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2024.07.31

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2024」現地レポート vol.3【ユーモア・フィルム以外篇】

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フランスはカンヌにおいて、カンヌ映画祭とならんで毎年恒例で開催されるのが、「カンヌライオンズ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)」。

今年も6月17日(月)から21日(金)まで盛大に開催された同フェスティバルを、現地で参加した知財ハンター/株式会社ガリアーノインスピレーションズのクリエイティブディレクター / コピーライター・阿部光史がレポート。全5回の連載のうち、vol.3となる本記事では【ユーモア・フィルム以外篇 ①】をお届けします。
(取材・文:阿部光史)


こんにちは!株式会社ガリアーノインスピレーションズ/知財ハンターの阿部光史です。これまでの連載では、今年のカンヌライオンズでユーモアとヒューマニティが大きなテーマとなったことをお伝えしました。またブランドがキャンペーンでユーモアを適切に使用した場合、消費者がそのブランドから再び商品を購入する可能性が80%向上するという調査結果もお伝えしました 。

今回は、CM以外の、ユーモアとヒューマニティ溢れる施策について深掘りしながら、ユーモアがいかにブランドの成長に貢献するかを解説します。

世界中の手描きロゴを応援し、ブランドの温かさを伝える

コカ・コーラは、世界中の小売店で手描きされた個性的なロゴを「究極のユーザー生成コンテンツ」と捉え、積極的に応援するというユニークなキャンペーンを行いました。2分間のケースビデオをご覧ください。

1: Coca Cola / THANKS FOR COKE-CREATING

様々な国の雑貨店で、外壁に店主が手描きした商品ロゴや製品の絵を見かけることがあります。

それらの多くは記憶を元に描かれることが多く、ブランドの担当者が何十年もかけて守ってきたコーポレート・アイデンティティの法則が守られないため、本来とは少し違うオリジナルな形に描かれています。

厳格なブランドガイドラインを遵守する企業の一つであるコカ・コーラ社は、今回あえてその枠組みを超え、店主の創造性を尊重しました。

それだけでなく、その手描きロゴをベースに特別にデザインされた商品まで用意。約30種類のオリジナルなクリエーションを掲載したアートブックも作成しました。

この施策はPRINT AND PUBLISHINGINDUSTRY CRAFTCREATIVE B2B部門などで多くのゴールドを受賞しています。

ユーモアが生まれるメカニズム:緊張と弛緩

ここでユーモアとは何かについて簡単なレクチャーを行いたいと思います。

ユーモアには「緊張」と「弛緩」の2つのポイントが必要と言われています。まず何らかの情報を人に与えて強く「緊張」させておいて、それを一気に「弛緩」させる。その結果人が「笑う」という事実は、様々な研究で語られています。

このコカ・コーラのキャンペーンに当てはめると、ブランドのロゴという厳格なルールが存在する中で、それをあえて破るという行為は、見る人に緊張感を与えます。

しかしブランドがユーザーの創造性を許容・尊重し、共に成長していこうとする本気の姿勢を見せる事によって、緊張は心地よい弛緩へと転換されます。

その結果、肯定的なブランド感情が95%増加したのです。

この後は、人間だからこそ起こしてしまう間違いをユーモアの軸にした施策を、2点お伝えしたいと思います。


スペルミスを愛し、ブランドの歴史を新たな視点で語る

2: Heineken / 150 YEARS OF WHATEVERKEN

1つはハイネケンの施策、150 YEARS OF WHATEVERKEN(ホニャララケンの150年)です。

2023年にブランド150周年を迎えたハイネケン、通常のキャンペーンであれば、その歴史をリマインドさせ、伝統を祝い、品質の高さを語る手法を取るでしょう。

しかし主たるターゲットであるG世代にとっては、記念日や歴史など、何の関係も共感もありません。そこでハイネケンはブランド150年の歴史の中で生まれた数々の「スペルミス・言い間違いミス」を公式に認め、商品デザインにまで取り入れるというユニークなキャンペーンを実施しました。

この施策はDIRECT部門でゴールドを受賞しています。

このキャンペーンにおいても、「緊張」と「弛緩」の要素が巧みに利用されています。完璧さが求められるブランドイメージの中で、あえてスペルミスや読み違いを認めることは、見る人に驚きと緊張感を与えます(ビデオにはハッキネンが二回出てきます笑)。

しかしその一方で、ブランドが人間の誤りをユーモアを持って受け入れ、拡大させる姿勢を見せることで、見る人は心地よい弛緩を体験します。

結果として売上が32%上昇し、キャンペーンは規模を拡大して、2024年も継続することになりました。

聞き間違いをきっかけに、難聴問題への意識を高める

次はアイウェアと補聴器を扱っている英国SPECSAVERS社が行った、聞き間違いのキャンペーンをご覧ください。

3: SPECSAVERS / THE MISHEARD VERSION

往年の名曲であるリック・アストリーの「Never Gonna Give You Up(あなたを決してあきらめない)」。この曲の歌詞の聞き間違いをネタに、SPECSAVERSは難聴問題への関心を高めるキャンペーンを行いました。

彼らはまず、長らくの間、多くの人が間違って歌ってきた歌詞をリック・アストリー本人に歌ってもらい、前置き無くラジオやネットでリリースしました。

そしてこの新曲?が話題になった後、ブランドは本当に伝えたかった「聞き間違いは誰にでも起きること。だから難聴の検査をしましょう」というメッセージを伝えました。またリック本人も、隠れた難聴を探す事の重要性を伝えると同時に、新しい補聴器を発表しました。

この施策はRADIO AND AUDIO部門でグランプリ、PR部門でゴールドを受賞しました。

新しく録音された楽曲の中で、リック・アストリーは「デザートスプーンを持って走り回ろう」「他の男からニキビを移される事はない」「おばさんは裸だった」など、多くの人が間違ってきた歌詞を歌っています。その恥ずかしそうな表情が、さらなる笑いを誘います。

聞き間違いをネタにした、緊張と弛緩

このキャンペーンでは、久しぶりに聞いた有名な曲の歌詞が間違っているという部分で、視聴者に強いショックを与えています。

しかし、その一方で、難聴という社会問題をユーモアたっぷりに表現することで、視聴者は問題意識を持ちながらも、笑いに包まれた心地よい気分でメッセージを受け取ることができます。

この結果、TikTokでの再生回数が8時間で2000万回に達し、全国の補聴器および聴覚ケア製品の売上は前年比16%増となりました。

今回のまとめ

今回のレポートでは、カンヌライオンズで受賞した3つのキャンペーンを深掘りし、ユーモアがいかにブランドの成長に貢献するかを解説しました。

特に「緊張」と「弛緩」というユーモア必須の要素が、これらのキャンペーンの成功に大きく貢献していることがおわかりいただけたかと思います。

今後のマーケティングにおいては、ますますユーモアや共感といった人間の心に響く要素が成功のカギになってくるでしょう。これらの事例を参考に、皆さんが関わるブランドでも、より創造的でインパクトのあるキャンペーンを展開してみてはいかがでしょうか。

次回は「ユーモア・フィルム以外②+直す・作る編」として また様々な施策をご紹介していきたいと思います。お楽しみに!


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
note: https://note.com/mitsushiabe/
blog: mitsushiabe.com
company website: https://ginspirations.co.jp

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