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2024.08.07

レポート

世界三大広告賞「カンヌライオンズ2024」現地レポート vol.4【ユーモア・フィルム以外 + 直す・作る篇】

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フランスはカンヌにおいて、カンヌ映画祭とならんで毎年恒例で開催されるのが、「カンヌライオンズ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)」。

今年も6月17日(月)から21日(金)まで盛大に開催された同フェスティバルを、現地で参加した知財ハンター/株式会社ガリアーノインスピレーションズのクリエイティブディレクター / コピーライター・阿部光史がレポート。全5回の連載のうち、vol.4となる本記事では【ユーモア・フィルム以外②+直す・作る篇】をお届けします。
(取材・文:阿部光史)


こんにちは!株式会社ガリアーノインスピレーションズ/知財ハンターの阿部光史です。第四回となる今回は、「ユーモア・フィルム以外②+直す・作る編」として、ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門から2つのゴールド作品、そして「自社製品」を直し・作り出す3つの施策をご紹介します。

おバカな体験を通じてブランドとの繋がりを深める

ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門の審査委員長である、GUTのアンセルモ・ラモス氏は、授賞式において「生きる事と死ぬ事の間は全てブランドエクスペリエンスである」と定義しました。

つまり、私たちの生活のあらゆる瞬間がブランドとの触れ合いとなるということです。そして、その体験は「なんでもあり」で、「楽しい体験」が最上であり、だから「アホな事を行っている作品に賞を与えた」と話し、大喝采を受けていました。

では1つ目の施策をご紹介しましょう。配達サービスブランド「DOORDASH(ドアダッシュ)」の驚きの施策です。ご覧ください。

1: DOORDASH / DOORDASH-ALL-THEADS

米国の配達サービスブランド「DOORDASH」は、レストランの配達以外にもあらゆる商品を配達している事を周知させるために、スーパーボウルのマーケティングを一新する驚きの施策を実施しました。

それは、スーパーボウルの試合中に放送される全てのCMの商品を、1人の当選者にプレゼントするというもの。応募は、スーパーボウル中に流れるハッシュタグを入力するだけというシンプルなものでした。

スーパーボウルのゲームチェンジャーとして、新たなブランド体験を創造する

この施策は、スーパーボウルの1週間以上前から話題となり、人々の関心を集めました。試合中にも、他社のCMが流れる度に、DOORDASHアプリのカート画面にその商品が自動で追加されるというインタラクティブな体験が提供されました。このリアルタイム性と参加型の要素が視聴者を熱狂させ、ソーシャルメディア上で大きな話題となりました。

しかし、最終的にCMで流れたハッシュタグは驚くほど長く、視聴者は試合観戦そっちのけでハッシュタグを入力する事態に。このユニークな施策は、DOORDASHの単なる配達サービスとしてのイメージを覆し、生活のあらゆるシーンで利用できる便利なサービスであることを印象付けました。

「DIRECT」及び「BRAND EXPERIENCE AND ACTIVATION」部門でゴールド、「TITANIUM」部門でグランプリを受賞したことは、その革新性が評価された証といえるでしょう。このキャンペーンにより獲得されたインプレッション数は 119 億に達し、ブランド認知度も大幅に上昇しました。

次に、ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門から、2作目として「他人が苦しむことが正しい」というなかなかシュールな施策をご覧いただきたいと思います。NOT MAYO(ノットマヨ)の「MAYO HATERS(マヨネーズ嫌い)」です。ではビデオをご覧ください。

2: NOT MAYO / MAYO HATERS

植物由来のマヨネーズの新ブランド「NOT MAYO」は、マヨネーズ嫌いの人々に自社の製品を試してもらうというユニークな施策を行いました。

まずSNSのRedditに集うマヨネーズ嫌いの人々を招集し、彼らにブラインドテストを実施。その後、マヨネーズ嫌いの人たちがNOT MAYOを本気で嫌う様子を映像で公開し、ネット上で話題となりました。

かつてない逆転の発想で、ブランド認知度を向上させるという勇敢な試み

この施策は、「マヨネーズ嫌いの人がNOT MAYOを嫌う」という事実から、「マヨネーズ好きはNOT MAYOを好きになる」という結論を導き出すという、論理学でいうところの“対偶”の考え方を巧みに利用し、他に例を見ない手法で「NOT MAYOは美味しい」ことをアピールしているわけです。

この逆転の発想が評価され、「BRAND EXPERIENCE AND ACTIVATION」部門でゴールドを受賞しました。従来のマヨネーズ広告のイメージにとらわれず、新しい選択肢としてNOT MAYOを認知してもらうことに成功したと言えるでしょう。

ちなみにこの施策を企画制作した代理店は、最初に紹介した審査委員長アンセルモ・ラモス氏が率いる「GUT」です。彼らのスローガンは「勇敢なクライアントのための、勇敢なエージェンシー」。この施策をクライアントと共に実現させたのは尊敬に値します。

image2 写真 右がアンセルモ・ラモス氏 左はGUT共同創業者のガストン・ビジオ氏

このキャンペーンの結果、NOT MAYOの売上は前年比14%増加し、ブランド信頼度は96%増加しました。

さてユーモアの次は「直す・作る篇」として、Makerでもある私が選んだ「製品を直したり、新たな製品を作り出す施策」をご紹介していきたいと思います。


まず直す篇から、1つ目はフィリップスの施策「REFURB」です。 

3: PHILIPS / REFURB

ヨーロッパのホリデーシーズンでは、年間1000万個のギフトが返品されているそうです。これらのギフトは、これまで埋立地に廃棄されてきました。しかし今回フィリップスは、返品された製品を再確認し、再包装を行い、新品よりも優れた再販売品として販売する「REFURB」というプログラムを開始しました。

リユースで環境に貢献し、循環型経済の実現へ

この施策は、単に製品を販売するだけでなく、再販売品による環境問題への取り組みを示すことで、ブランドイメージを向上させました。また自らのECサイトを変更し、再販売品が全て売り切れるまで、新品の販売を停止していたそうです。

この結果、返品された製品52,000個すべてが再販売され、推定277トンのCO2排出が抑制されたとされています。

もう一つ直す篇から、パタゴニアの事例をご紹介したいと思います。「Let's Get Unfashionable(時代遅れで行こう)」と題されたセミナーで紹介された事例です。

4: PATAGONIA / Worn Wear

image4 引用元: https://eu.patagonia.com/gb/en/stories/repair-is-a-radical-act/story-17637.html

長く愛着を持って使える製品を、そしてコミュニティの醸成

このセミナーで、パタゴニアのマーケティング及び製品ディレクターであるタイラー・ラモット氏は、11年前に彼らが発表した「Worn Wear」というコンセプトについて説明しました。

パタゴニアはこのコンセプトのもと、古くなった製品のDIY修理を推奨しています。またそれだけでなく、近年ではユーズド製品をリメイクした再生品をポップアップショップなどで限定販売しており、大変な人気を獲得しているそうです。

この施策は、ファストファッションが主流となる中、永く使える製品の価値を見直し、消費者の意識を変えようとする試みです。「Worn Wear」プログラムの開始以来、パタゴニアの製品に対する顧客の愛着は深まり、製品の寿命が延びたことで廃棄量が減少しました。

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ちなみに、僕は家で壊れたものをすぐ直してしまいます。今回のセミナーで元気を頂いたので、過激な修理活動家として今後もがんばります(笑)。

最後は、作る篇として、ペルーのSIGHTWALKSをご紹介します。ビデオをご覧ください。

5: SIGHTWALKS / Sol Cement

ペルーのセメント会社Sol Cement社は、街を誰にとってもより親しみやすく、過ごしやすい場所に変えるというブランドの目的に沿って、視覚障害者向けに触感で店舗などの場所がわかるデザインのタイルを開発し、街に設置しました。

インクルーシブな都市づくり、そしてオープンソースの力

この施策は、単に製品を販売するだけでなく、社会課題の解決に貢献することでブランドの社会的責任を果たすことを目指しています。このプロジェクトは、視覚障害者の移動性を向上させ、都市のアクセシビリティを高めることに貢献しました。

世界を変えてしまうというほどの強いアイディアを持つこの施策が、デザイン部門でのグランプリを獲得した事は当然の結果だと思います。さらにこのプロジェクトはオープンソースとして公開されたため、世界中の都市で同様の取り組みが広がり、よりインクルーシブな社会の実現に繋がる事が期待されています。

今回のまとめ

今回のレポートでは、ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門の受賞作品と、製品を直したり、新たな製品を作り出す3つの施策をご紹介しました。

これらの事例は、単に商品を売るだけでなく、社会的な課題解決や持続可能な社会の実現に貢献するマーケティングの重要性を示しています。特に、消費者の体験を重視し、共感を呼ぶことでブランドとの繋がりを深め、社会的なインパクトを生み出している点が注目されます。 

次回の最終回では、イノベーション系の賞を受賞した様々な施策をご紹介していきます。お楽しみに。


阿部光史
クリエイティブディレクター / コピーライター
株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO
東京工芸大学非常勤講師

クリエイティブディレクター / コピーライター / CMプランナー。株式会社ガリアーノインスピレーションズCEO、東京工芸大学非常勤講師。広告キャンペーンの企画制作をメイン業務としつつ、クリエーティブなアイデア・発想力についての講義やワークショップを大学等で行っている。電子工作にも造詣が深く、SXSWへの出展などを通じてイノベーティブな技術領域の企業プロトタイプ製作支援も行う。

X: @galliano
note: https://note.com/mitsushiabe/
blog: mitsushiabe.com
company website: https://ginspirations.co.jp

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