではないかと。要するに、現代って「コピーの方が価値が下がる」っていう常識が通じないんじゃないか? という問いがこの作品のテーマです。オリジナルとコピーを同時に提示しても、コピーの方が価値がつくのか、はたまたやはり、オリジナルに近いものの方が求められるのか。

P1139264

─3Dプリントされた100個のバナナそのものを売るのではなく、NFTという販売形態を選択した点も、そうした価値の揺らぎを見てみたいということでしょうか?

今回のバナナは100個全てに制作日と何番目のものかがナンバリングされていて、買い手はオークションで自分で値段を決めてそのNFT化されたバナナの3DデータをSTL形式のファイル(三次元形状のデータを保存するファイルフォーマットの一つ)で手に入れることができます。そうしたら100個に同じ値段はつかないし、全く見向きもされないナンバーも出て来るかもしれません。No.100が一番高値がつくのか、No.1なのかNo.50なのか、もしくはNo.21など半端な数字にも価値がつくのか。

─NFTでオークションに出して、その結果を含めての作品とも言えるということですね。

はい、NFTはデジタルデータに唯一無二性を与えられるものですが、今回僕がつくった100個のデータは、いわば全てコピー。バナナの偽物です。そんな100個の偽物のデータが、NFTにすると偽物なのに本物として扱われるという構図が面白いと思いました。元々は一個数十円程度のバナナの価値を、100個の複製のうちどれかが上回る時点で「複製は価値が下がる」という常識は塗り替えられるのではないかと。

オークションを経た後も複製は続いていく?コピー現象の終わりとは

─オークション購入したNFTの3Dデータは、その後どう扱うかは全て購入者の自由となるのでしょうか?

まさにそこのアクションを見てみたいと思っています。その3Dデータを落札した人がそれをまた使ってバナナを出力して「複製」してもいいし、価格を上乗せして2次・3次流通してもいい。コピーが大前提となっている売り方であり、その後のスピンアウトの拡散の動きを見てみたいというプロジェクトでもあるので、まずはとりあえず完売してくれることを願っています。全く売れなかったらそれはそれで、普通の人にとってやはり価値は感じられないんだな、という見方もできますが、一人で考察するのも寂しいので・・・(笑)。できるだけ多くの人にこのオークションに参加していただき、このコピー現象の行末を見届けてもらえると嬉しいです。

P1139125

─オークションに参加するユーザーも、自分はどの形状やナンバーに魅力を感じるのか思考することになるので、参加型のアートとも言えますね。

モノや情報に対する自分なりの価値観や判断基準を持っている人にぜひ買って欲しいですね。ゲン担ぎの数字がある人とか、自分なりに考察して一番価値がつきそうなところに目をつけてくれる人とか。あとは、日々オリジナルなものを生み出そうとしているクリエイターの方にもリアクションいただけると嬉しいなと思います。

─大学院の頃からKonelでインターンをしていたと伺っていますが、都さんのクリエイターとしてのルーツについても聞かせてください。

大学院生の頃、自分が働く場所を具体的に考える際に、面白そうな作品をつくっている会社をとにかく探していたんですよね。グッドデザイン賞やミラノサローネに取り上げられている企業をチェックしている中で、フードテック・プロジェクト「OPEN MEALS(オープンミールズ)」の「サイバー和菓子」を見つけて、その実装を担当していたのがKonelでした。これは気象データを元に3Dプリンターでお菓子を成形するというプロジェクトだったんですが、自分も大学生時代に3Dプリンターを活用して多様な形状のプリンをつくっていたりと、3Dフードプリンターを表現の軸にしていたこともあり、親近感を感じてコンタクトをとりました。その後ご縁もあって2021年4月に正式に入社することとなりました。Konelの入社後も『植木1/2』という、植木鉢を叩き割り、その破片をプリントで複製し組み直すことで新しい植木鉢を生み出すというアート作品を制作したりと、3Dプリンターを使った表現の可能性については日々探求しています。

wagashi Konelが制作を担当した「サイバー和菓子」は、気象データをもとに独自アルゴリズムを開発し、3Dフードプリンターで成形した和菓子。未来的コンセプトで世界の評判を得たフードテック・プロジェクト「OPEN MEALS(オープンミールズ)」において、超未来型レストラン構想に向けた取り組みとして企画・誕生した。

─今回の『100 COPIED BANANAS』の肝ともなる3Dプリントのルーツはすでに都さんの学生時代にあったもので、Konelの接点ともなった部分なんですね。ルーツの話となったので少し遡りますが、都さんはどのような少年時代や学生時代を過ごしていましたか?

もともと小さい頃から工作が好きで、幼稚園から小学校まで8年くらい工作教室に通っていました。それに対して周りが褒めてくれたりリアクションしてもらえたりするのが嬉しいと感じるような子供で。小学校の時に読んだ漫画にトンファー(琉球古武術の武器)が出てきて、それが欲しくなって自作したりしてましたね。ホームセンターに自分で行って、木材を店員さんにお願いしてカットしてもらって接着して。完成したそれを懐に忍ばせて登校したりしてました。

─買ってもらうじゃなくて自作しようと発想するあたりが、今の都さんらしさを感じますね。

中高はずっとバスケをやってたのですが、その傍らで文化祭のお化け屋敷では時間帯によってコースが変わるゴリゴリに凝ったギミックを考えたり。大学の進路を決めるときに、やっぱり自分はものづくりに近いところに行きたいなと考えるようになりました。Konelはクライアントワークをやりながら自主制作ができる環境と自由な風土があって、今の僕にとっては最適な場所だと感じています。

P1139130

─次回作の構想や、チャレンジしたいことなどはすでに考えていますか?

今回の『100 COPIED BANANAS』は、僕という存在や労力をできるだけ消して黒子に徹したというお話をしましたが、バナナの置き方とかスキャンの方法とか、僕がセットすることで出た誤差というのも微細ながらあると思っています。どれだけ機械的にこなそうとしても人の手が入る限り、ヒューマンエラーのようなものが介入する。デジタルとアナログを行き来することで、隠しきれない人間臭さみたいなものが浮き出てくるということがわかったので、今度はそれを逆手にとろうとしています。詳しいことはまたリリースできるタイミングでお知らせしたいと考えていますが、「デジタル化によって露呈する複雑性の彫刻」といった仮コンセプトで、絵画のキャンバスを舞台とした3Dプリント作品を構想中です。

─今回の『100 COPIED BANANAS』も、人間とテクノロジーの間を行き来する価値の考察という側面があると思うので、通じるものがありながらも見たことがない作品が今後も生まれてきそうで楽しみです。

そうですね、今回の『100 COPIED BANANAS』は「複製」という行為に焦点を当てていますが、「価値ってなんだろう?」という問いは学生時代からずっと持っていたものです。そんな学生時代に考えたアイデアを、Konelのクリエイティビティにより格段にクオリティアップしてリメイクすることができて、なんだかメジャーデビューできたような気分です。素晴らしいメンバーに協力してもらい実現したプロジェクトなので、ぜひ多くの人の目に止まって「自分なりの価値」について一緒に考えていただけたら嬉しいです。

P1139359のコピー

『100 COPIED BANANAS』
開始:2021年12月1日(水) AM3:00(GMT国際標準時間/日本時間 PM12:00 正午)
終了:2021年12月15日(水) AM3:00(GMT国際標準時間/日本時間 PM12:00 正午)
販売開始価格:一律0.1ETH

『100 COPIED BANANAS』 オークションサイトはこちら

Interview/Text:松岡真吾、都 淳朗

都 淳朗

都 淳朗

Konel Inc. Creative Technologist

1996年生まれ。テクノロジーを起点に、プロダクトデザインやアート、インスタレーションなど、領域や手法に縛られずに、新たな価値観の創出やプロトタイピングによる未来の実装を行う。

Konelは「妄想と具現」をテーマに、30職種を超えるクリエイター/アーティストが集まるコレクティブ。 スキルの越境をカルチャーとし、アート制作・研究開発・ブランドデザインを横断させるプロジェクトを推進。日本橋・下北沢・金沢の拠点を中心に、多様な人種が混ざり合いながら、未来体験の実装を続ける。 主な作品に、脳波買取センター《BWTC》(2022)、パナソニックの共同研究開発組織「Aug Lab」にて共作した《ゆらぎかべ - TOU》(KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展)や、フードテック・プロジェクト OPEN MEALS(オープンミールズ)と共作した《サイバー和菓子》(Media Ambition Tokyo 2020)など。

広告