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2026.10.28
インタビュー | 奥山 幹樹×出村 光世
ゲームの「思想」をデザインする――カプコン知財部が語る「問い」と感性開発(前編)

ゲームは、ただの「娯楽」なのか。
挑戦して、失敗して、工夫して、また挑戦する。誰かと協力し、ときには競い、達成すれば報酬を得る。ゲームには、人を夢中にさせるだけでなく、人の行動や感性を動かす様々な仕組みが組み込まれている。
では、その「ゲームの仕組み」をゲームの外へ持ち出したら、何が起こるのか。
株式会社カプコンの知的財産部長であり、「知財デザイナー」として独自の活動を続ける奥山幹樹さんは、そんな問いを約20年にわたって考え続けてきた。
今回、奥山さんが見つめるのは、キャラクターのライセンスコラボを超えた、ゲームそのものが持つ「システム」と「思想」だ。ゲーム会社が培ってきた、人を夢中にさせ、行動を促し、感性を刺激する知見を、ゲームの外にどう展開していくのか。
その発想の根にあるのが、「知財」を権利だけではなく、人が生み出すアイデアや会話、体験まで含めて捉え直す「チザイ」という考え方だ。前編では、ゲームとは何か、知財とは何かという問いから、ゲームの構造を社会に応用する発想、知財部みずからの「妄想」から生まれた特許、そして「カプセル」と「公園」のメタファーで語られる共創まで、奥山さんの「知財のデザイン」の思想に迫る。
ゲームという存在の再定義――「生活」に溶け込むプロダクトと「問い」からのブランディング
出村
お久しぶりです! そもそも奥山さんは、立命館大学でロボティクスを専攻し、新卒では医療機器メーカーに入られた。そこからゲーム業界に飛び込まれた「リアルな社会実装」のバックグラウンドをお持ちですよね。
奥山
はい、そうです。現在は、カプコンで知的財産部長を務めています。特許権や商標権を守るだけでなく、知財を使って新しい事業や価値をつくる、またゲームコンテンツ(知財)が社会にもたらす影響を知財目線で考えるなど、知財をデザインする仕事をしています。
もともと、大人になったら誰かの役に立つ仕事、ユーザーから直接「ありがとう」と言ってもらえる仕事に就きたくて、医療機器メーカーを選びました。人の健康を助けるという社会貢献が、目に見えて分かりやすい領域だったので。ですが、開発を希望して医療機器メーカーに入社したものの、配属されたのは知財部でした(笑)。最初は「なんでやねん」と思いましたが、実はものづくりよりプロデュースやデザインが好きだったので、結果的に知財の道がすごく合っていました。

出村
とはいえ、医療機器と違ってゲームは「別になくてもいいもの」という感覚もあったのでは?
奥山
子供のころからずっとゲームはしてきましたが、入社当時は「ゲームは娯楽、嗜好品」と思っていました。そこから「知財から見たゲームとは何か」「知財とは何か」「ゲームは産業や文化の発展にどう貢献するのか」という問いを、自分自身に20年間問い続けてきたんです。
ゲームとは何か。ゲームというのは、挑戦して、バトルして、失敗して、工夫して、また挑戦して、達成して、報酬を得る――この体験サイクルそのものです。プレイヤーは遊びながら仮説と検証を繰り返し、フレーム単位の瞬時の観察と判断が求められる。マルチプレイなら役割と責務が生まれ、コミュニティも形成される。つまりゲームは、社会というものを学べる教育ツールでもあるんです。
また、知財とは何か、知財部は何のためにあるのか。この問いを立てないと、「知財=特許権や商標権」という、言葉に与えられた定義の中だけで考えてしまう。そうすると、自分の行動や発想が、その言葉の枠の外には出られなくなってしまいます。
私は、特許権や商標権などの「知財」だけでなく、その前段階にあるアイデアや会話、体験まで含めて広く捉えています。そうした、人から生まれる知的な創造物全体を、私は「チザイ」として考え、知的創造物が如何にして生まれるかに着目しています。言葉を少しリデザインするだけで、扱える範囲がぐっと拡がるんです。そのチザイがぐるぐる循環し続ける仕組みをデザインするのが、私たちの知財デザイナーの仕事だと思っています。
ゲームのシステムを、社会に実装する
出村
その視点から見て、今「ゲームというプロダクトが社会に与える影響力」をどう捉えていますか。
奥山
私が一番強く感じているのは、ゲームが「娯楽」の枠を超えて生活や社会に浸透し、「ゲームと生活の垣根がなくなっている」ということです。かつてゲームは「限られた人間がやるもの」でしたが、誰もがゲームをプレイし、歩くこと(位置情報ゲーム)や睡眠(睡眠計測ゲーム)など、生活行動そのものがゲームのシステムに組み込まれる時代にもなりました。
ここで一つ、誤解されがちな点を申し上げておきたいのですが、私が言っているのは「何かにエンタメ性をもたせて生活をゲーム化する」、いわゆるゲーミフィケーションのことではありません。「ゲームそのものが生活(文化)になっていく、ゲームが人間を成長させている」という話なんです。似ているようで、ちょっと違うんですよね。
つまり、キャラクターのライセンスを許諾することでも、単にエンタメ性を持たせるゲーミフィケーションでもない。教育ゲームである必要もない。ゲームを体験した人の感性を刺激し、社会性を育んでいる――その意味では、ゲームはすでに社会の中に実装されている。その中で知財部の目線で見た時に、カプコンが果たすべき責任は何なのかを考え、経営理念に照らして知財部がすべきことを明確にして、知財部の役割を拡げていくことが必要になっています。知財の権利化や保護などのいわゆる従来の知財業務も強化しながら、さらにそこから事業のために、社会のために、知財部が果たすべきことを日々考えながら働いていています。
「ゲームと生活の垣根がなくなる」という未来予測と、カプコンのブランディング
出村
その「ゲームと生活の垣根がなくなる」という未来予測は、カプコンのブランディングや経営理念とどう結びついていくのでしょうか。
奥山
カプコンには、「ゲームというエンターテインメントを通じて『遊文化』をクリエイトし、人々に感動を与える『感性開発企業』」という経営理念があります。
ゲームで得た驚きや感動、悔しさや達成感は、人の感性を刺激しています。そして、その感性が刺激された人から、次のアイデアが生まれる。ゲームは、未来の知的創造を育むチザイと知財部では捉えています。
ゲームを通じて得た驚き、悔しさ、達成感が人の感性を刺激し、その刺激された人からまた次の新しいアイデアが生まれてくる。この「感性開発」の循環をデザインすることも、私たち知財部の仕事です。
だから知財部の役割も、知的財産権を保護する存在から、チザイであるゲームによってどんな未来社会をつくるのか、どう産業や文化の発展に貢献するのかを考える役割へ変わっていくはずだと思っています。
世の中にはYouTubeやTikTokなどの動画コンテンツがあふれていますが、あれは基本的に画面を眺める受動的なコンテンツですよね。一方でゲームは、コンピューターと対峙し、瞬時にフレーム単位で自分の判断と行動を結びつける「能動的でインタラクティブな体験」です。脳の使い方や、行動に与える刺激が全く違うんです。ゲームが生活に溶け込むということは、人がゲームに挑戦する中で、知らず知らずのうちに成長・進化していくことだと思っています。
知財部発のアパレルブランド「AND CHIPS」

出村
その受動・能動の違いは大きいですね。ゲームが持つ体験価値のアプローチとして立ち上げられた、アパレルブランド「AND CHIPS(アンドチップス)」の話も聞かせてください。
奥山
「AND CHIPS」は、様々なイラストレーターやクリエイターとコラボレーションして、カプコンのIPを新しい解釈で再構築するカプコン発のファッションブランドです。
まず、カプコンのキャラクターを知らない人にもカプコンを知ってもらうことが必要であり、認知拡大の課題がありました。その解決策の一つとして、ファッションを通じてブランドやキャラクターを浸透させる狙いがありました。2025年は『ストリートファイター6』の春麗(チュン・リー)やジュリを、イラストレーター・サンレモ氏に「休日」をテーマに描き下ろしてもらっています。
単にキャラクターの絵をプリントしたTシャツにはせず、ゲームが持つ「挑戦、感動、勇気」という体験価値を服に宿らせたかった。AND CHIPSの服を着た人がなんだか勇気が湧いてくる、あるいは「かわいい」と思って袖を通しただけでワクワクする――そういうアパレルをつくりたかったんです。知財部として、「ワクワク」は新たなアイデアを生むものとして大事にしています。また、外部のイラストレーターさんに活躍の場をつくることも意図していました。
私は事業部の人間ではないんですが、このブランドの立ち上げにあたって企画そのものを作って事業部に持ち込みました。イラストレーターの選定からデザイン、モデル選定、撮影まで、プロデューサー・ディレクターの役割を知財部が担って、製造販売は事業部の決裁で行う座組みです。これは事業部の理解や協力を得ることがなければ実現できませんでしたが、知財部の役割を「権利の取得と管理」だけに閉じない、アイデアの創出まで担う実践でもあります。

出村
反響はどうですか?
奥山
反響として面白かったのは、社内外で「買いたい」「どこで売ってる?」との声があったことはもちろん、こういった部署横断のプロジェクトに刺激を受けて、社内でも眠っていたアイデアが共有されたり、情熱が動き出す場面がみられたりするようになりました。また、他部署からも相談が来ることが増え、共創の機会が増えることにも繋がりました。
ちなみにブランド名は、知財部の社内ポータルサイトが「CHIPS(CHIZAIBU PORTAL SITE)」であることに由来していますが、個のスキルや情熱などの欠片(CHIP)が集まって一つのプロダクトをつくる想いが込められています。ゲームIPがアパレルを介して社会に拡がっていく、その挑戦でもありました。
アダストリアとカプコンが語る新ブランド立ち上げの裏側 クリエイターとの共創で顧客接点を拡大する方法 (1/3):commercezine

キャラクターコラボを超えて――ゲームシステムと「チザイ」の社会実装
出村
ここからが本題です。キャラクターを貸し出すライセンスビジネスを超えて、ゲームの“ロジック”を社会実装するとは、具体的にどういうことでしょうか。
奥山
特許技術やキャラクターをライセンスすることではなく、「ゲーム体験を通じて人が成長していくこと」そのものが社会実装なんです。ゲーム内でキャラのレベルが上がるように、プレイヤー自身も知らず知らずのうちに思考力や社会性を育んでいく。そうして体験者の感性が刺激され、社会全体のレベルが上がっていく循環こそが、僕たち知財部が考える社会実装の姿です。
社会実装にあたって私がやっているのが「要素分解」と「抽象化」です。「ゲーム」の用語をそのまま理解するのではなく、そこから連想できる要素に分解して抽象度を上げる。これは「言葉のリデザイン」と同じ作業で、知財を「チザイ」まで拡大して捉え直したのも同じ発想です。言葉が変われば、見えるものが変わる。見えるものが変われば、できることが変わる。抽象度を上げていくと、異業種の相手であっても目指すところの共通点が見えてくる。共創の前に、まず「共感」が生まれます。

出村
その知財部の「妄想力」が、2023年の知財図鑑との共同の「妄想ワークショップ」で、実際に4件のアイデアから13件の特許取得に結実しましたね。

【知財図鑑×カプコン 共同妄想ワークショップから生まれた特許権の一例】
NFTアイテム価値向上システム(特許7559100)
⇒ アバターがゲーム内で活躍すると、連携するNFTの価値が高まるシステム
育成DAOシステム(特許7519484)
⇒ DAO(自律分散組織)で共通のデジタル生命体を育て、リアルな人間も成長するシステム
NFTファッション査定システム(特許7556071)
⇒ リユース・リサイクル活動の実績と、NFTファッションの査定評価を連動させるシステム
ふるさと還元(特許7521040)
⇒ ゲーム内課金や行動を通じて、楽しみながら自治体へふるさと納税(地域還元)できるシステム
奥山
はい。これらはまさに、「カプコンが新しい分野でコラボレーションをすればどのようになり、どのような課題を解決できるか」を妄想して生まれたアイデアでしたね。
たとえば「ふるさと還元」は、ゲーム課金のエネルギーがそのまま地域課題解決(自治体への納税)に循環する仕組みです。「DAOシステム」は、地域や家族などがそれぞれの役割を果たすことで会話や一体感、報酬を生む仕組み。「ファッション査定」は、廃棄される衣類のリサイクルを促す仕組みです。挑戦、協力、報酬などのゲーム体験を、社会課題に当て嵌めることで、社会に貢献できる仕組みを生み出せる可能性があります。

出村
これらの特許出願は、単に自社の権利を守るだけでなく、未来の構想を提示する役割も果たしていますよね。
奥山
まさにそうです。特許の出願・公開は、未来のアイデアをカプセルに詰めて世の中に届け、夢を見せる「メディア」だと思っています。ゲームが社会に浸透したワクワクする未来を描き、それを世の中に公開し、次の仲間を集める手段としても、特許出願は機能します。未来妄想でアイデアを出しただけでなく、特許の公開公報もコンテンツのひとつとして捉え、そのコンテンツで人をワクワクさせることで共創を促すことへのチャレンジでもありました。
また、Konelさんと共同出願した特許の裏にも、その何倍もの権利にならなかったアイデアがありました。でも、権利にならなかったアイデアに価値がないとは全く思いません。アイデアが出ることに触発されて、また次のアイデアが生まれる。実がならなかった芽も枯れれば土壌の栄養になり、次の芽を育てるきっかけをつくります。
「カプセル」と「公園」――共創を生むワクワク
出村
共創の表現として、奥山さんは「カプセル」と「公園」という非常に分かりやすい比喩を使われていますよね。その考え方を詳しく教えてください。
奥山
私はカプセルの「閉じる」「開く」「守る」「届ける」という特徴に着目しています。カプコンという社名は「カプセルコンピューター」に由来していて、「遊びを詰め込んだカプセル」という意味と、「コンテンツを違法コピーや粗悪品から守る硬い外殻」、両方の意味が込められています。

奥山
空気や水や液体といった「カタチがなく運べないもの」を硬い外殻で保護するからこそ、大切な人に安全に届けることができる。ゲームの遊びや体験も同じで、知的財産(無形資産)というふわふわしているものを知的財産権という硬い外殻で保護してパッケージングするから、世界中に安全に届けられます。
僕は、カプセルには「閉じて守る」機能だけでなく、「開いて届ける」という機能もあると思っています。特許権はこの外殻そのものですが、必要に応じて「クロスライセンス(物々交換)」などで互いの権利を開くことで、開発部門はユーザー体験を向上させる高品質なゲームをつくれるようになる。著作権の「二次創作ガイドライン」もカプセルを開くことでユーザーに参加できる余白を外に共有している。適切に権利を開いていくことで、コンテンツを一緒に育てていくことができる。オープンにすることは、独占権の放棄ではなく「共創であり、仲間集め」なんです。
出村
そのオープンな仲間集めの場を「公園」と表現されていますよね。
奥山
はい。子供のころを思い出してほしいのですが、公園には滑り台やブランコというリソースがありますが、人がいなければただの空き地です。しかし、誰かが公園にあるリソースを使って楽しそうに遊んでいると仲間が集まり、その仲間が「ボールや縄跳びなどの新しいリソース」を持ち寄ったり、「新しい遊びのアイデア」が自然発生的に生まれたりしていく。そしてその遊びが拡がり、他の公園でも別の人たちが同じように遊び、さらにそこから派生して遊びが発展していく。
権利を中心に考えると「どこまで許すか」という排他的な発想になりますが、仲間と共に育てることを中心に置くと「どうすれば一緒に遊べるか」「どうすれば笑顔になれるのか」という共創の発想になる。遊びを詰め込んだカプセルを開いて、みんなが遊びに来られるワクワクする場、つまり「公園」をつくることに近い発想が、私たちの考える知財のデザインなんです。
著作権に関しては、二次創作ガイドラインを公開していますが、実は「権利の許諾」という側面だけではなく、ユーザーが私たちの仲間になるという発想に近い。当社のゲームタイトルに触れてワクワクした人が、それぞれの感性でカタチにして、それを誰かに共有する。この循環は、カプセルを開くことでまわっていく。ゲームタイトルが、会社から一方的に届けるだけのものではなく、IPに対して愛があるユーザーと一緒に育てていくものになる。
心を開いて語り合い、ワクワクを共有することによって人の知的創造を促していく。それがカプコン知財部の目指しているところであり、社内でも社外でも実践していく必要があると思っています。

後編へ続く。
後編では、渋谷PARCOでの『バイオハザード』t-ウィルス×最先端バイオアート展示の舞台裏、フードテックと掛け合わせる「妄想」、学生共創プログラム「PROTOS」、そしてAI時代における人間の「ツッコミ(審美眼)」の価値と「組織のあわいを照らす知財ハブ」の未来像に迫ります。
インタビュー:出村 光世 編集・撮影:福島 由香



















