No.801

2023.09.11

気候変動に適応する持続可能な海上都市

Dogen City|同源都市

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概要

「Dogen City|同源都市」とは、気候変動に適応する機能を持つ、自立分散型の持続可能な海上都市。海面上昇や水害、塩害、海洋環境悪化などの自然災害に対応しながら、海洋資源や新技術などを活用して発展する、海洋経済圏創出の1事業として立ち上げられた。コンセプトは”医食住情電資”を「同源」に融合させること。地球の7割を占める海を生存圏と捉え、医療・ヘルスケアを中心に、食環境、建築、情報、エネルギー、資源を一体化し、海上のスマートシティとして構築する。気候変動が深刻化し災害が頻発する近年、地上生活の危機を乗り越える都市のあり方を示すと共に、新たなエコシステムとしての海洋経済圏の具現化が期待されている。

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なにがすごいのか?

  • 気候変動に適応するために、海を新たな生存圏と捉えて海上都市を形成                       

  • 海洋を生存圏にするため「リング」「海中エッジデータセンター」「浮体建築」の3つのインフラプロダクトで都市を構成

  • 災害発生時も単独で存続できる高いレジリエンス(困難をしなやかに回復できる)機能を持つ都市

なぜ生まれたのか?

古来より、都市は海や川の付近に築かれてきた。現在でも、世界の約7割の都市が海辺や川に隣接するエリアに存り、その都市面積は約200万㎢におよぶ。一方で、気候変動による世界の平均海面水位は、1901年~2018年で約0.2m上昇し、高潮で井戸や田畑が使えなくなる、住宅や道路が水没するなど生活に大きな影響を及ぼしている。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第6次評価報告書(2021年)で、2100年には海面上昇が1mを越える可能性があると予測。さらなる塩害被害の拡大や、都市インフラの崩壊なども危惧されている。

そうした背景から、世界の7割を占める海洋を生存圏と捉え、新たな海洋経済圏の創出を目指す「NEW OCEAN」事業が始動。株式会社N-ARKを中心に多様な企業・人が参画してコンソーシアムを立ち上げ、海洋事業・技術開発を開始した。「Dogen City」を、「NEW OCEAN」を体現する海上都市と位置づけて、プロジェクト実行目標を2030年に設定。先行事業として、海の上下で農業を行う海上ファーム「Green Ocean」を展開中で、2024年3月に静岡県の浜名湖へ建設を予定している。

なぜできるのか?

住みやすい規模感での都市機能の設計

「Dogen City」の直径は1.58㎞、周囲は約4㎞で1里に相当する。1里は歩いて1時間ほどの距離で、小さな村のような規模感で構築する。「RING」「海中エッジデータセンター」「浮体建築」という、3つのインフラプロダクトを用いて都市を構成。内部には、住宅やオフィス、飲食店などの店舗のほか、病院、通信局、スタジアム、食糧生産施設、R&Dラボなどを設置する。”未病都市”と位置づけ、特にヘルスケアに注力し、都市OSとして日常的な遠隔医療や先端医療などを提供。自然災害時は、外部接続などが途絶えてもスタンドアローンで機能するよう設計されている。

居住可能ゾーンを形成する「RING」

生活インフラと住まいは、船形のインフラプロダクト「RING」で構築する。内部設備として、上下水道や下水処理機能、電力インフラ、データケーブルなどを実装。水・電力・ゴミ処理施設や、病院、学校、公園、道路などの各種インフラと、公共住宅・ホテルを整備する。独特な形状で内湾を保護し、津波を防ぐ堤防としての機能も持つ。

都市OSと高付加価値サービスを実現する「海中エッジデータセンター」

海中で稼働するデータセンターとして「海中エッジデータセンター」を構築する。想定水深30~50mの海中に、直径約3m×長さ20mの円筒型の設備を設置し、1,782台のサーバーを搭載。データ計算の際に発生する熱を海水で冷却し、エネルギー消費を抑えながら稼働させる。供給先が至近のエッジデータセンターとして、データ遅延時間を1~5ミリ秒まで削減。それにより、都市運営OSやヘルスケアデータ分析、創薬シミュレーションなどの高付加価値サービスの提供を実現する。

都市機能を自由に組み換えられる移動可能な「浮体建築」

内湾を自由に移動でき、都市機能を組み替えられる「浮体建築」を導入。土地の制約を受けずに、その時の状況に応じた、デマンドレスポンス(需要応答)な都市機能を実現する。ベースには、海に対応できる海洋建築と耐塩性技術の研究開発を手がけてきた、N-ARKの知見・技術がある。

先端医療・ヘルスケアサービスを提供する都市OS「Dogen」

生活圏で得られたデータを管理・分析し、医療・ヘルスケアに活用する都市OS「Dogen」を整備する。住民は、リングデバイス、血液採取、ゲノム分析などでデータをインプット。複数データを組み合わせて健康状態を正確に把握し、状況に応じてオンライン診療やロボット診察などで日常的に遠隔医療を提供する。遠隔ロボット手術などによる先端医療も行う。また、創薬シミュレーションやDNA分析など、医療データの研究・開発拠点としても展開する。

相性のいい産業分野

生活・文化

海洋を生活基盤とした新たなライフスタイルの確立

官公庁・自治体

災害避難地として都市機能を分散して構築

住宅・不動産・建築
  • 海の脅威から守りつつ海洋環境に溶け込み、生活基盤を構築するインフラの構築

  • 施設ニーズや人口変化などに応じて移動・追加可能な海上建築

IT・通信

海上都市にデータを安定供給する海中データセンターの構築

医療・福祉

安定したデータ通信環境を活かした先端医療の研究開発・実証実験

教育・人材

気候難民・災害難民の受け入れと高度教育の提供による人財育成

資源・マテリアル

海水に強い・海水で強化される建築材の開発

この知財の情報・出典

この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © 株式会社 N-ARK