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2022.03.16

レポート | 体験レポート

テクノロジー×デザイン×起業家精神―「神山まるごと高専」がひらく、新しい学びのスタンダード

神山まるごと高専

人間の未来を変える学校「神山まるごと高専」

15歳から学ぶ、「テクノロジー×デザインで人間の未来を変える学校」―。従来型の日本教育とは異なるコンセプトを掲げた、高専としては約20年ぶりの新設となる「神山まるごと高専(仮称)」が徳島県山間部の神山町に誕生する。

本プロジェクトを牽引するのは約60名の有志メンバーと、「Sansan」「CRAZY」「PARTY」等を興した第一線の起業家たち4名。現在、2023年4月の開校を目指し立ち上げを進めている。

神山まるごと高専は5年制の私立高等専門学校であり、徳島県・神山町をまるごと学びのフィールドに活用した、実践型教育を展開する予定だ。従来の技術教育中心の高専とは異なり、ソフトウェアを中心としたテクノロジーや、UI・UX・アートなどに関連したデザイン教育と、起業家マインドを育成する教育を実施し、どんな社会でも世の中を変えていける人材「モノをつくる力で、コトを起こす人」を育成することをコンセプトとしている。

すでにサイボウズ、星野リゾート、スノーピークなど第一線で活躍する企業の代表が講師を担うことが決まっており、クラウドファンディングやイベントで設立前から熱を帯びた支持と注目を集めている同校。神山まるごと高専で事務局長を務める松坂孝紀氏に、学校設立予定地となる現地を案内いただきながら、この高専が目指すビジョンについて話を伺った。

matsuzaka 神山まるごと高専の校舎設立予定地にて、高専事務局長(予定)の松坂孝紀氏。

21世紀の人間力を育てる、5年制のカリキュラム

「高専」とは、専門性に特化した15歳から20歳までを過ごす5年制の学校。日本独自の教育スキームであり、いわば大学のような自由・自主性が重んじられ、生徒たちはアウトプットを重視した創造性を養っていく。神山まるごと高専が設立すれば、私立高等専門学校としては日本で4校目の新設校となる。神山まるごと高専は全寮制であり、学生は寮や食堂がある生活の場「ホーム」から、清流・鮎喰川を挟んだ向こう岸の教室や研究室がある「オフィス」へと登校する。

学生たちは自然豊かな神山町の中で、15歳からの5年間を仲間たち(2022年8月に一期生を募集開始予定)と暮らしと学びを共にしながら過ごす。高専という教育システムに着目した理由について、松坂さんは「起業へのファーストトラック」だと話す。

「日本では、社会人になるためのスキームとして高校3年間・大学4年間の計7年間を過ごすことが暗黙のスタンダードとなっています。ですが、この7年間のうち、高校時代の後半は受験、大学時代の後半は就職活動など“何かの準備”のために過ごさなければならない期間が大きな割合を占めています。受験で苦労していざ大学に入ったら、反動で無為なモラトリアム期間を過ごしてしまうなんてことも、よく聞く話ですよね。そんな7年間を受験も就職活動もなく、起業を含むあらゆる選択肢を手にできるような凝縮した5年間にできないかという問いから導き出されたのが、高専というシステムでした」

高専 凝縮された5年間一貫の就学スタイルで、実践型のスキルと人間力を身につけていく。

スクリーンショット 2022-03-07 17.26.48 神山まるごと高専が提供するのは「社会と関わる力」と「モノをつくる力」。多彩な講師陣による起業家精神と、デザインとテクノロジーの両軸によって想像力を学んでいく。

高専出身の学生は22歳の大学生と比べても就職市場では引く手数多な存在。神山まるごと高専ではそれだけに止まらず、高専というスキームをさらに進化させ、社会で活躍し、ゆくゆくは起業も選択できるスキルとマインドを育むことを目的としている。

「この高専で学んだ学生には、進学・留学・起業・就職などできるだけ多岐にわたる選択肢を持てるようになってほしいと思っていますが、特に起業に関しては厚いケアをしていきます。ファンドをつくったりメンター制度のようなものをつくったりなど構想しているものもありますが、一番直接的な学びの方法として、生徒が暮らす寮にあらゆる企業の代表や先輩起業家たちががフランクに毎週訪ねてくる仕組みをつくろうと考えています。もちろん授業でもお招きする予定ですが、成功体験だけではなく、リアルな苦労や葛藤など生々しい話を赤裸々に語っていただくのが重要なのではないかと。今は超人のように凄く見える大人たちも、元の中身は普通の人間であって、その人がどのような出会いやきっかけを通して成長し道を拓いていったのか? というバックグラウンドの部分を学生たちに共有して欲しいと思っています」

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P1152223 豊かな山々に囲まれた校舎設立予定地。2023年春の開校を目指し工事が進んでいる。

徳島県・神山町が持つ、学び場としてのポテンシャル

神山まるごと高専が立地するのは、徳島県の山間に位置する人口5000人の神山町。消滅可能性都市のひとつに数えられながらも“創造的過疎”と呼ばれる町であり、地方創生の文脈では全国的に名を知られる町だ。アーティストインレジデンスをきっかけにアムステルダムからの移住者が取り組む「神山ビールプロジェクト」や、国内外の料理人が一ヶ月以上滞在し、土地の料理に触れながら食を通して地域の人と繋がる「シェフ・イン・レジデンス」など、イノベーティブな取り組みを町をあげて行っている。

神山町には、地方の特性としては珍しい「新しくやって来るものを面白がる土壌がある」と松坂さんは話す。

「元を辿れば、神山まるごと高専をこの神山町に設立するきっかけとなったのは、本校理事長候補である寺田親弘さん(クラウド名刺管理サービス「Sansan」創業者・CEO)が、2010年にサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」を開設したことです。当時の神山町の高齢化率は47パーセント。そんな“限界集落”だった神山町ですが、全国の自治体に先駆けて町内全域に整備した光ファイバー網があったことを強みにサテライトオフィス向けの地域としてIT企業の誘致を始めました。その第1号となったのが、Sansanの「Sansan神山ラボ」でした。当時はまだ、サテライトオフィスなんていう概念もない時代ですけどね。当時から寺田さんは『神山町がサステナブルに発展するには新しい学校が必要だ』と話していましたが、時を経て今回、神山町の全面協力を受ける形で本プロジェクトは実現に向けて動くことになりました。町立神山中学校の校舎を無償で譲渡していただくことや、周辺用地の無償貸与、ふるさと納税を原資とした補助金で、建物や開校後の奨学金などを支援していく予定です」

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P1152276 左手に見える白い建物が、高専の寮に改装される予定の神山中学校。

3月末に移転する予定であった町立神山中学校を改装して高専の寮に、川を挟んだ向かいに新校舎を設立する。学ぶのは、テクノロジー×デザイン×起業家精神。卒業を迎える20歳で最も広い選択肢を実現するために、トップクラスの学びと創造的な風土を提供していく。

「一期生が40人程度ということもありますが、決められた部活動を学校側が用意する予定はありません。ただ、部活をつくりたかったら自由につくっていいし、もし人数が集まらなければ地域の人や外部の人を招いて運営してもいいと思っています。今の日本の学校という制度は、大人がつくった仕組みのなかで子どもがそれを享受するというのが当たり前の構図となっていますが、用意する人・される人という形が続けば、どこまで行っても子どもを子ども扱いし続けてしまうし、その子どもも急に社会に出た途端に大人になることを迫られる。

僕たちがこの高専で大切にしたいのは“どれだけ学生を大人扱いできるか?”ということです。学生が自分の意志で、自分の取れるリスクの中でチャレンジして、失敗した時は痛い目を見るかもしれないけど、そこは僕らでサポートしながらあらゆる経験を積んでもらいたい。神山町は都会のように何でも揃っている町ではありません。ただ、新たなビジネスやアイデアというのは本来“不便”の中から生まれるはずです。この高専に通う学生たちには、神山町の自然も、講師も、設備も、その名の通りまるごと使って吸収して、社会と向き合えるスキルと姿勢を身につけていって欲しいですね」

神山まるごと高専は、一期生の学費無償化を目指す取り組みや、中学生およびその保護者に向けたイベント「神山まるごと高専 presents 未来の学校FES」(3月26日〜27日)を開催するなど、2023年4月の開校に向けて精力的に発信とプロジェクト推進を行なっている。

凝縮された5年間で「どう学ぶか?」を考えさせ続けるこの新たな学び舎から、世界を進化させる未来の起業家たちが輩出される日もそう遠くないのかもしれない。

■基本情報
名称:神山まるごと高等専門学校(仮称)
開校予定日:2023年4月1日
定員数:1学年40人(全寮制)
開校予定地:神山中学校
就学スタイル:全寮制
就学スタイル:テクノロジーとデザイン /アントレプレナーシップ
https://kamiyama-marugoto.com/

文:知財ハンター/松岡 真吾

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