No. 119 “食べられる”点字を手軽に作る装置

おいしい点字作成そうち

(c) 2020 Kaname Endo

(本知財は、小学生を対象に開催された「超・自由研究アワード2020」最優秀賞受賞作品です。)
「おいしい点字作成そうち」は、点字を食べ物の表面に打てる装置。64種類のパターンを表現できる型にアイシング素材を入れることで、”食べられる”点字を出力する。点字ディスプレイや点字タイプライターといった既存の点字作成装置とは異なり、パターンを生み出すための独自のしくみや、3Dプリンティングでの量産が想定された設計が考案されている。本知財は単なるユニバーサルデザインに留まらず、美味しい・楽しい、といった付加価値を生む可能性を秘めている。

なにがすごいのか?

    (審査員講評より)

    • 「食べ物に点字を打つ」という独創的な発想
    • 発想を実現するための新しいしくみや設計の開発
    • 最適な結果が得られるまで提案手法の修正を繰り返すプロセス
    • 小さい印字面積という制約への考慮
    • 食事シーンにおける視覚障がい者という具体的なペルソナの設定

なぜ生まれたのか?

「ボールが見えないはずの目の不自由な人が、なぜ競技を行えるんだろう?」

ブラインドサッカーという競技があることを知った小学4年生の遠藤最さん(東京都)は、そんな疑問を抱いた。

それから遠藤さんは、視覚障がい者の生活について、より理解を深めるべく調査した。その結果辿り着いたのが「点字」だ。

点字は、視覚障がい者とのコミュニケーションツールの一つ。点字を読む人は、指先で点字を左から右へなぞった際の触覚から突起(凸面)のパターンを認識し、規則をもとに点字を五十音・数字・アルファベット等へ変換すること(パターンマッチング)で、何と書いてあるかを読みとる。点字1文字は、マスの中に3行2列で並んだ6つの突起のパターンで表現される。

次に遠藤さんは、身の回りで点字が使われている事例をよく観察することにした。観察する内に、あることに気がついた。それは、駅の券売機には点字があるのに、パン屋のパンには点字がないということ。もしパンに点字があれば、視覚障がい者が食べる際に何のパンなのか分かるし、おまけに食べられる。

遠藤さんはこの発想を実現するため、得意分野の一つである、お菓子作りを活かすことにした。お菓子作りの中で「アイシング」(メレンゲにシュガーパウダーと食用色素を入れて模様を作ること)を使うことがあったが、これで点字を作れないだろうかと考えたのだ。

こうして、アイシングで点字をパン表面に打てる装置の開発が始まった。

64個の型を一つ一つ作るとなると手間がかかり、効率が悪い。
遠藤さんはこれを解決するため、より少ない型で64種類の点字を表現するしくみを考えた。
「改良するとしたら、プログラミングを使って、文字を入れたら自動的に点字の形をつくってくれるようにしたいな、と思います。」
今後の展望について、遠藤さんはそのように語る。
「私の発明を使って、食べ物や色々なところに点字がふえてくれるといいなと思います。」

なぜできるのか?

64種類のパターンを作るしくみ

次のような列を考える。
●●○●○○○●●●(点のある場所を● / ない場所を○とする)

この列について、一つずつズラせば、以下の8種類のパターンができる。
●●○●○○○[●●●]
●●○●○○[○●●]●
●●○●○[○○●]●●
●●○●[○○○]●●●
●●○[●○○]○●●●
●●[○●○]○○●●●
●[●○●]○○○●●●
[●●○]●○○○●●●

上述の列と、全部穴が空いた列を以下のように配置する。
●●○●○○○●●●
○○○○○○○○○○

この並びの板について、向きを反転させ、上下に2枚重ねると、64種類の全パターンができる。同じものを10個並べて一つ一つの上下の板をズラし、穴の空く位置を変えれば、文章を作ることができる。

親子での設計と3Dプリンティング

はじめは板の大きさを3mmにした。ところが、ある点字から隣の点字までの距離は約6mmという決まりがあり、3mmの細い板では作るのも場所を決めるのも難しいことが分かった。そこで、板の大きさ(幅)を2倍の6mmに、穴と穴の間を2mmに調整した。

こうした非常に小さいスケールの精密な操作は人手では難しいため、3Dプリンターを利用した。3Dプリンター用のデータは、TinkerCADで設計した。加えて、アイシングを入れても板がずれたり文字の並びが揃わなくならないよう、溝をつけた容れ物もつくった(ここはお父さんに協力を得ている)。

アイシングを押し込む創意工夫

穴が小さいために、アイシングをのせただけでは点字にならない課題もあった(注射器でも試したがうまくいかず)。試行錯誤を繰り返した結果、のせたアイシングを天付き(心太を押し出し細長く切る道具)で押し込めば、思ったとおりに点字を打てる(6文字分くらいを一気に打てる)ことが分かった。今後、アイシングの固さを調整することで、アイシングがもれたり穴から出なかったりしないよう改善することが検討されている。

相性のいい分野

アート
好きな人へのメッセージを込めたバレンタインのお菓子
ファッション
中に入れる素材を膨らむタイプのインクに替え、布地に点字表現ができる洋服
フード
装置で表現するものをデジタル数字に応用し、誕生日などの数字を直接食品に装飾できる製菓道具
食育
食べ物に記載された名称や材料名を通じて、正しい情報や栄養について学習
ウェルビーイング
携帯可能な点字装置を元に、文房具やアクセサリー、観葉植物など、身の回りの様々な物に点字を普及

知財情報

主な知財ホルダー: 遠藤エンドウ カナメ

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知財ハンター

Konel
/ Konel inc.

Konelはデザインとテクノロジーを融合させてフィールドを定めず制作を行う多国籍クリエイティブカンパニーです。


知財ライティング: 小髙 充弘