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2026.06.29
レポート
世界三大広告賞「カンヌライオンズ2026」2日目レポート:CGを実写に、コーヒーマシンをカフェ店舗に

毎年6月に南フランス・カンヌで華々しく開催される世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」。会期中は、数百にも及ぶ講演やセッション、活発なネットワーキングイベントに加え、権威あるカンヌライオンズ賞の授賞式が執り行われます。今年も、ガリアーノインスピレーションズ代表の阿部光史が、特に注目する作品群をご紹介します。
(文:阿部光史)
フランスの熱波と、14年越しの熱狂
フランスを襲う記録的な熱波のニュースが現地を騒がせる中、カンヌの会場内は別の熱量に包まれていた。2日目の朝から人気を集めていたのは、14年間にわたるカンヌからのラブコールに応えてようやく登壇したオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)による「The Cannes LionHeart Seminar」だ。2000人規模の会場は満員となり、入れない聴衆が溢れかえる異例の会となった。
オプラ・ゲイル・ウィンフリー(Oprah Gail Winfrey、1954年1月29日 - )は、アメリカ合衆国の俳優、テレビ番組の司会者兼プロデューサー、慈善家。(wikipedia)
彼女は自身が「ブランド」とみなされる事に抵抗があった過去を引き合いに出しながら、「表面的なマーケティング手法を追うのではなく、自分の内側にある真実や強い意図(Intention)を発信の軸にすること」の重要性を説いた。
自身のテレビ番組においても、単にスターを呼ぶだけのシステムを廃し、「この放送で視聴者に何を届けるか」という企画意図を、全スタッフで共有してからカメラを回す構造へと番組自体を転換した。
またサイン会の手法も、ただサインを行う場から「徹底的に声を聴く場」に変えた経験から、人間が普遍的に持つ「存在を認めてほしい(validation)」という欲求に直接触れることの重みを、確かな存在感を持って聴衆に提示した。
OpenAIの現実論:AI導入とエンジニアの事業統合
一方で、現代のテクノロジーの象徴であるOpenAIのセッション「Advertising in the Age of AI(登壇者:OpenAIのChief Revenue Officer、Denise Dresser氏ら)」も、入場制限となる大人気となった。しかしAIの総本山から語られたのはAI技術による自動化の夢ではなく、現実的な組織論であった。
同社は今後のAIの企業導入を、単なる「個人の時間短縮」という部分最適から「ビジネスそのものの再定義」へと変換するべきだという。急速に成果を上げている企業に共通するファクトは、バックオフィスに分断されがちだったAIエンジニアチームを、ビジネス・経営部門に直接参画させ、高速でPDCAを回す構造を作っている点だ。
AIを「極めて優秀な新入社員」と言い換える同社は、昨今のレイオフの言い訳にAIが使われる風潮を否定し、Excelの登場が会計士を無くさなかったように、人間の高い知性を現実世界で活かすための「増幅器」に過ぎないという事実を淡々と提示した。まぁグロース担当役員だからというのはあるかと。
ちなみにAIが極めて優秀な(しかし時々抜けている(嘘もつく))社員という比喩は僕もよく使っている。
Titanium Live Judging:ここにも「ビジネスモデルの転換」の姿が
カンヌライオンズの最高峰と言われているTitanium賞は、毎年そのプレゼン審査(Live Judging)が公開されている。その狭い部屋には熱心なリスナーたちが密集していた。筆者が参加した時間帯にはIKEAの担当者自らが登壇し、不要家具の下取り・販売を行うプラットフォーム「PREOWNED」施策のプレゼンテーションを行っていた。
担当者が強調したのは、「PREOWNED」が単なる広告キャンペーンや一時的なプロモーションではなく、「自社と地球のために、ビジネスモデルそのものの転換を行った」という事実だ。
この施策は廃棄物を減らすだけでなく、出品速度を既存の中古EC比で6倍に高速化し、スペインを起点に既に6カ国へと社会実装を拡大している。
企業の「中の人」が自らの事業として熱量を持って語る姿は、プロモーションの枠を超えた実体のあるビジネスの強さを物語っていた。これは広告代理店の人間には出来ないプレゼンだろう。
グランプリ3選:AIには真似できない、実写と実物の圧倒的クラフト
本日発表された各クラフトおよびデザイン部門のグランプリは、図らずも「すべて実写」「すべて実物」という、人間の手仕事の圧倒的なディテールが評価される結果となった。複雑な映像や画像をAIが一瞬で生成できる時代だからこそ、そのリアルな制作プロセスに潜む狂気的なクラフトが際立っていた。
Design Lion Grand Prix
Apple TV Rebrand
TBWA\MEDIA ARTS LAB / APPLE / 2026
Apple TVが提供する映像作品の認知は高いが、プラットフォームとしての認識が低いという課題に対し、彼らは「CGを使用する過去の制作慣習」から「実物のクラフトによる重みと質感」への転換を試みた。
新しいロゴモーションはCGやAIによるシミュレーションを一切排除。8つの透明素材、3つのガラス厚、50以上の構成案の検証に5日間を費やし、最終的に8つのカスタムガラスロゴを製造。偏光フィルターを用いて「光が実際にガラスを通過する動き」をカメラで実写撮影し、16テラバイトに及ぶRAWフッテージを生成した。
また音声は、アーティストのFINNEASがその物理的な動きに完全に同期した音をゼロから構築。審査委員長は「テクノロジーの脅威に対する美しい反逆」と称賛した。昔の日本のテレビ局の放送終了時のジングルを思い出すよね。
Film Craft Lion Grand Prix
Your Way Out
ISLE OF ANY / COINBASE / 2026
既存の金融システムから逃げようとする主人公の姿を提示する本作は、一見するとビデオゲーム(ローポリゴンやピクセルアート)の世界観を持っている。
しかし、このゲーム風映像はCGではなく、ほぼ全てが「カメラの実写(in-camera)」で撮影されている。衣装にグラフィックを印刷し、役者の顔にはローポリに見えるマスクを装着。セットの背景をモザイク状に手作業で建築し、物理的に影のないライティングを組んだ上で、モブキャラに特有のカクカクとした動きを、出演者に徹底的に訓練して撮影を行っている。
デジタルで処理すれば簡単に制作出来る画面をあえて実写で構築するクラフトの方向性へと舵を切った点に、圧倒的な映像演出の深みとオリジナリティが宿っている。ぜひ画面を大きくして見てほしい。
Industry Craft Grand Prix
Tiny Coffee Shops
LOLA / DE' LONGHI / 2026
デロンギはアイコニックな家庭用コーヒーマシン5機種を、実際に稼働するミニチュアのカフェ店舗へと変貌させた。「家電製品」を「憧れのライフスタイルの姿」へと変換する試みだ。
ウェス・アンダーソン監督のコラボレーターとして知られるミニチュアアーティストのサイモン・ヴァイセ氏率いる8人の職人チームが数ヶ月を費やし、1機種につき300以上の要素(手作業で塗装されたレンガ、手組みの椅子など)をゼロからビルドした。
さらに、マドリードの街中に「世界最小のポップアップカフェ」を実物として出現させ、本当にコーヒーを提供してリアルな体験へと拡張している。
審査室のミニチュアの窓に灯りがともった瞬間、AIでは成し得ない精緻な実物の説得力が審査員を満場一致で納得させたそうだ。
まだ前半なのに、いつも以上に濃いカンヌ。言い換え、変換、トランスフォーム、置き換えのネタが色々と溜まって来て楽しい。明日もレポートをお届けします。
阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師
クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。
X: @galliano
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