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2025.03.06
レポート
【SFF 2024】交通×決済のシンギュラリティ─シンガポールで見たフィンテックとESGの新潮流

知財図鑑は、JETROのグローバルアクセラレーションプログラムによって選抜された日本のスタートアップ10社の一つとして、世界最大級のフィンテックカンファレンスである「Singapore FinTech Festival 2024」に参加した。
「Singapore FinTech Festival (SFF)」では、世界中から最新のフィンテック技術が集結。知財図鑑もJETROプログラムの一環として、AIを活用した新規事業のアイデア共創ツール「ideaflow」を出展した。現地での“知財ハンティング”を通じて、決済技術やESG(環境・社会・ガバナンス)、エンジニア人材の国際流動など、フィンテックの最前線を目の当たりにした本イベント。この記事では、注目技術を取り上げ、その可能性を探りたい。
関連記事:知財図鑑がJETROに採択、AIを使ったアイデア共創プラットフォーム【ideaflow】を、「Singapore FinTech Festival」に出展
ウェアラブル決済は成熟期へ─リング型デバイスの次なる展開
日本国内と海外で進化するリング型端末での決済
Everingのようなリング型ウェアラブル決済デバイスは、日本でも流通が始まっている。ICチップを内蔵したこのデバイスは充電不要で利便性が高い一方、現行モデルはデビット型であり、チャージが必要で、残高が足りない場合は足止めになる点に注意が必要だ。また、1か月間のチャージ上限額が12万円以下程度に設定されていたり、デバイス自体に寿命があったりと、利便性に対するコストの課題も指摘されている。
一方、シンガポールでは交通機関や店舗で「VISAタッチ」が普及している。そこに目を付けたのが、日本のペイクラウドホールディングスのグループ企業で、シンガポールに拠点を置くWearToPay社。クレジットカード機能を搭載したリング型決済端末を海外市場に展開している。
今回、親会社ペイクラウドの代表に話を聞けたが、「将来的には日本の交通機関でもVISAタッチの導入が進むことを見越している」と、先んじて海外での実績を重ねている状況を語ってくれた。
大阪・関西万博の開催を控える大阪では、大阪メトロや南海電鉄がすでにクレジットカードなどのVISAタッチ決済を開始している。東京メトロも、2024年度中にクレジットカードのタッチ決済やQRコードを活用した乗車サービスの実証実験を開始する予定だ。一方、JR東日本とJR西日本は、2024年4月に在来線車両の装置・部品の共通化に関する検討を開始している状況。
これらが日本国内のデファクトスタンダード(事実上の標準)として定着するまでには、まだ時間がかかりそうだ。と同時に、お金の使い方に対するリテラシーや、債権管理の技術も付随して必要になってくる。日本でも電車やバスなど、日常の中でウェアラブル端末が使えるようになる日が待ち遠しい。
ネイル決済の普及─次世代キャッシュレス決済の挑戦
リング型デバイスの次の進化形として、爪にチップを埋め込む「ネイル決済」を体験した。ネイル決済ならば、家を出る時に端末をつけ忘れたり、リング端末を落としてしまう懸念がないのが良い。
Singapore FinTech Festivalのブースでは、ジェルネイルと爪を一体化し、小型チップを参加者の爪に取り付ける「インフィニオン テクノロジーズ」のデモが行われ、人気を博していた。
来場者が爪に埋め込まれたチップで自販機のジュースを購入する実験も成功。現在はPoC(概念実証)フェーズのため、今後ネイルサロンとの連携を深めながら市場展開を検討している様子。
個人的には皮膚や頭皮へのチップ埋め込みに比べて爪へのチップ埋め込みは抵抗が低いと感じたが、爪は伸びるため交換が必要なのと、ネイルサロンで埋め込む手間を考えると、普及には課題もあるとも感じた。
ESGとフィンテック、持続可能な未来への挑戦
カーボンクレジットを金融商品として流通させる動きが活発化しており、Singapore FinTech FestivalでもESG(環境・社会・ガバナンス)関連技術が注目されていた。その中からいくつかピックアップしてお伝えしたい。
●SUSTAINABLE LAB
「サステナブル・ラボ」はESGデータの管理・分析を支援するツールを提供する日本発の企業。企業のサステナビリティレポートやIR情報を多角的に分析し、銀行やコンサルティング企業だけでなく、自社のESG情報を整理したい企業にも重宝されている。ESGデータの管理が必須となる流れの中で、日本発の企業がグローバルで価値提供していく未来に期待したい。
今回のSingapore FinTech Festival 2024出展のわずか数日前には、台湾で開催の大規模な金融テクノロジーイベント「Fintech TAIPEI 2024」にも出展していたらしい。
●Sagri
衛星技術を活用して農業分野での温室効果ガス削減に貢献するSagriは、衛星から出る波長の反射を分析することで、土中の温室効果ガス含有量を推測する。含有量に応じた必要最小限の肥料散布で、過剰な肥料投下を避けながら環境負荷を低減するとともに、農業コスト削減を実現している。
大手企業の保有する広大な農地への活用だけでなく、個別の農家に対しても、温室効果ガスの削減量に応じてカーボンクレジットを付与するサービスも展開。カーボンクレジット市場が世界的に拡大している近年において、重要な役割を果たすだろう。
●Capy
認証技術の進化が求められる中、CapyはFIDO認証(※)やキャプチャ技術を活用し、フィッシング攻撃や不正アクセスのリスクを低減するセキュリティと利便性を両立するソリューションを提供し、特にユーザーフレンドリーな認証システムを強みとしている。
(※ Fast Identity Online認証。パスワードに依存しない、安全で利便性の高いオンライン認証方式。指紋認証や顔認証、声紋認証、物理セキュリティキー(U2Fキー)など)
声帯認証を導入することで、従来のパスワードやSMS認証よりも高い安全性を確保。GoogleのreCAPTCHAは現状、誤認識が発生しやすく、カスタマーサポートの負担増につながる課題があるが、CapyはシンプルなUIで容易にカスタマイズでき、スムーズな認証体験を実現する。導入・乗り換えのしやすさも強みで、セキュリティ強化とユーザビリティの両面で注目している。
エンジニア人材の国際流動、成長の鍵を握る新サービス
●Talendy
金融に限らず、様々な産業において優秀なエンジニアの採用が、成長の生命線を握っている。日本国内の人口減少が進む中、インドなどの人口増加地域から優秀なエンジニアを採用できるのが「Talendy」が提供するサービス。
インド工科大学(IIT)の学生を対象にした人材プールを活用し、インターンシップのマッチングを支援。採用につなげている。金融を含む幅広い産業で、日本発のサービスが世界での競争力を高めるためにも、こういったサービスの成長に期待したい。
まとめ
人材、データ、テクノロジーとフィンテックの接合
ペイメント、認証技術、ESGテクノロジーなど、最先端の金融技術が集結するこの「Singapore Fintech Festival(SFF)2024」で垣間見えたのは、金融都市を支えるテクノロジー、データ、人材の融合だったように思う。今回のSFFを通じて感じたのは、フィンテックが単なる決済の進化に留まらず、ESG、データ、エンジニア人材と結びつきながら、社会全体の構造変化を促しているということ。フィンテックが決済を超え、社会構造を変革する時代が訪れつつある技術革新が加速する中、未来の兆候を捉え続けたい。
知財ハンター
出村光世 Mitsuyo DemuraKonel 代表 / プロジェクトデザイナー
知財図鑑 代表 / 知財ハンター2011年アクセンチュアに所属時にクリエイティブ集団Konelを創業。東京、金沢、京都、ベトナムを拠点とし、30職種を超える異能のクリエイターと、デザイン・研究開発・アートの領域を横断するプロジェクトを推進。2020年、イノベーションメディア「知財図鑑」を立ち上げ、新規事業とテクノロジーのマッチングを開始。クリエイティブディレクター/プロジェクトデザイナー/知財ハンターとして分野を超えた未来実装を続けている。
(ハントした知財)
編集:福島由香