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2023.03.14
コラム | 地財探訪
伝統竹工「丸亀うちわ」を知財情報から探ってみた【地財探訪 No.14】
本コラムは、地域の財産である「地財」を探訪するものである。全国の「伝統的工芸品(*)」の歴史を紐解きながら、関連する知財権情報と合わせて紹介していく。(知財権:特に、特許権、実用新案権、意匠権、商標権)
(*) 伝統的工芸品:経済産業大臣によって指定された計237品目の工芸品(2022年3月18日現在)
例えば特許情報には、明治時代における職人の拘りや後世へ伝えたい想いなどが隠れているかもしれない。本コラムを通じ、百年以上の歴史がある「地財」である伝統的工芸品の新たな魅力を発掘していきたい。現代に生きる者として、先人が遺した知的財産を更に後世へと伝えていく姿勢が大事と考えるためである。
地財探訪 第14弾 は香川県「丸亀うちわ(まるがめうちわ)」。
歴史を振り返りながら、職人技術について知財文献から拝見していく。(過去のコラム:第1弾 青森県「津軽塗」、第2弾 沖縄県「琉球びんがた」、第3弾 秋田県「大館曲げわっぱ」、第4弾 岩手県「南部鉄器」、第5弾 福井県「越前和紙」、第6弾 愛知県「常滑焼」、第7弾 宮城県「雄勝硯」、第8弾 和歌山県「紀州へら竿」、第9弾 東京都「江戸切子」、第10弾 兵庫県「吹き戻し」、第11弾 佐賀県「伊万里・有田焼」、第12弾 京都府「京くみひも」、第13弾 宮崎県「都城大弓」)
01 丸亀うちわの概要
「丸亀うちわ」とは、香川県丸亀市にて生産される竹うちわのこと。江戸時代初期に盛んであった金毘羅参り(*)のお土産として朱色の「渋うちわ」が考案され、丸亀藩士が内職としてうちわ作りに励むなどにより、一大うちわ産地としての基盤が確立した。その後、大正時代初期には発明家・脇 竹次郎が「切り込み機」「穴あけ機」を発明し、うちわの大量生産が可能となった(**)。
丸亀市は国内におけるうちわ生産量の約9割を誇り、街中ではマンホールの絵柄や橋の欄干等、至る所にうちわが描かれている。平成9年、伝統的工芸品に指定。
(*) こんぴらまいり。金刀比羅宮(ことひらぐう)に参拝すること。金刀比羅宮は「こんぴらさん」という愛称で親しまれ、全国から観光客が集まる香川の代表的観光地。
(**) 丸亀うちわの歴史…「日本一のうちわどころ」へ|香川県うちわ協同組合連合会 旧HP より
香川県うちわ協同組合連合会 HP より引用
丸亀うちわは、大きく分けて「骨」「貼り」の工程からなり、計47もの工程を職人が手作業で仕上げていく。貼り合わせる素材の厚さや糊の濃度等、多くの職人技が結集することで、1つの丸亀うちわが完成する。涼をとるだけでなく、虫をはらう、口元を隠す、ファッション等、昔から様々な用途として活躍してきた。
02 丸亀うちわの特徴
・用途に合わせて発展したことに伴い、多種多様な形状のうちわがある。
・丸亀うちわの骨は、一本の竹に職人技が施されることで誕生する。
・熊本県の「来民うちわ」は、約400年前に丸亀の旅僧から作り方が伝えられたとされる。故に、丸亀うちわには、遠く離れた地に歴史溢れる兄弟のような存在がいる。
03 知財出願情報からみる丸亀うちわ
丸亀うちわに関連する知財出願情報を探っていく。
実明第42762号:脇式大正団扇
出願日:1916.7.5 考案者:脇 竹治郎 氏 J-PlatPat リンク
実明第42762号
地紙チと骨竹トの間に眞綿イを挟むという考案。考案者の居所は「仲多度郡六郷村」とあり、現在の丸亀市である。そして冒頭で触れた「切り込み機」等を発明した 脇 竹次郎 氏 と本件考案者の氏名は一文字違いであり、同一人物によるものかもしれない。
実公大12-4324号:絲骨製末廣団扇
出願日:1922.5.21 考案者:脇 竹治郎 氏、大江 政吉 氏、外一名 J-PlatPat リンク
実公大12-4324号
脇竹治郎氏らによる考案。扇面形の厚板紙ハを設けることで、強靭な団扇になるというもの。骨がY字型の特殊な形状をしているため、様々な工夫が施された中で生まれた考案なのかもしれない。
実公昭07-587:團扇
出願日:1931.7.6 考案者:大川 儀三郎 氏(丸亀市今津) J-PlatPat リンク
実公昭07-587
ゼラチンを付した木片5を継骨1にて挟み込むという考案。「實用向ニ優美」とのことであり、実用的用途で使用するうちわにおいても、意匠性を高める試みがなされていたことが推察される。
特開2022-94865:ウイルス拡散防止部材及びその使用方法
出願日:2020.12.15 出願人:株式会社斉藤正▲こしき▼工房 J-PlatPat リンク
特開2022-94865
会食エチケットうちわ「うちわのみ」に関する発明である。「うちわのみ」とは、1級建築士事務所である(株)齊藤正轂工房の代表が発明し、矢野団扇(株)によって販売開始された商品。ロゴについては商標登録も済んでいる。「内輪飲み」「団扇飲み」・・・そして丸亀うちわの興隆を願う「団扇の実」など、様々な意味をまとっている。(参考:「マスク会食!? 建築家が本気で考えた 会食時のエチケットうちわ “うちわのみ”|ほっとせなNEWS」)
商標登録第6415681号
特開2022-144441:うちわおよびうちわの骨
出願日:2021.3.19 出願人:株式会社ヤマダ J-PlatPat リンク
特開2022-144441
本体5の素材として、無機物と熱可塑性樹脂とを混合した素材を用いるという発明。文献によれば、例えば石灰石を原料に含む LIMEX(ライメックス:TBM社)の使用が想定されている。その他、海洋プラごみを活用した「海洋プラうちわ」など、出願人である(株)ヤマダは様々な環境配慮うちわを製造している。
株式会社ヤマダ HP より引用
LIMEX(ライメックス)by TBM:石から生まれた、紙やプラスチックに代わる新素材|知財図鑑
04 明治時代の知財情報からみる”新たな”うちわ
最後に、明治時代に出願された興味深い実用新案を1件紹介する。
実用新案登録第2876号:戦捷紀念うちは
出願日:1906.7.2 考案者:合田 茂雄 氏(大阪市) J-PlatPat リンク
実用新案登録第2876号
蝶番部Eを介し、團扇Aと笛Bが接続されているという考案。團扇Aに付された楽譜を見ながら笛を吹くことができる。考案の名称が「戦捷紀念うちは」であることから、出願前年である1905年(明治38年)に終戦した日露戦争と関わりがある考案なのかもしれない。
【あとがき】丸亀うちわを探ってみて
日本を代表する竹うちわ「丸亀うちわ」について、その概要を学びながら知的財産の情報を調べてみました。用途に応じて様々な形状が生み出されながら発展していったという経緯や、その歴史が知財図面にも表れている点が印象的です。
ところで、丸亀うちわを手掛ける(株)紙工芸やまだ(HP)からは、漁網を活用した丸亀うちわ「REFINE(リフィネ)」が発案されています。海洋プラスチックゴミとなりがちな漁網を "資源" と捉え、歴史を組み合わせることで新たな価値を創出。素敵な事例ですね。
廃棄漁網をリユースしたサステナブルな丸亀うちわ「REFINE」 4月22日アースデーから世界へ発信!“今欲しい、一生もの”(atpress) より引用
廃棄漁網をリユースしたサステナブルな丸亀うちわ「REFINE」 4月22日アースデーから世界へ発信!“今欲しい、一生もの”(atpress)
伝統的工芸品は、その機能的価値だけでなく、歴史を通じた情緒的な価値がある唯一無二のもの。それは、その地域や日本にとって代替できぬ「地財」であり、後世へと伝えていきたいものです。
参考情報
丸亀うちわ|香川県うちわ協同組合連合会
廃棄処分する漁網を丸亀うちわの材料に再利用で、海洋ゴミ削減へ|RSK SDGsプロジェクト「瀬戸内から未来へ」|Youtube RSK山陽放送公式チャンネル
丸亀うちわとは。一本の竹から涼をとる、暮らしの中の工芸品|中川政七商店の読みもの
ライティング:知財ライターUchida
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