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2024.11.08
レポート | CHIZAI YOUTH
知財ハンターが巡る、「CHIZAI YOUTH」が見た “これまでにない自由な発想”─【DESIGNART TOKYO 2024】レポート
2024年10月18日から10月27日に都内約100の展示会場で行われ、街歩きをしながら、デザイン、アート、インテリア、テクノロジーなどのジャンルの新たな視点から生み出された展示を楽しめるデザイン&アートフェスティバル
「DESIGNART TOKYO 2024」が開催されました。
今年のDESIGNART TOKYOのテーマは、「Reframing」。各分野における新しい視点から創り出され、来場者の感性に響く新鮮なアイデアや独創的な作品が勢ぞろいしていました。本記事では、5つの会場を巡り、それぞれに展示されたユニークな作品を、知財図鑑インターン「CHIZAI YOUTH」の視点で捉え、「これまでになかった自由な発想」の展示物をピックアップしてレポートします。
(取材・文:小栁 碧羽)
機械式腕時計の魅力を伝える「からくりの森」 / SEIKO Seed
原宿にある、腕時計の様々な楽しさを体験できる発信拠点「SEIKO Seed」で開催された展示「からくりの森」では、機械式腕時計の重要な要素である「リズム」「動力ぜんまい」「時の感じ方」をテーマにした作品が紹介されていました。各作品は、時計内部のメカニズムや時間の流れを独自のアート表現で解釈し、時間の動きや仕組みについて新たな視点で見ることができました。
森のリズム / 小松宏誠
「森のリズム」という自然の木や実、プラスチックでできたものをゴム紐で吊り下げられたプロダクト。1分周期でゴム紐が揺れ、かけらが一斉に動き、リズムを感じることができます。揺れた後に木の実とプラスチックが揺れているさまに時計のさまざまな部品の動きも感じることができました。
ばねの羽根 / 小松宏誠
「ばねの羽根」は、ぜんまいの動きをイメージして作られた2枚のしなやかな羽根が、天秤のようにバランスを保ちながら吊り下げられたオブジェです。この羽根には、下からサーキュレーターが風を送り込み、風量が自動で調整されることで羽根が柔らかく揺れ動きます。風を受けるたびに羽根の角度や動きのリズムが微妙に変わり、その姿はまるで生き物が息づいているかのようです。この不規則で自然な動きが鑑賞者に不思議さとユニークな魅力を感じさせます。
時の足音 / SPLINE DESIGN HUB + siro
「時の足音」という円周上を走るロボットは、時間の流れを象徴する円形の土台の上で動き、まるで生き物のように不規則に跳ねる姿が特徴です。跳ね方は毎回異なり、自然で生物的な動きを感じさせますが、実際には複数のモーターと機構によって精密に重心が移動するよう計算されています。金属的で工業的な質感を持ちながら、動きのなかに生命感が表現されている点が魅力的で、人工物でありながらも生命のような温かみを感じさせる作品です。
100BANCH - 未来をつくる実験区
渋谷にある未来創造拠点「100BANCH」は、2017年にパナソニックが開設した「未来を作る実験区」をコンセプトとするクリエイティブスペースです。若者たちが幅広いジャンルで多様なプロジェクトを展開する場として注目されています。
今年のDESIGNART TOKYO 2024では、「生物 × アート / 自然 × デザイン」と「バイオアート、メディア、バイオ × 食の未来」という2つのテーマで展示が行われました。それぞれのテーマを通じて、アートやデザインの視点から自然やバイオテクノロジーが融合した新しい価値観や未来の可能性を探る内容が展示されていました。
DEW / 高橋良爾
“見るだけで瞑想できる光のアート”「DEW」は、照明機能を持ちながら、光部から水滴が線香花火のように一定のリズムで落ちることで、独特の情緒を生み出す作品です。水滴が落下するにつれて徐々に大きくなり、その際に光の強さも微妙に変化します。
また、水滴が落ちるたびに影が柔らかく揺らぎ、響く音が空間全体に静かな余韻を残します。こうしたリズムと音の効果により、どんな場所にあっても、自然の中で耳を澄ますような静かな風情と、ししおどしのような心地よいリズムを感じる、単なる照明を超えた独自の存在感がある作品です。
HAZAMA / LifehackMaterial
HAZAMAは、「椅子」をテーマに人工物を自然素材に置き換えた独創的なプロダクトです。素材には芝生、竹、藁の3種類が使われていますが、特に印象的だったのは藁でした。
通常、椅子の座面には座り心地を優先して藁の側面が使用されますが、このプロダクトでは藁の断面を大胆に採用しています。この断面の束が敷き詰められた座面は、座った時にまるで「大きなブラシに座っている」ような感覚をもたらし、従来の椅子では味わえない独特の座り心地を実現しています。体の動きに応じて藁がしなやかに反応し、生き物のような触感が感じられる点も新鮮です。また、自然素材と合わせて金属フレームを組み合わせることで、形状の安定感とデザインの発展性が両立されており、自然物と人工物の調和が感じられる作品です。
Home Bioreactor / AgriBioPods
AgriBioPodsによる、食用の細胞を育てる装置「家庭用バイオリアクター(Home Bioreactor)」の展示
2FのGARAGEブースには「生物」をテーマにした作品が多く、中でもバイオ技術に焦点を当てたものが特に目を引きました。
普段の生活で触れる機会が少ないバイオ技術ですが、それが身近になった未来を想像させる展示がいくつも見られました。たとえば、微細藻類のスピルリナを育てる照明インテリア「Home Bioreactor」では、細胞培養が日常生活に溶け込む未来の可能性を示していました。また、人間と魚の細胞や血清を組み合わせて培養した「人魚の細胞」や、さらにその細胞に世界各地の不老長寿成分を組み合わせた培養液「人魚の涙」といった作品もあり、生命の新たな活用を探る試みが感じられます。
PxCell Gem(ピクセル ジェム)は大切なヒトやペットのDNAから作られた唯一無二のDNA宝石。口腔内の細胞や毛などからDNAを抽出し、独自技術で結晶化を行っている。
夜の燈火(うた)『ゼロルクスの光』 / BioCraft
他にも、知財図鑑で紹介された「PxCell Gem」や、イカの発光細菌を用いた光るアート作品「夜の燈火(うた)『ゼロルクスの光』」など、バイオ技術の未来を感じさせる作品が展示されていました。こうした展示は、まだ一般には広まっていないバイオ技術の新たな可能性を示唆しており、バイオが今後のアートやデザインの分野で新たなトレンドとして注目されそうだと感じました。
イカの発光細菌でつくったバイオランプの明かり:夜の燈火(うた)『ゼロルクスの光』
130(ワンサーティ) / MagnaRecta
東京・銀座のISSEY MIYAKE GINZA / 442では、1本のフレームを次々に立体構築していく革新的な立体造形技術をコアに持つブランド「130(ワンサーティ)」が、椅子と机の家具作品「The First 130」を展示していました。
プラスチックペレットを成形した1次元の棒を組み合わせて3次元構造を作る技術で、実物を見ると、角ばりすぎず、座面には適度な窪みがあり、座ってみると硬さと丈夫さがしっかり感じられ、家具としての耐久性とデザイン性がうまく両立されていると感じました。
また、壊れても金継ぎのように修復でき、不要になった際には再素材化して新たな3次元構造体として再利用できる点も、この技術の魅力です。こうした特性により、高いサステナビリティが実現しています。さらに、従来の素材に比べて形状やサイズを柔軟に変更しやすいため、椅子や机以外の家具への応用可能性も感じられ、非常に優れた技術だと感じました。
THE CHAKAI / STUDIO KAZ × SWAG
銀座エリアのSTUDIO KAZ 入船STUDIOで開催されていた「THE CHAKAI」は、マンションの一室に設けられた茶室で、「丹後ちりめん」と「空気の流れを検知する装置、それを用いた映像・音響システムの特許技術」を活用した作品です。
風の揺らぎに応じてプロジェクターが映し出す映像が丹後ちりめんの布上でゆらめき、室内を幻想的に彩ります。極薄の丹後ちりめんで囲まれた空間に入ると、光と映像の効果によって内側と外側の空間が切り離され、特別な空間の体験ができました。この技術は、囲う面の配置を変えたり、円形に囲むなどでさらに多様な空間演出が可能で、茶室の新しい表現方法としての発展性が感じられます。
ブリキのリデザイン展 / 日本製鉄
日本橋兜町エリアで開催されていたのは、世界トップクラスの鉄鋼メーカーである日本製鉄のブリキ事業のプロダクト展示「ブリキのリデザイン展」。主に飲料缶や塗装されたカラフルな缶詰、菓子缶などに使われ、日本製鉄の製品の中で最薄の鉄であるブリキですが、近年の新たなユースケースや新しい魅力をリデザインし、環境優位性が高いサスティナブルなマテリアルとしてのブリキを展示していました。
例えば質感をエンボス加工することにより手触りがよくなったり、プレス加工をしたものを金庫だった展示会場に磁石で貼り付けつなぎ合わせたアート作品であったりと塗装を排除したサステナブルで洗練されたデザインを見せていました。また、日本製鉄の新しい取り組みとして、スラグを海に撒くことで地上、海内の土壌を作り、食物を育てるという鉄の循環と食という取り組みも紹介していました。
まとめ
「DESIGNART TOKYO 2024」では、デザインとアートを通して多角的な視点や表現が際立っていました。今年のテーマである「Reframing」に沿い、来場者に「日常のものを新たな視点で見直す」体験を提供していました。展示には、バイオテクノロジーとアートや生活が融合した未来的な作品が登場し、自然素材と人工素材を組み合わせた独創的なプロダクトも多数見られました。特にサステナビリティや生命のエネルギーを意識したデザインが目を引き、自然との調和や共生に焦点を当てていることが印象的でした。
また、展示を通じて未来の暮らしに対する新たな可能性が示され、アートとテクノロジーの融合から生まれる価値観を探求する場が提供されていました。自然との共生や持続可能な社会を意識したコンセプトが強調されており、観覧を通して今後の生活や未来のビジョンについて思いを巡らせるきっかけとなる展示内容でした。
取材・文:小栁 碧羽(CHIZAI YOUTH)
編集:福島 由香