No.962
2024.12.05
水使用を99%削減し多彩な表現ができるインクジェット捺染プリンター
FOREARTH(フォレアス)
概要
「FOREARTH(フォレアス)」とは、水の使用量を99%(※)減らして、生地に高発色・高精細な模様を印刷できるインクジェット捺染(なっせん)プリンター。顔料インクやヘッド、洗浄システムなどを開発し、生地1kgあたり0.02ℓの水でプリントできるデジタル捺染機を構築している。従来の染料アナログ捺染では、生地1㎏あたり153ℓの水が必要となるが、独自技術で水を使う工程を極限まで低減。また、顔料インクに起こりがちなゴワゴワの肌触りや脆さ、発色の悪さも解消し、滑らかな触り心地で堅牢性があり、色彩豊かなデザイン・生地プリントを実現している。水使用量が少ないことで場所を選ばずに設置できるため、アパレル産業の環境負荷低減だけでなく、世界各国への展開やサプライチェーンの変容を促すと期待されている。
※2022年時点、京セラ株式会社調べ
なにがすごいのか?
テキスタイルプリントの水使用量を99%削減
独自技術で印刷工程を大幅刷新
顔料インクを用いながら肌触り・発色が良く丈夫な生地を実現
実現事例 実現プロジェクト
TRUE BLUE TEXTILE
「TRUE BLUE TEXTILE(トゥルー・ブルー・テキスタイル)」は、「FOREARTH」でプリントした水面柄の生地を用いたファッションで、環境意識を高めることを目的としたプロジェクト。コンセプトは「水をまもるために、まとう」。清らかな水質を誇る高知県・仁淀川の水面の動きを「FOREARTH」で再現し、5種類のテキスタイルを作成。その生地を使った衣服などを身に着けることで、アパレル業界が抱える環境課題を考えるきっかけを促す。
開始にあたり、プロジェクトに賛同したデザイナーの森永邦彦氏が率いるブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」と、バンタンデザイン研究所の現役学生デザイナーが、水面を模したテキスタイルで服を制作。制作した5着の衣装は東京と京都で公開した。ANREALAGEとのコラボレーション作品は、2024年2月~3月開催の「2024−25年秋冬 パリ・ファッションウィーク」のウィメンズコレクションでも発表している。
制作作品の概要
▼ANREALAGE・森永邦彦氏 作品コンセプト・概要
「WATER DROP COLLECTION」
循環する一滴の水から発想した地球型の一着。水循環の始まりは、一滴の水滴。海水や地表面の水が蒸発し、上空で雲になり、やがて雨や雪になる最初の一滴を形にする。従来の捺染に比べ99%の水使用量を削減する「FOREARTH」のコンセプトを象徴します。
WATER DROP DRESS -人の体に寄り添い、美しいドレープを生むドレス
WATER DROP COAT -水をまとい、雨から身を守るレインコート
▼バンタンデザイン研究所 作品コンセプト・概要
「WATER METAMORPHOSE」
あらたな才能が生み出す、水の動きにインスパイアされたファッション。水は温度や状況に応じて自在に姿を変える存在です。時には優しく波打ち、時には激しく私たちに恵みを与える雨となり降り注ぎます。また、張り詰めたように凍りつき、やがて溶け出して流れる水の姿には、変化し続けるその強さと美しさがあります。この絶えず変わりゆく性質こそが、水が私たちの心を引きつける理由ではないでしょうか。
NAMI -所作にあわせて優雅にゆらめく「波」のドレス
TAKI -荒波の水流を再現した「滝」のルック
KORI -溶ける間際の美しさをまとう「氷」のドレス
なぜできるのか?
顔料インクと前後処理液をヘッドから吐出するシステム
インクジェットヘッドから、顔料インクだけでなく前後処理液も吐出できるオールインワン捺染システム「KIPS (Kyocera Integrated Printing System)」を構築。1工程の中でヘッドから前処理液(浸透制御剤)、顔料インク、後処理液(表面保護剤)の順序で吐出して印刷を行う。それにより、プリントと前後処理を1工程で完結し、従来の処理に伴うスチームや洗浄による大量の水使用を無くしている。工程を減らしたことで、生地の搬送開始から乾燥まで約6分で完了。1時間あたりでは250㎡の印刷ができる。
独自開発の顔料インクと処理液
水の使用を抑えられる顔料インクに着目し、乾燥すると色が定着する顔料インク「Picfy」を独自開発。さらに、従来の顔料インクで生じる生地の硬化や発色の悪さなどの課題を解消するため、専用の前後処理液も併せて開発した。開発にあたってはそれぞれのパラメーターの調整を重ね、柔らかな風合いがあり、高発色で色落ちしないテキスタイルプリントを可能にした。顔料インクは最大8色を搭載できる(CMYK+4色)。またヘッドには、インク温度・粘度を常に一定に保てる循環プリントヘッドを搭載。環境による色調変化を抑え、安定的な発色と色の再現を可能にしている。
水の使用を抑えた洗浄システム
プリント後のベルト洗浄の水使用を抑えるため、「循環ベルト洗浄システム」を構築。ベルト下部にブラシを設置し、ベルトに付着したごみやインクを除去して洗浄水に集め、洗浄液をフィルターでろ過して再利用する。それにより、従来技術では大量の水が必要な洗浄を、ほぼ水を使わずに行うことができる。また、ヘッドにはブレードや布ワイプで自動的にクリーニングする仕組みを構築。常にメンテナンスを行うことで、プリント品質を維持している。
使い易さを考えたシステム設計
A4サイズほどの小さな生地にも印刷可能な「サンプルプリントモード」機能を搭載。生地サイズを検知して、プリント位置を自動調整し印刷を行う。サンプル生地として、必要な大きさで手軽にサンプルを制作できる。また、インクカートリッジや洗浄システムなど機器の保全・整備は全てフロント側から実施可能で、メンテナンスも簡単。機器稼働中のインク切れに対応できるバッファタンクも備えており、スムーズな印刷と、交換に伴うダウンタイムの削減を可能にしている。
相性のいい産業分野
この知財の情報・出典
・特許第6809390号/第6812909号/第7398602号
・特開2024-28819
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Top Image : © 京セラ 株式会社