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2024.05.30

レポート

Milan Design Week 2024 現地レポート 〜世界のものづくり〜

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2024年4月16日〜21日にイタリア・ミラノ市内で行われていた、世界最大規模の家具見本市「Milan Design Week 2024」(ミラノデザインウィーク)の現地レポート第2弾。本記事では、現地に視察へ行った知財ハンターが「世界のものづくり」というテーマで日本以外の展示にフォーカスし、その様子をお伝えします。

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Milan Design Week 2024とは

世界最大規模のデザインの祭典とも言われる、ミラノデザインウィーク(Milan Design Week)。ミラノ郊外のロー市にある、ロー・フィエラミラノ(Fiera Milano, Rho)で開催される世界最大規模の国際家具見本市「ミラノサローネ(Salone del Mobile Milano)」と、同時期に市内各所で開催される「フォーリサローネ(Fuori Salone)」を合わせた通称で、毎年4月に開催されています。

第62回ミラノサローネとなる今年は、35カ国から1950の出展があり、来場者数は370,824人、うち53.9%が海外からの訪問だったそうです。

本記事ではミラノサローネ国際家具見本市(以下、ミラノサローネ)で筆者が刺激やヒントを受けたもの、今後発展の可能性があるようなデザイン、マテリアルなどをピックアップします。

image21 ミラノサローネ会場・エントランス


arteinmotion

オリジナルの飛行機部品や、実際に使用されていた飛行機の部品を使用したブランド、arteinmotion(アルテインモーション)。実用性に裏付けされた強固かつ機能的な見た目は、威圧的でありながらも気品が漂っています。飛行機のエンジンやプロペラまでもがアップサイクルの対象になるとすると、この世にアップサイクルできないものはないのかもしれません。

50年後には、地球では宇宙ロケットや宇宙ステーションをアップサイクルした家具が流行っているのではないかという妄想が膨らみます。

image12 ボーイング B-737 ジェット エンジンのファン(送風機)で作られたテーブル

image18 ビーチクラフト 18 のエンジンカウリングで作られたバーボトルホルダー

image10 30'年式のコンチネンタル ラジアル エンジン テーブル


dooor

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dooor(ドアー)は空間をシームレスに分割する布製折りたたみドアを製造するイタリアの会社です。空間に合わせて素材やサイズを決めるカスタムメイドシステムで、ミニマムに部屋を個性豊かに彩ることができます。

ミラノサローネではdooorの製品の可能性を探るインスタレーションが展示されていました。一番目を引く作品は高さが5メートルに達しているにも関わらず人が一人で簡単に開閉でき、虹色のテクスチャが伸び縮みして、曲線の軽快さと構造の堅牢性をアピールしていました。用途に合わせて空間の形を自在に変えることで、オフィスや店舗に遊び心と使いやすさを備えることができそうです。

image16 商談スペースを仕切るのは、再生繊維で編まれた高い吸音性能を持つ素材でできた折りたたみドア


Elica

50年以上に渡ってキッチン換気システムを追求し続け、コンロやレンジ、食器洗い機なども製造するイタリアのキッチンメーカーの展示です。

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エントランスではElicaのルーツであるファン(送風機)を敷き詰めた壁面インスタレーションが迎えてくれます。空気というすべての部屋に共通する要素で、ブース全体への流れのようなものを生み出していました。

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続く空間では、シンプルかつフラットで美しい造形のコンロと対比するような形で、吊り下げ式照明インスタレーションによって空間が彩られていました。

image1 © Elica

Elicaはフォーリサローネでも作品を展示していました。ミラノ中心部の歴史ある建物の中庭で、雲の軽やかさからインスピレーションを得た幻想的なインスタレーションを披露。Elicaの特徴である軽やかさと心地よい空気や熱の流れをイメージさせる、色彩の雲の中を散歩しているような感覚へいざなう体験です。


Edra

Edra(エドラ)は、1987年にイタリア、トスカーナで創立されたラグジュアリー家具ブランドです。芸術的なデザイン・それを作る高度な技術力・最高品質の素材を組み合わせた高品質のブランドとして世界中に知られています。

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ブースは多くの人から注目を集め行列ができていました。中に入ると長い1本の通路があり、その左右にコレクションがありました。至るところにミラーが貼られており、歩くことで視点が増え製品を様々な角度から楽しめるような設計がされています。

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特に目を引いたのがこちらのチェア。A'mareという名のポリカーボネート製のガーデンチェアです。海を固めたような色と透明度のスティックから構成され、環境によってその表情を変えることで、どんな空間にもフィットするそうです。


AP Collection

クリエイターのA(lexis)とP(auline)の遠距離恋愛の物語の中で抱擁への憧れから生まれたというブランド「AP Collection」。リサイクルプラスチックと高品質の素材を使用して手作りで少量生産されているAP Collectionは、子供の貧困や絶滅危惧種の保護と闘う慈善団体に貢献しています。

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ブースでは、様々な動物が密集したチェアが展示されていました。ふわふわの可愛い動物に囲まれるというシンプルな夢を、高い品質で叶えてくれる唯一無二のブランドでしょう。


saviola

サビオラは1993年以来、環境への影響が少ない100%リサイクルおよびリサイクル可能な木材で作られたパネルを製造する世界初の企業です。

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ブースには人が入れる大きなオブジェが設置されており、思わず入ってみたくなるような雰囲気です。“Tutti i Legni tranne l’Albero” (木の無い森)と名付けられたこのオブジェは、木を新たに伐採することなく、再生素材だけでできています。もし伐採によってこのブースの材料を得ようとすると89本もの木が必要だったそうです。

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中は広く木の暖かみがあり、この空間を作っているパネルの1枚1枚がサビオラの商品になっているという独特の展示方法でした。

周りの目を引き、中に入れば人目を気にせず商品をじっくり見ることができる良い体験設計のブースです。


Dresswall

ヨーロッパで人気を集める、光るサイン・広告ツールを提供するDresswall。宣伝パネルとしてだけではなく展示会のパーテーションとしても使用されているそうです。 Dresswallは軽く、早く組み立て・解体ができて輸送も容易。布地は耐久性があり有機溶剤を使用しないEUスタンダードの防炎加工が施されているので、プライベートのスペースや公共のインテリア、エクステリアにも活用できます。

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ブースではその高い技術を存分に発揮し、Dresswallができることの発展性を示していました。あらゆるニーズに対して、簡単に設置、保守できるフレーム構造や素材を提供することができるシステムは、デザイナーの発想を刺激しそうです。

image13 6色印刷によって色の深みと出し、密閉性の高いフレームは虫の侵入を防ぎます

image3 ベースとなるアルミニウムフレームに、様々な色やテクスチャを施すことができます

サローネサテリテ

選ばれた35歳以下の若手デザイナーが、本会場の一角で出展することができる、デザイナーの登竜門「サローネサテリテ」では、日本人デザイナーのブースが異色を放っていました。

Moment / ​​usugami kotaro

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筒が互い違いに繋がり、まるで時が止まったような感覚をもたらすテーブル照明。薄くても強度があるステンレス素材の特性を最大限に活かすことで、彫刻的で浮遊感のあるデザインが生まれています。ありふれた規格品のパイプを高度な金属加工技術で仕上げ、オブジェとしての存在感が追求されています。

Dove Table / yuto ikarigawa

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鳩の群れに囲まれた興奮と喜びの子供時代の思い出から着想されたテーブル。時を遡り、古き良き時代を再体験して欲しいとのことで、よく観察すると、机を支える鳩とそうでない鳩の2種類から構成されています。

Pouring Lights / Studio POETIC CURIOSITY

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密集し整列する絹糸に光を照射することで、雲間から差し込む日光の線模様のように柔らかく、且つ緊張感のある光の空間が生まれるインスタレーションとプロダクトの展示です。日常と非日常の対比を示す、日本の伝統的な概念である「ハレ」と「ケ」から着想を得ており、光と闇の間、そして日の光が1日のなかで見せる機微を表現されているそうです。

おわりに

初めて訪れたミラノサローネは想像以上の規模と各ブースの作り込みで、一つひとつをじっくり見ようとすると、時間がいくらあっても足りませんでした。フォーリサローネと違って、ブースのフォーマットが全員共通しているからこそブランドの色が濃く出て世界観を作り込みやすいのがミラノサローネの特徴だと感じました。

クオリティの高いデザイン、高品質な素材と技術、そしてその特徴やストーリーを際立たせるハイレベルな演出。これらを一度に約2000パターン見ることができる場は、ミラノサローネ以外に存在しないでしょう。

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取材・文/都 淳朗

1996年徳島県徳島市生まれ。修士(デザイン)。プロダクトデザインと材料デザインを専門にしつつ、文化や常識といった固定観念を破壊・再構築するアート制作を行う。アイデアとテクノロジーの力で、地元徳島県を始めとした地方の価値を再定義する方法を思索している。遠くにあるものよりも、身近にあるのに認識できていない面白いものを探すのが趣味。

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