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2026.10.28
インタビュー | 奥山 幹樹×出村 光世
ゲームの「システム」を社会実装する――カプコン知財部が拓く、共創の土壌(後編)

アイデアは、どうすれば社会を動かす力になるのか。
一人の頭の中にある発想を、まだ見ぬ価値へと育てていく。そのためには、完成した「発明」だけを見るのではなく、アイデアが生まれ、育ち、誰かの手に渡っていく環境そのものをつくる必要がある。
カプコンの知的財産部長であり、「知財デザイナー」として活動する奥山幹樹さんは、知財部の仕事を「土壌を耕すこと」にたとえる。実がなるのを待つのではなく、芽が出る土壌を耕し、そこに人が集まりアイデアの芽が顔を出すことで、新しい共創が生まれていく。
前編では、ゲームとは何か、知財とは何かという問いから、「知財のデザイン」の思想を伺った。後編では、その思想を実際の活動へとどう繋げているのか。バイオテクノロジーやフードテックなど異業種との共創、高校生・大学生との実践、そしてAI時代における人間の「問い」の価値まで、奥山さんが耕してきた「共創の土壌」に迫る。
一人ではできない――異業種ステークホルダーとの本気の「共創」
出村
異業種と組む際に、大切にされている姿勢は何ですか。

奥山
私はいつも「共感が先で、共創が後だ」と思っています。自社の利益の話から入ると、利害関係の衝突になってしまう。そうではなく、まず相手の課題や成し遂げたいことを聞く。そうすると、カプコンと目指している方向や課題認識に共通点が見えて、「共感」が生まれることがある。共感があれば、あとはお互いの技術やアセットを持ち寄って、自然と「共創」へ発展していきます。このときに役立っているのが、物事を大きく捉えずに要素分解したり抽象化したりして捉えていることです。
「要素分解」は、私が普段から自然にやっているインプットの方法です。ゲームの用語をそのまま「ゲーム」と理解するのではなく、ゲームから連想できるキーワードや状態、影響を要素に分解していく。すると、「挑戦」「楽しい」「コンティニュー」「協力」「ウェルビーイング」などたくさんの要素が生まれます。それを頭の中にインプットしておくことで、他の何かと組み合わせたり、共通点を見つけたりしやすくなる。要素分解と抽象化をセットでやっている、という感覚です。
「言葉のリデザイン」と同じ作業なんです。たとえば、ゲームを「ゲーム」という言葉のまま扱うと、どうしても「ゲーム」をそのまま組み合わせるゲーミフィケーションの発想に留まってしまう。でも一度その言葉をほどいて、要素に分解して、抽象化する。すると、まったく別の何かと組み合わせられるようになる。知財という言葉を「チザイ」まで拡大して捉え直したのも、まったく同じ発想です。言葉が変われば、見えるものが変わる。見えるものが変われば、できることが変わっていきます。
まだやったことのないことも含めて、世の中にあるものすべてがコラボの対象だと思っています。日本のゲーム産業が盛り上がることで、売り上げ規模が拡大するほかに、日本のゲームコンテンツ(知財)が世界に届けられることで、世界に対してどんな社会貢献ができるのか。知財部では、知財を起点にしてその先にある社会的意義まで考え、その中で必要となる知的財産権の取得をすることが大切だと思っています。ちなみに、この要素分解や抽象化を後押ししてくれているのが、知財図鑑さんの「idea Landscape」というツールです。特許を要約して要素分解しやすいようにしてくれますし、アイデア生成で世の中にある課題を知れたり、未来を描く手助けをしてくれます。
出村
「異業種共創」の象徴的な事例が、今年2月に渋谷PARCOで開催された特別展示「THE AUTHENTIC OFFICE(ジ・オーセンティック・オフィス)」ですよね。バイオアートコレクティブ・LOM BABY主催のもと、最先端バイオテクノロジーで『バイオハザード』の「t-ウィルス」を非病原性で具現化するという展示でした。


奥山
きっかけは、Transeedsさんから「架空のt-ウィルスをつくれます」というお声がけをいただいたことでした。Transeedsさんは、バイオテクノロジーとアートを組み合わせた表現をされていて、以前から意見交換するなどの交流があった企業でした。
従来であれば、キャラクターのイラストをプリントしたり造形物にすることが多かった。でも今回は、「ゲームの中に存在するもの」を、最先端のバイオテクノロジーとアートで現実世界へ出現させた。ゲームはアートと同じく人々の感性を刺激するものです。また、ゲームはユーザーの恐怖や驚きなどの体験と共に脳に記憶されています。前編で話した「感性開発企業」として、ゲームというフォーマットを離れた現実世界で人々の感性を刺激することができた実証実験だったと思っています。このt-ウィルスは、「THE WORLD BIOHAZARD 30周年展」でも展示されます。是非、ご覧ください。

リンク:THE WORLD OF BIOHAZARD 30周年展
出村
バイオテクノロジーとIPの掛け算でもっと「未来の妄想」ができるかもしれませんね。
奥山
たとえば、Transeedsさんは「龍肉」を非動物性タンパク質で表現するフードテックの取り組みを行っています。架空の生き物の肉を、現実の食品技術によって表現することができる。ゲームの世界に出てくるファンタジーの生き物の肉も発想として表現できる可能性があるということで、ゲームIPとフードテックの未来に可能性を感じています。
日本成長戦略の17の戦略分野には、ゲームを含む『コンテンツ』と『フードテック』が共に掲げられています。今後、日本のゲームコンテンツとフードテックを掛け合わせた新しい食品体験が生まれて、これが気候変動の影響を受けずに量産ができれば、ゲーム世界に存在する架空の生き物の新規食品が、世界に拡がって、新たな食文化や食体験をつくったり、飢餓をなくすことに貢献できる未来があるかもしれない。そんな未来妄想をしています。

出村
奥山さんは、高校生・大学生向けの実践プログラム「PROTOS(プロトす。)」や、客員教授を務める大阪工業大学、フィリピンのマプア大学でも、この思考法を伝えていますよね。
奥山
学生たちには「常識や経験によって狭まった思考を拡げる必要があること」を伝えています。
人それぞれ感性や経験、興味関心が異なるので、学生のみなさんには、私の考えを教えるのではなく、アイデア生成のやり方の一例として共有しました。物事をそのまま捉えず要素分解してインプットすること、抽象化することで共通点を見つけて組み合わせることを学生にも共有し、「マジカルバナナ」の大喜利をやりました。普通はバナナと言ったら「黄色」で連想したり「果物」で連想したりしますが、バナナの状態に着目すると「バナナは緑から黄色に変わる」「黒いシミができる」「皮がむける」という事象にも要素分解できます。そうすると、「日焼けの要素と一緒!」と気づく。ここから、バナナの葉を日傘にできる?とか、バナナってどういう栄養素があるのかや、バナナの葉や皮って捨てるのは勿体ないとか、気候変動で日焼け対策がより必要になってるとか、日焼けって人間だけの問題なのかとか、バナナの生産者の課題は何なのかとか、要素分解したり抽象化することで色々な課題に気づけたり、物事の深堀りをすることができたり、ステークホルダーを知るきっかけになったりします。これをカプコンに置き換えたときに、「もし気候変動により外に出られない生活を強いられた未来があった場合、そのときにカプコンは何をしていて、社会に対してどんな貢献ができているか」を考えることで、2040年、2050年のカプコンの未来のことも考えることができます。教えているというより、自分の変わった思考法を共有して刺激を受けてもらう感覚です。実際、僕自身も学生から学ぶことが多いので共に気づきを得る場になっています。
また、クリエイターなどエンタメ産業の人材を育てる必要があることは、カプコンだけでなくゲーム産業全体の課題でもあります。知財部だからこそ、人から生まれる知的創造活動を促し、アイデアを柔軟に考える方法を次世代の方に知ってもらいたい。社内だけでなく「社会の土壌」を耕して、未来のクリエイターや共創仲間を育てることも知財部の役割の一つだと思っています。教育を通してカプコンのことを知ってもらい、ゲーム産業に従事することに興味を持ってもらえたらうれしいです。
出村
東京ゲームショウ2026で大阪の町工場とコラボしたものが展示されたと聞きました。
奥山
ロックマン × FactorISM 1/1スケール「ロックバスター」です。東京ゲームショウ2026のカプコンブースでは、『ロックマン』の「ロックバスター」を実物大で再現した、1/1スケール「ロックバスター」を特別展示していました。この展示は、カプコンと、大阪を中心としたものづくり企業によるオープンファクトリープロジェクト「FactorISM(ファクトリズム)」とのコラボレーションにより実現したものです。FactorISMは、大阪を中心とする100社を超える町工場などが参加し、製造現場を一般に開放する活動を行っています。接点となったのは、近畿経済産業局が実施した「LOCAL X STAGE 2025」。LOCAL X STAGEは、地域の産業コミュニティと大企業を繋ぎ、共創に繋なげる取り組みです。そこで、町工場の持つスキル、情熱、課題などを聞くことができ、交流が始まり今回のロックバスター制作へと発展しました。制作では、それぞれ異なる専門技術を持つFactorISM参加企業が役割を分担しており、株式会社エムズコーポレーション(大阪府四條畷市)が、造形を担当。アルミの無垢材からロックバスターのパーツを削り出し、複雑な曲面を持つデザインを、ミクロン単位の高精度な切削加工技術によって立体化しました。有限会社電研(大阪市生野区)は、削り出されたアルミパーツに「アルマイト処理」を施しました。一般的な塗装のように表面に色を塗るのではなく、アルミ表面に形成した皮膜を染色する技術を採用しています。特にロックマンを象徴する「青」を再現するため、工場内で色を一から開発。独自のクロムフリー電解研磨技術などを組み合わせ、カプコンの発表では「究極の青」と表現される仕上がりを実現しました。
完成したロックバスターは、単なるキャラクターアイテムというよりも、ゲームの中にしか存在しなかったものを、実際の工業製品と同等の素材・加工技術で現実世界に持ち出した展示物です。ゲームのIPと地域の町工場が持つ高度な加工技術と組み合わせることで、デジタル上にしか存在しなかったものが、町工場の技術によって『本物のモノ』として現実世界に再構築されています。一方、町工場側にとっても、通常の工業部品とは異なる、一般ユーザーが知っているゲームキャラクターとのコラボレーションによって、自社の加工技術を直感的かつ分かりやすく伝える機会になっていると思います。カプコン、地域、町工場が互いの課題を認識し、共感と情熱で実現した例の一つです。
リンク:「東京ゲームショウ2026」カプコンブースにて、「究極の青を追求した1/1スケールロックバスター」が展示! | 株式会社カプコンのプレスリリース

「ワクワク」をデザインする――知財部が組織のハブになる未来

出村
社内と社会の「土壌を耕す」。まさに「知財デザイナー」という仕事の本質ですね。特許や法律は堅苦しいイメージがありますが、社内に“ワクワクする空気感”をデザインするために大切にしていることは何ですか。
奥山
僕は、知財部の仕事を「土壌を耕すこと」だと思っています。権利だけに執着すると、実がなる(完成度の高い発明)のを待って、それだけを収穫して権利化しようとします。でもカプコン知財部は、芽が出る土壌(文化)そのものを耕したい。土を耕し、種をまき、水や光を与える。実がなればそれを収穫して知的財産権で保護し、社会に届ける。実がならずに枯れてしまった芽も、それは失敗ではなく、土壌の栄養になって次の芽が育ちやすくなる。この土壌、つまり文化こそが、価値のある会社の資産になると思っています。
大切にしているのは、常識にとらわれず未来をイメージすること。ワクワクする空間を共につくっていくこと。ワクワクは、アイデアが生まれる重要な環境です。だから、誰かのアイデアを馬鹿にしないこと。誰にも理解されず笑われるようなアイデアも発言できる場をつくること。そして、相手に耳を傾け困りごとを聞くこと。好きなこと・得意なことを披露すること、それらを仕事に結びつけて、得意なことを持ち寄って未来に進めることが共創と考えています。
出村
とはいえ、前例のない挑戦をするのは困難も伴いますよね。
奥山
挑戦をする前に、社内では各部署に課題や理想像のヒアリングをしています。他部門や会社全体の利益になる挑戦をすることを意識していて、自分の部署の評価(出願件数など)のためではなく、会社全体やユーザーの困りごとを解決する「利他」の精神でロジックを組んで挑戦しています。それを見た他者が刺激を受けて、「自分でも挑戦してみよう!」「アイデアを共有してみよう」という行動に移してくれることも起きています。
出村
そのアイデア発想のパートナーとして活用されているのが、知財図鑑が提供するアイデア共創プラットフォーム「idea Landscape」ですね。奥山さんが以前おっしゃっていた「AIはボケ、人間はツッコミ」というフレーズが印象的です。
奥山
AIは、こちらの想定を超えて、ボケ倒してくれます(笑)。たとえば、AIが「フロントガラスのない車」のイメージをアウトプットしてきた時に「そんな車はない」と現在の人間の常識だけで切り捨てるのは勿体ない。そのときに、「そもそもなんで車にはフロントガラスがあるんだろう?」「フロントガラスがない車ならどうなるのか? 目が乾くのか? 」「なぜ目が乾くと問題があるのか」「未来の人はいまよりもっとドライアイが深刻になっているのか」「それを解決する方法は何があるのか/何が足りないのか」「そもそも車とは何か?」「今の自動車業界の課題は何か?」など、人間が「一つのアウトプットから色々なツッコミ(問いや発散)」を入れ、そこから出てきたものを要素分解しながら頭にインプットすることをしています。
「なんでやねん!」は、否定ではなく本質を問い直す最高の「問い」なんです。どんなアイデアでも否定をせずに、それに対してツッコめるところを探す、またはそれに対してボケを重ねてアイデアを拡張していくことが必要。AIのアウトプットをそのまま正解として受け取るのではなく、自分の感性のフィルターに通して、人間が問い直すことが大切です。
生成AIが特許の要約や明細書作成を自動化する時代になるほど、この人間の「ツッコミ(審美眼・問いを立てる力)」の価値が高まっていく。結局、AI時代に人間に残る価値は「問いを立てる」ことだと思う。だからこそ、これからの時代は人間自身が個性を磨き、標準的な人間ではなく、尖った先の頂点に居続けられるように自分自身がIP(唯一無二の存在)にならなければいけないと思っています。
組織の「あわい」を照らすハブへ
出村
知財部が「守りのバックオフィス」から、人間とAIの創造性を最大化するハブになっていくわけですね。
奥山
組織の「あわい」を照らし、共に輝くことを目指しています。そのためには、まず自分を磨いて光ることができるようにならなければいけない。「自分を磨き、共に輝き、あわいを照らす」。この三つを大事にしています。共に輝くために自分を磨く、あわいを照らすために共に輝く。利己より利他を意識して、日々努力しています。
知財部は、企業が成長する過程で生まれた役割の一つに過ぎません。知的財産権の取得や管理という機能は、「人の創造的活動を企業成長へ繋ぐデザイン機能」の中に包含されるべきものだと思っています。組織のあわいを照らすことができれば、色々なアイデアが生まれ、色々な物事が前に進み、会社全体が成長し、良いゲームコンテンツを社会にたくさん送り出せるようになると知財部では考えています。
前編でもお話ししたように、カプコンという社名は「カプセルコンピューター」――遊びを詰め込んだカプセルです。カプセルの中に一緒に入って、お互いの得意なことを持ち寄り、背中を預け合って面白いコンテンツを作り、明るい未来を切り拓く仲間が必要です。そのために、知財部では、アイデアが生まれる土壌を耕し、教育を通してクリエイターを目指す人材を育成し、そして自分たちが率先してそのカプセルの中でワクワク楽しく仕事をしなければならないと思っています。
ゲームで育った人たちの手によって未来をつくっていく。それは、ゲーム大国・日本で育ち、ゲームが社会に浸透した日本だからこそできることだと思っています。その人たちと、チザイであるアイデアを出し合って未来社会を切り拓いていきたいです。

前編はこちら。
インタビュー:出村 光世 編集・撮影:福島 由香



















