No.1005
2025.01.09
微弱な電流で食事の塩味や旨味を増強する食器型デバイス
エレキソルト
概要
「エレキソルト」とは、微弱な電流で食事の塩味や旨味を増強する食器型デバイス。電源と制御装置を内蔵したデバイスで、人体に影響しないごく微弱な電流を流し、味の成分の動きをコントロールして味の感じ方を変化させる。食塩摂取量が多い傾向にある日本でも、健康志向の高まりから塩分を控えた食事(減塩食)に取組む人が増えているが、味の物足りなさが継続の阻害要因となるため、味わいをふくらませるデバイスを開発した。健康と食事の美味しさを両立することに加え、パーソナライズした味わいを楽しめるデバイスとして、国内外の幅広い領域への展開が期待される。
なぜ生まれたのか?
塩分のとり過ぎは高血圧など生活習慣病のリスクを招くが、日本の摂取量は世界的に見ても多い傾向がある。日本人の1日あたりの平均食塩摂取量は、20歳以上の男性10.7g/女性9.1g(厚生労働省、令和5年「国民健康・栄養調査」)で、直近10年間で大きな増減はない。WHO(世界保健機関)が推奨する摂取量5g未満の倍近くの値で推移しており、諸外国と比べても高い水準にある。
近年では病気を抱えた人だけでなく、日常的に減塩食を取り入れる人が増えてきているが、味の薄さなど味に対する不満が原因で継続を断念するケースもある。そこで、キリンと明治大学 宮下芳明研究室は、2019年から電流で味を変化させる「電気味覚」の技術活用について共同研究を開始。プロトタイピングを重ね、臨床実験などを経て、2022年9月にスプーン型・椀型の「エレキソルト」を開発した。2024年5月よりスプーン型の「エレキソルト スプーン」の販売を開始している。
「エレキソルト」は国内外で高く評価され、2024年2月には内閣府「第6回日本オープンイノベーション大賞」で日本学術会議会長賞を受賞。同年11月には、世界最大級のテクノロジー見本市「CES」の「CES Innovation Awards 2025」で、Digital Health部門およびAccessibility & AgeTech部門の受賞製品に選ばれた。
なぜできるのか?
「電気味覚」の活用
人体に影響しない微弱な電流を舌に流すと味を感じる「電気味覚」の現象を活用。マイナスとプラスの電気を組み合わせて、味わいを増強させる独自の電流波形を構築し、食器型デバイスに搭載した。塩味のもととなる塩化ナトリウムや旨味のもととなるグルタミン酸ナトリウムなどが持つイオンの動きを、ごく微弱な電流でコントロールできる。通常の食事では、口内でイオンが分散するため味の感じ方が薄くなる。「エレキソルト」は、食品を介して舌周辺に微弱な電流を流し、味のもととなるイオンを舌に引き寄せる。それにより、減塩食でも塩味や旨味を強く感じられる。開発の中で行った臨床試験では、減塩食の塩味が1.5倍ほどに増強されると確認した。
日常使いできる食器型デバイスの開発
食器に電流波形の技術を搭載し、日常的・手軽に味を増強できるデバイスを開発した。2024年12月時点では、スプーン型の「エレキソルト スプーン」のみを製品展開しているが、研究の中では箸や椀への技術搭載も行っている。使いやすさも特徴で、「エレキソルト スプーン」は柄にあるスイッチで電源を入れて利用でき、4段階で強度調整が可能。柄の裏側とスプーン部分の電極からごく微弱な電流を流す仕組みで、通常のスプーンと同様の方法で食事を口に運ぶだけで味わいを増強できる。食事をのせたスプーンを0.5秒くらい口に含むとより効果を感じられる。また、日々の活用をイメージできる「エレキソルト」に合うレシピも公開している。
相性のいい産業分野
- 食品・飲料
電流調整で一人ひとりが好みの味わいを楽しめるメニューの提供
- メディア・コミュニケーション
「エレキソルト」を選んで専用メニューを食べられる飲食店・レストランの展開
- 生活・文化
社員食堂や学校給食、家庭に取り入れ日々の食事をコントロール
- 医療・福祉
病院・介護施設などで減塩食が必要な人の食事提供に活用
- 製造業・メーカー
「エレキソルト」を前提とした減塩食品・加工品・調味料などの開発
この知財の情報・出典
・特開2023-28676 / 2024-117242 etc.
この知財は様々な特許や要素技術が関連しています。
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Top Image : © キリンホールディングス 株式会社