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2022.12.15

レポート

【イノフェス2022】Web3時代の「X to Earn」を妄想する─川田十夢×出村光世×荒井亮

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J-WAVEによる日本最大級のクリエイティブフェスティバル「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022」(イノフェス)が10月21日〜23日の3日間、六本木ヒルズの会場とオンライン配信のハイブリッドで開催されました。今年のテーマ「The beginning of a new world」のもと、Web3、NFT、DAO、Metaverseをキーワードにしたライブやトークセッション、テクノロジーの展示が行われました。

10月22日には、知財図鑑の出村光世と荒井亮が、AR三兄弟・川田十夢氏と「Web3以降の知財のあり方」をテーマに対談。本記事ではさまざまな妄想が飛び交ったトークセッションの様子をレポートします。

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生活の全てが「X to Earn」になる世界

川田:本日のモデレーターを務めます、「J-WAVE INNOVATION WORLD」ナビゲーターの川田十夢です。このセッションでは、Web3以降の知財からワクワクする未来を考えようというテーマで知財図鑑代表兼クリエイティブ集団Konel代表の出村光世さん、そして知財図鑑編集長の荒井亮さんとトークセッションをお送りしていきます。さっそく荒井編集長から、知財図鑑について簡単に教えていただけますか。

荒井:知財図鑑は特許に限らず新しいテクノロジーや研究成果、それらのユースケースのアイデアを紹介しているメディアです。従来の特許情報サイトは一般の人には解読が難しいケースが多いのですが、それをクリエイター目線でわかりやすく紹介していくWebメディアとなっています。

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川田:そして、知財図鑑の代表であり、クリエイティブ集団Konelの代表としていろいろと“コネて”いる出村さん。

出村:よろしくお願いします。川田さんの「INNOVATION WORLD」に1年以上出演させていただいているので、こういった場でご一緒できるのは嬉しいですね。

川田:お二人ともよろしくお願いします。今回はテーマを持ってきていただいたということで。

荒井:今日のテーマは、Web3時代の知財から考える「未来デパートの作り方」です。未来デパートというのはドラえもんに出てくる、「どこでもドア」や「スモールライト」みたいな秘密道具が売っている場所ですね。これから先、秘密道具のようなワクワクするガジェットや未来のサービスが生まれるには、社会全体でのアイデア発想や実装が重要になってくるのではないかと思っています。

川田:ドラえもんの「アンアンアン、とっても大好き〜」の「アン」も、「X to Earn」の「Earn」なのかなって思いますもんね。

荒井:なるほど、その視点はさすがですね!

川田:これは言おうと思ってました(笑)

荒井:まさに「X to Earn」と呼ばれている、ブロックチェーン技術が浸透してきたことで生活のあらゆる活動が「Earn=稼ぐ」ということに繋がっていく時代が徐々にやってきています。

川田:Web3と経済活動の結びつきが強くなっていく。

荒井:ブロックチェーンを使った「X to Earn」の代表的な例だと、「Play to Earn(ゲームをして稼ぐ)」がまずあります。これまで消費するだけだったゲームとの関わり方と違い、ゲーム内で獲得した「勇者の剣」のようなアイテムに唯一性を持たせることで売買が可能になったり、独自のステージを作って共有する、誰かの代わりにレベル上げを手伝う、ゲーム内のコンシェルジュ役を担うなど、ゲーム内のさまざまな関わり方を通して仮想通貨(トークン)を獲得できる経済圏が発展しています。「STEPN(ステップン)」などは話題になったのでご存知の方も多いと思いますが、これは「Move to Earn(動いて稼ぐ)」ですね。NFTのデジタルスニーカーを買って、それをセットして運動するとトークンが取得できると。

P1157572 AR三兄弟・川田十夢氏

川田:ちなみに「STEPN」で損しちゃったって人はこの会場にいますか? いますね。

出村:先駆者の方々ですね。浮き沈みの波が大きくなるので難しいところも…。

川田:「STEPN」の歩くだけで儲かるというのは斬新で夢があったし、靴によって取得効率が変わるっていうのも面白いですよね。他にはどんな「X to Earn」が出てきているのでしょうか?

荒井:Sleep to Earn(眠って稼ぐ)」といって、NFTのベッドを買って、眠った時間と起きた時間を規則正しく記録することで仮想通貨が溜まるアプリもあります。また、ヘッドホン型のNFTを買って音楽を聞く「Listen to Earn(聴いて稼ぐ)」、メタバース空間で会話したりコミュニケーションする「Talk to Earn(話して稼ぐ)」など、生活すべてが何かしらの「X to Earn」に紐づく未来が、もうそこまできています。

川田:次に何の「X to Earn」がやってくるのか、考えるべきところですよね。

考えるだけで稼ぐ、脳波買取センター「BWTC」

出村:「X to Earn」と呼ばれるものに共通点があると思っていて、その一つが“記録”ですよね。ウェアラブルデバイスやスマホといったセンシングできる機械が今の時代は爆発的に増えていて、電話口で喋った音声はもちろん、枕元にスマホを置いていれば寝息で睡眠状態も記録できる。デジタル技術でセンシングできるもの、かつ、多くの人々に普及しているものってなんだろう?という入り口で発想していくと考えやすいのかもしれません。

P1157614 知財図鑑/Konel代表・出村光世

川田:それこそ出村君がつくっていた脳波を買い取るサービスも「Think to Earn(考えて稼ぐ)」だよね。

出村:あれはまさにセンシングから発想を得ていて、INNOVATION WORLDでもおなじみの脳科学者・藤井直敬先生から「Focus Calm(フォーカスカーム)」という脳波デバイスをお借りしたのがきっかけです。ヘアバンドのように額に装着するだけで「こんな手軽に脳内の情報が取れるのか」と。そこから思いついたのが「脳波買取センター BWTC」というプロジェクトです。100秒間=1,000円でどなたからでも脳波を現金で買い取るという取り組みで、今年8月に期間限定の展示を行い、来場者から100万円分の脳波を買い取りました。

川田:思考実験だし社会実験だよね。僕も実際に脳波を買い取ってもらいましたが、献血と違って脳波だと体から減ってる実感があまりなかった。ちなみに僕はその100秒間、今まで考えたこともない一発ギャグを考えていました。

BWTC 市民から脳波を買い取り、そのデータから適正な収益化を図る“脳波買取センター”「BWTC」

出村:このプロジェクトで試したかったのが、自分の活動記録をお金に変えるという行為にどれだけの人が参加してくれるのかというところ。「X to Earn」っていわばまだ黎明期で、基本的に仮想通貨を持っている人が中心のものですよね。僕らのBWTCは体験者の裾野を広げるために、現金で脳波100秒を100円玉10枚でジャラジャラと物理的にお支払いしました。結果として10日間で1,000人を超える方々と売買した一方で、気味悪がってやっていただけない方もいらっしゃったのが面白かったですね。

川田:でもその脳波がNFTとして値段がついて売れたりしてたのが面白いよね。

出村:買い取った脳波データを独自アルゴリズムでNFT絵画として出力・販売していて、川田さんの脳波絵画は6,000円くらいで売れました。TalkにしてもSleepにしてもThinkにしても、センシングして集めたデータを集めた側がどう使っていくのかを「X to Earn」の事業開発の中ではしっかり設計されていくべきだと思います。

アイデアをブロックチェーン化する、知財のトレーサビリティ

荒井:知財図鑑は技術から未来を妄想することが得意なメディアですが、「Imagine to Earn(妄想して稼ぐ)」もできるのではと考えています。ブロックチェーンやWeb3の面白いところは、今まで届かなかったところにまで価値や記録をつけられることで、アイデアを発想をした瞬間に唯一性を与えることもできるのではないかと。例えば特許は、自分が考えた発明を唯一無二の新しいものだというお墨付きをもらい、公開されることで権利を担保される「約束」のようなものです。誰がそれを開発したか、今使えるのは誰か、それを明確にできて改ざんができない仕組みを作れる特許の性質とブロックチェーンは相性がいいはずですね。

〜〜会場から赤ちゃんの泣き声〜〜

川田:今「Baby to Earn」がどこかで…。

荒井:赤ちゃんをあやせばあやすほど、仮想通貨が貯まる。ありそうですし、少子化解消にもなりそうです(笑)

川田:子供って泣くのが仕事みたいなもんなのに、公の場だと周りが怪訝な感じになっちゃうのはなんとかしたい。「よだれ to Earn」とかEarnしてあげたいよね。

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出村:まさに、そういうポンと出た発想自体がちゃんとブロックチェーン上に記録されることができるといいですよね。今思いついたものが、実は何か前段になるようなアイデアが手元にあったのかもしれないし、脈々と記録したり上書き・上乗せできる仕組みがあるといい。

川田:わかる。例えば「Baby to Earn」を僕が本当に一人で特許を取得しようとすると、管理運営を含めてめちゃくちゃコストと時間がかかるんですよ。でも「Baby to Earn」いいなと思った人たちがどんどん乗っかって意見もアイデアも重ねて、権利もシェアできるようになるといいよね。

出村:アイデアの段階ってまだ隙間が多いと思うんですよね。「Baby to Earn」ってぼんやりしたアイデアがある中で、仮に「これだけデジタライズされて予定調和のことしか起こらない時代に、いつ泣くかわからない赤ちゃんの泣き声のような存在ってものすごくレアだし価値ですよね」みたいな企画を重ねたとして、その差分は僕の権利にできるとヘルシーですよね。

川田:ヘルシーですね。赤ちゃんだけじゃなくて「老い」もEarnしたいな。「白髪 to Earn」とか。

出村:喋ったもん勝ちとか発表したもん勝ちというわけではないですが、「いいアイデアを持っているのに特許出願に備えて発表できない」ことが世の中の機会損失にならないようにするために、Web3やブロックチェーンがどこまで権利を拡張できるかっていうのはすごくポイントですよね。

川田:会社組織が競合を意識して特許取って、マーケティングして商品開発して、プロダクトが世に出るときにはもうみんなそれに飽きてるみたいなパターンも全然ありますもんね。そのスピード感は流石にもう時代とは合わない。

P1157542 知財図鑑 編集長・荒井亮

荒井:それこそ育児中の主婦の方で、「こういうサービスあったらいいのにな」って思いつくことが日常的にいっぱいあると思うんですけど、「じゃあそれ、あなたが特許取ってビジネスしてください」って言われても、それは酷な話じゃないですか。その主婦の方がアイデアを発想・投稿した時点で簡易NFTとして記録されて、それを具現化したい人が権利を買い取って出願できるシステムがあると良さそうだなと。将来的に収益化されたら発案者である主婦にもブロックチェーンをたどってロイヤリティが分配される。それで億万長者になるのは難しいかもしれないけど、年間数万円の生活の足しにはなるとか。それならば実現できるんじゃないかと思うんですよね。

権利のシェアで生まれる、ドラえもんの未来デパート

川田:僕はもう話しながら、「Baby to Earn」をいかに実現するかをリアルに考え始めていますけど、実際にできたらめちゃめちゃよくないですか?

出村:これもう、企画会議に入っちゃってますが…(笑)。例えば、絵の描き方の手法でも写実的とかポップとかいろいろな手法がありますが、何にも影響されず、何もイメージせずに描くのが一番難しいっていう話を聞いたことがあるんですよね。そこに価値を見出していく絵画の価値観もあって、赤ちゃんはその表現と相性良さそうだなと。

川田:なるほど。

出村:アイデアの話に戻すと、権利って木に例えるとわかりやすいかなと思っていて。現状の特許や権利というのは大きい幹で、さらにこの枝にはそれぞれこういう機能があって…というように全体で説明しきっちゃってる感がある。一方で、Web3時代では、「Baby to Earn」というアイデアの幹は今生まれましたと。そこに絵画表現を紐づけたらどうですか? 泣き声のセンシングを紐づけたらどうですか? と、枝の部分をみんなでつくって、それがリアルタイムにどんどん更新され続けて、そして「未来デパート」になっていく。それができたらWeb3が価値やものづくりの大きな転換点になりそうですね。

川田:六本木ヒルズのエレベーター乗ると、たまに4階ぐらいで止まって「えっ」て思うと「上かご上昇中です」って表示が出るんですよ。あれ、Earnできないですかね。「上かご上昇中 to Earn」みたいな。不安なんですよね、あの時間。

荒井: to Earnとは一体何かという話になってきてますね(笑)

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出村:でもストレスって実はすごくエネルギーなんじゃないかなって思う時ありますよね。不安や怒りが抽出できると、いつか「ギャリック砲」みたいにアウトプットできそう。

川田:電車で迷惑な振る舞いをしている人にちょっと誰か注意するだけで、その車両の人みんな助かったみたいな時あるじゃないですか。あれも「勇者 to Earn」してほしいよね。

出村:監視社会っていうワードも一つのトレンドだと思うんですが、その行為をポジティブに褒め称えることがトークンなりに変換されるのもあると思いますし、逆にそれが気持ち悪いなって思ってしまう人もいるでしょうし。シェアと同時に、そのムーブメントに参加する権利みたいなものが選べる時代になるのかな。

川田:Web3は人によってはお金儲けの道具みたいに言われる場合もあるけど、そうじゃなくて、今は価値となされてないものに価値を与えられるかもしれないという見方が浸透するといいですね。

出村:「Earn=貨幣価値のEarn」なのかっていうのもまだ決まってないわけで。例えば僕の人生で今まで何回「ありがとう」って言われたかわからないですけど、次世代の人は、死ぬときに「この人2000万回も感謝されたんだ」みたいなことが可視化されて、価値になったり信用につながっていったりとか、いろいろな形態のEarnがあり得ますよね。

荒井:本題のテーマに戻すと、「未来デパート」があるドラえもんの世界を誰が担っていくのかというと、一人の天才や一部の発明家だけじゃなくて、社会全体でつくっていくというのがこれからの時代なのかなと思います。アイデアをオープンに出し合うことでそれぞれが感化されていって、そこにちゃんと価値と記録が紐づいて経済的にも循環していく。そういうワクワクする世の中がWeb3以降の世界で生まれて欲しいですね。

川田:そういった動きに、我々も一緒になって大きな矢印になっていければいいですね。あと「Baby to Earn」は僕のものじゃないので、会場の皆さんも持ち帰っていただいて自由にお使いください。なんか発電もできるような気がするんですよね…。

出村:寝返り発電とかできそうですよね。

川田:僕は以前、おじいちゃんの入れ歯にBluetoothやWi-fi機能を入れて、若者たちが集ってテザリングするっていう企画を思いついたことがあるんですけど、歯医者さんにそれを相談したら良いアイデアらしいですよ。人の熱っていうのは割と安定して電力を取れるんですって。「入れ歯 to Earn」、これも差し上げますので(笑)。
今日はいろんなアイデアが出ましたね。ワクワクするお話をどうもありがとうございました!

▼イベント概要
J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2022
開催日時:
2022年10月21日(金)※ビジネスデー2022年10月22日(土)、23日(日)開場12時、開演13時
会場:
六本木ヒルズアリーナ、大屋根プラザ、ヒルズカフェ
主催:
J-WAVE/筑波大学
企画制作:
J-WAVE/筑波大学/HOT STUFF PROMOTION/Nu ink.
後援:
文部科学省
協賛:
田中貴金属グループ/CHINTAI/TDK/凸版印刷/森ビル

TEXT:松岡 真吾




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