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2024.09.06
レポート | 体験レポート
【dotFes 2024】Webクリエイティブの最先端を発信する祭典が5年ぶりに開催!
2024年8月25日にWebクリエイティブの学園祭、dotFes 2024が築地のたきコーポレーションのオフィスを会場にして開催されました。dotFesとは、Webクリエイティブの今を発信し、楽しみ、考え、交流できるイベント。コロナ禍を経て、5年ぶり13回目の開催となる今イベントは、AI技術を筆頭にここ5年で大きく変化したクリエイティブ業界において、今まさに求められているクリエティブ・テクノロジー・デザインとはどういうものなのかを考えるイベントとなりました。
本記事では、Webクリエイティブの最先端を行く企業、団体、個人らによるインタスタレーションを展示した「エキシビション」の様子をレポートします。数ある展示の中から、AIが実装されたユニークなプロダクトや、人の身体や感覚を使うことで拡張されるテクノジーなどをご紹介し、2024年のWebクリエイティブの今をお届けします。
(取材・文:杉浦万丈)
未来の自分からのビデオメッセージを映し出す『FUCHAT(フューチャット)』
開発/出展:Konel
「FUCHAT(フューチャット)」は、AIで生成された未来の自分が、ビデオレターでメッセージを語りかけてくれる生成システム。「写真」「名前」「性別」「年齢」「将来の夢」の5つの情報をスマートフォンから入力するだけで、20年後に夢を叶えた自分の姿をAIが生成し、オリジナルのビデオレターを送ってくれます。
会場内のあるブースを覗くと、「FUCHAT」が青白く光って展示されており、その未来感のある佇まいに驚かされると同時に、何が体験できるのだろうかとわくわくしました。
体験ブースでは、多くの来場客が自身の写真を撮影・登録し、未来の自分に出会える機会に期待を膨らませていました。スマートフォンから情報を入力後、ビデオレターは2、3分で生成され、SF感のある一室で、一人一人がその不思議な体験を楽しんでいました。
「FUCHAT」のように、個々人に合わせたメッセージをその場で生成するシステムは、イベントや広告キャンペーンなど、さまざまなコミュニケーションへの応用が期待されます。
「FUCHAT」についてのより詳しい情報はこちらへ。
最先端の新素材を触って回して学べるプロダクト『SOZAI PLAYER』
開発/出展:Konel、知財図鑑
「SOZAI PLAYER」は、知財を収集するメディアである知財図鑑が集めたさまざま新素材をレコードにして、ターンテーブルに置いて回すと、AIがその素材の特性に合わせて生成した音楽を再生してくれるプロダクト。ターンテーブルを回しながら、新素材の触り心地をその場で体験できるだけでなく、素材の特徴に合わせてAIが作曲した音楽を楽しみながら、素材について学ぶことができます。
さまざまな色合いや質感の素材で出来たレコードを見るだけでも興味を惹かれましたが、ターンテーブルで音楽を楽しんでいる人たちの様子を見ていると、実際に自分もターンテーブルを回したくなってきます。そのためか、多くの来場客が素材を積極的に触りながらその素材の特徴を学んでいました。
触覚や聴覚などの五感を活用することで、楽しみながら記憶に残る体験として、学びが深まるプロセスは興味深いと感じました。イベントなどの展示に留まらず、学習のプロダクトとして活用の可能性がありそうです。
名刺から自分のオリジナルキャラのカードを作って対戦『よろしくデスマッチ』
開発/出展:ピラミッドフィルム クアドラ
「よろしくデスマッチ」は、顔写真と名刺をスキャンすることで、AIがその人だけのオリジナルキャラクターのトレーディングカードを生成してくれるプロダクト。顔写真からイラストを生成し、名刺の情報から、キャラクター名や技名、属性などのカード要素をオリジナルで作ってくれます。
実際に顔写真と名刺(手元にない場合は、メモ書きも可)をスキャンしてもらいました。
自分のオリジナルのトレーディングカードはその場ですぐに作り出され、持って帰ることもできるので、記念にもなります。会場でカードを作った人たちと勝負をし、カードの属性を見ながらお互いのビジネス情報を共有できるので話のネタにもなりました。
トレーディンガードは日本では昔から人気が根強く、子供の頃に熱中していた人も多いと思います。私もその一人です。ビジネスの交流にも遊びの要素を取り入れることで、コミュニケーションが活性化する非常に面白いプロダクトでした。
カメレオンのように流動的に変化するデジタル皮膚『fluXkin(フラックスキン)』
開発/出展:OUGA、Li Wanqian
「fluXkin(フラックスキン)」は、バーチャル世界で流動的に人間の皮膚を変化させることで、アイデンティティ、ジェンダー、個性の可能性を拡張するモーションデザインのファッションブランド。バーチャル世界では、時間と空間に制限されず、自身の衣装や皮膚の色を自由に変えることができます。カメレオンのように流動的に絶えず変化するルックスは、その人のアイデンティティや身体性、精神性をより多様に表現することを可能にします。
会場では、カメラの前に立つと、自身の皮膚が流れるように変化する様子を体験できました。変わっていく自分のルックスを見ていると、衣服や肌の色が自分の好きな時間に、好きなように変化してもいいじゃないかと素直に思えてきました。人は外見で固定的な判断をされてしまいますが、周囲の環境や対人関係で自身のアイデンティティも絶えず変化するものでもあるので、その場で生まれる個性をもっと楽しめるものがあってもいいと感じました。
将来的には、リアルの皮膚の情報を保存、伝達し、温度や音、心象によって皮膚を変化させる機能を備えていく計画だそうです。デジタルな皮膚は、人と環境、人と人との間に新たな関係性をもたらしてくれそうです。
「fluXkin」以外にも、仮想空間上でのデジタル植物、ボタニカルメディア表現の資料が展示されていました。
驚いたことは、これらは企業の展示ではなく、学生による展示ということです。dotFesでは、工学系やアート系の学生の出展がいくつかありましたが、学生のレベルの高さにも驚かされました。
伝統工芸×テクノロジーの新たなものづくりの試み『テクノロジーによるマテリアルの拡張』
開発/出展:博展、川原製作所
「テクノロジーによるマテリアルの拡張」とは、伝統工芸であり、サステナブルなマテリアルでもある和紙をテクノロジーを使って拡張することを試みたプロジェクト。構成物質が天然由来であり、土にも還すことができるサステナブルな和紙ですが、近代化と共にその用途は限られ、職人は高齢化し、後継者も少なくなっている現状です。
しかし、和紙の持つ独特の風合い、頑丈で寿命も長い性質など、和紙の利点は多く、博展と川原製作所は、そんな和紙の魅力をテクノロジーと組み合わせ、両方の力を相互に高め合うようなプロダクトを制作しました。
この作品は「第1回 テクニカルディレクションアワード」R&D / Prototype部門 Silver受賞作品でもあります。(第1回 テクニカルディレクションアワード 受賞式レポート)
イベントでは、和紙×テクノロジーが生み出す唯一無二なデザインが展示されていました。伝統工芸の魅力をテクノロジーによって引き出すと同時に、テクノロジー自体も伝統工芸を取り込んで進化していく、Win-Winなプロジェクトだと感じました。
この他にも、Boxに手を入れて触覚の不思議さを体験する展示や、相対する機械にランダムに棒を振らせると、まるで意図的に棒をぶつけ合っているように錯覚して見えるインスタレーションがありました。人間の触覚や視覚、脳の仕組みなど、身体に働きかける試みは興味深いと感じました。
AIや仮想現実が流行する現代で、工芸や人間の身体に着目し、その物質の特性と可能性を拡張する試みのユニークさが際立っていました。
リアルとデジタルの化学反応で新たなデザインを作り出す『BAKE UP! LABO』
開発/出展:たきコーポレーション
「BAKE UP! LABO」とは、卓上に映し出されたパン生地をデジタル上で自由にこねて味付けをし焼き釜に入れると、その人の一連の動作の自由なプロセスをAIが学習し、新たに独自のデザインのパンを生成してくれる体験型インスタレーション。デジタルのプロセスをパン作りの工程に置き換えることで、自分で実際に手を動かしながら、デザインに携わるものが日々感じる想像以上のものが生まれる喜び、ワクワクを体感できます。
来場者は思い思いに感覚的に自由に手を動かし、味付けを選び、デジタルのAIが作り出す予測不能なビジュアルと掛け合わされた特殊なデザインを楽しんでいました。
生成されたパンたちは壁に貼られ、不思議な空間を創り出していました。リアルとデジタルの化学反応で生み出された独特なデザインたちは、AI時代の新たなデザインの可能性を感じさせてくれました。
おわりに
「dotFes 2024」は、大きく変化するクリエイティブ業界において、今まさに求められているクリエティブ・テクノロジー・デザインとはどういうものなのかを考えることが一つのテーマでした。AIが実装化され、クリエイティブの形が変わった今、展示全体を見て感じたことが二つあります。
一つ目は、「個人向けサービスの進化」です。AIを使うことで個々人に合わせた独自のデザインやサービスを提供できるものが増えたと感じました。「FUCHAT」は未来の自分の姿を映してくれ、「よろしくデスマッチ」は自分のオリジナルのカードが作れ、「fluXin」は刻々と変化するオリジナルのルックスが作れます。いかに万人に受けるデザインを作るかといった従来の思考よりも、個々人が自分らしさを感じられるプロダクトの需要がAIによって高まっていくと感じました。
二つ目は、「リアルな身体の活用」です。従来のテクノロジーはVRが代表するように視覚が優先されてきました。「SOZAI PLAYER」は触覚と聴覚を、「テクノロジーによるマテリアルの拡張」は触覚や手仕事で作られる和紙独自の質感が活かされていました。AI、ソフトウェアの時代だからこそ、物体という価値、身体を使って体感するハードの存在も再注目されると感じました。
2025年のWebクリエイティブはどうなっているでしょうか。きっとまた想像を超えるものが生まれてくるでしょう。引き続き、知財図鑑はクリエイティブの最先端をお知らせしていきます。
取材・文・撮影:杉浦万丈