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2024.06.21
レポート | CHIZAI YOUTH
【SusHi Tech Tokyo 2024】グローバルセッションレポート #2─グローバルなコラボレーションのために─国の文化と強みを活かす
アジア最大規模のイノベーションイベント「SusHi Tech Tokyo 2024」のトークセッション、“Global Startup Program”が5月15日、16日に東京ビッグサイト西展示場1・2ホールで開催されました。 このプログラムは、世界共通の都市課題解決に向けた、国内外スタートアップエコシステムとの"まだ見ぬ出会い"を創出する、アジア最大規模で日本唯一のグローバルイノベーションカンファレンスとなります。
このレポートでは、知財ハンターのインターン「CHIZAI YOUTH」が一部のセッションをピックアップし、各セッションの詳細や語られた議論、CHIZAI YOUTHたちが感じたことを紹介します。#2となるこの記事では「グローバルなコラボレーションのために⎯国の文化と強みを活かす」をテーマに、5つのセッションをまとめました。アジアや世界を代表するスタートアップ、投資家、大企業、国・都市、起業家らが語るグローバルな協力の可能性、また日本の強みとはどのようなものなのでしょうか。
①グローバルに活躍するCULTUREPRENEURS:文化はビジネスになるのか(5月16日)
②フィンランドがヨーロッパ有数のスタートアップとイノベーションのコミュニティである理由とは? ~エスポー市の事例と共に~(5月15日)
③ ASEAN TechCrossroads:フィリピン・タイ・台湾での機会を切り開く(5月16日)
④日本はアジアのWeb3ハブとなり得るのか?(5月16日)
⑤DeepTechの未来を解明:日本から世界への挑戦(5月15日)
グローバルに活躍するCULTUREPRENEURS:文化はビジネスになるのか
◯登壇者(敬称略): 朝谷 実生(Curina, Inc. 代表取締役)× 岩本 涼(株式会社TeaRoom代表取締役/茶道裏千家準教授)× 谷本 有香(Executive Director / Managing Editor Web Editorial Team at Forbes JAPAN )
当初登壇予定だった岩本涼氏に代わり、三木アリッサ氏の登壇に変更となった。
「CULTUREPRENEUR(カルチャープレナー)」とは、文化やクリエイティブな活動によって新しいビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる起業家のことを指す造語である。このセッションでは、文化ビジネスにおける挑戦や苦悩、グローバル展開について議論した。
カルチャープレナーたちは、文化やクリエイティブ部門でビジネスを展開し、消えつつある文化を再生させることに取り組んでいる。岩本はお茶を使ってクラフトジンを作るなど、日本文化の価値を新たなかたちにして、世界へと発信している。朝谷は、美術品に着目している。幼少期を英国で過ごし、美術品の購入の難しさを感じた経験から、美術品のレンタルサブスクリプションサービスCurinaを開始した。4000以上の作品と300人以上のアーティストがサービスに参加し、レンタルから購入までを柔軟に対応している。職場でアート作品を展示することが、アメリカでは一般的になりつつあり、文化消費の需要が高まってきている。
三木は、海藻の文化とテクノロジーを活用し、健康食品や持続可能な素材を提供するビジネスを展開している。三木が代表を務める海藻のバイオテックのスタートアップ・Aqua Theonは、海藻を使った食べられるプラスチック素材や健康食品を開発し、国内外で人気を博している。特にアメリカ市場での成功を目指し、海藻を使ったキャンディーや飲料を発表している。
文化とビジネスを結びつけることは確かに難しい。しかし、グローバル市場だからこその活躍の道もあり、その展開に期待が集まっている。特に日本の伝統工芸品や文化資産を守りながら、新しい価値を創造することが重要である。三木は、カルチャービジネスを資本主義の概念で守っていくべきであり、海外と強い関係性を構築していく中で利益の還元が必要であると述べた。また、伝統産業にイノベーションを求めることが難しいのであれば、他の産業と連携し、人員を分けてコラボレーションすることも文化の育成に繋がると提言した。 双方のバランスを取ることは難しいが、次世代に価値を伝えるためには、コアバリューを定義し、伝承していくことが必要だと述べられる。例えば、今までフォーマルな形式で楽しまれていた緑茶や抹茶が、現代ではスターバックスでカジュアルに楽しめるようになった事例もある。伝統文化も時代に合わせて変化し続けることが求められる。
このセッションを受け、国内で消費されていた文化的産業を、グローバルな視点を持つことで、世界への市場へとビジネス化できるというかたちは、グローバル社会において非常に有益なモデルだと感じた。グローバルに侵食されず、日本の伝統文化、工芸を守るためにも、伝統それ自体の価値を発信するだけでなく、伝統を扱う外枠もアップデートをし続けていく必要があるだろう。そこにビジネスの機会がありそうだ。(取材、文:須賀 優海)
フィンランドがヨーロッパ有数のスタートアップとイノベーションのコミュニティである理由とは? ~エスポー市の事例と共に~
◯登壇者(敬称略): Sanna Öörni(Business Development Manager at VTT Technical Research Centre of Finland)× 中山 こずゑ(一般社団法人Future Center Alliance Japan 共同代表)× Petri Alava(Co-founder & CEO of Infintied Fiber Company)× Jaana Tuomi(CEO of Enter Espoo, Espoo, Finland)
このセッションでは、フィンランドがヨーロッパ有数のスタートアップとイノベーションのコミュニティである背景をエスポ―市を事例に取り上げる。
エスポ―市は首都ヘルシンキと隣接し、特許申請数に関してヨーロッパで第6位にランクインする。さらに、エスポ―市は過去に2年連続で「ヨーロッパで最も持続可能な都市」の1位を獲得、さらに2020年では「EU都市イノベーションアワード」にて準優勝と世界からエコシステムが評価されている。
エスポ―市が最先端のコミュニティをサポートする要因は主に2点ある。1点目がフィンランド大手電気通信メーカー「ノキア」の崩壊によるスタートアップ文化促進、2点目がコラボレーションである。
まず、1点目に関して、約10年前にエスポ―市に本社を置く「ノキア」が苦境に陥ったことで、学生が新たに起業を始めたことにより、エスポ―市におけるスタートアップ文化が促進されたと語られた。
2点目のコラボレーションとは、共通の目的や理念を持ち、急進的かつ学際的なコラボレーションを指す。エスポ―市におけるイノベーションは、企業(特にスタートアップ企業)、研究機関、大学などのステークホルダーと公共部門のコラボレーションによって実現されていると語られた。 さらに、フィンランドのスタートアップ文化を支えるコラボレーションにおいて特徴的な点が、政府による資金援助である。創業から間もない企業には、助成金、公的資金、そしてソフトローンが利用可能である。政府からの資金援助によって、スタートアップ企業によるイノベーションが可能になると語られた。
このセッションを受けて、大手電気通信メーカーの衰退というピンチを逆にスタートアップ文化の促進と捉えて、学生たちが起業した点が面白いと感じた。それを支援する研究機関や政府によって、フィンランドの一都市にスタートアップ、イノベーションの文化が育ち、ヨーロッパの中で独自に発展を遂げた例は、グローバルに世界中の都市に勇気を与えるだろう。(取材、文:伊藤 蛍)
ASEAN TechCrossroads:フィリピン・タイ・台湾での機会を切り開く
◯登壇者(敬称略):Oranuch Lerdsuwankij(CEO and Co-founder of Techsauce)× 足立幸太郎(TechShake Ptd. Ltd. 代表取締役)× Allen John Ku(Operations Director at Startup Island TAIWAN)× 嶋田敬一郎(Chief Business Officer / Innovative Space Carrier, Inc.)
このセッションのテーマは、「アジアの市場、テクノロジー、産業」。フィリピン、タイ、台湾の起業家を迎え、それぞれの国の産業の現状とその未来の可能性について語ってもらった。さらに、アジア諸国の強みを理解し、いかに産業を活かし合うことができるかについて議論が進んだ。
まずフィリピン、タイ、台湾での市場の強みや期待される産業について語られた。例えば、フィリピンでは、人口増加が著しく、平均年齢が25歳という若さから、人材の面で優れていると語られた。最近は、FinTechにも注目が集まっており、国内でさまざまな企業が競い合っている。タイでは、カルチャー、製造業、サプライチェーンなどに強みを持つ。なかでも、食文化が強く、フードテック領域に注目が集まっている。台湾では、研究開発が世界トップレベルであり、知財の保護に関して優れている。最近では、ヘルスケアの領域が発展しており、企業だけでなく、政策も注目されている。
国ごとに強みがあり、いかにコラボレーションしていくかが重要だという主張は一致する。フィリピンは英語を話せる人材が多いため、カスタマーサポート関連で強い。タイでは融資制度が優れていて、アジアのゲートウェイになれる面がある。台湾は、プロトタイプの作成が迅速で、スタートアップの支援が手厚い。ベトナムはエンジニアの人材が手に入りやすく、インドネシアは市場の規模が大きいなど強みが異なる。各国で独自のリソースがあるため、アジア諸国でのコラボレーション戦略が、成功への道だと語られた。
このセッションを受けて、アジアのなかでも、国ごとに特色があり、その特色をグローバルに平均化するのでなく、多様性として活かし合うことが、各国の協力の上で大切だと感じた。植民地的にグローバルビジネスを展開するのでなく、多様な文化をいかに活かすのかという視点がこれかの基盤になっていくだろう。(取材、文:杉浦 万丈)
「日本はアジアのWeb3ハブとなり得るのか?」
◯登壇者(敬称略):渡辺創太(Startale Labs CEO, Astar Network Founder)× 神本侑季(N.Avenue/CoinDesk JAPAN 代表取締役 CEO)× 牛田遼介(金融庁総合政策局フィンテック参事官室チーフフィンテックオフィサー)× Whiplus Wang(IVS Crypto運営責任者)
このセッションは、「日本のWeb3化」がテーマとなった。Web3の基幹インフラを開発する企業の代表、仮想通貨を軸にするメディア会社の代表、金融庁のフィンテックオフィサー、Web3カンファレンスの運営責任者をパネリストに迎え、議論が進められた。なかでも「Web3の法規制」がキータームとなり、ワールドワイドな視点から日本のWeb3化について有益な意見が飛び交った。
Web3の法規制に関して、人々が強く意識した事件の一つとして、顧客の多額の資金を不正流用したFTXの事件がある。仮想通貨の取引所が突然崩壊してしまうという信用に大きく関わる問題によって、多くの国々がWeb3に対して保守的になった。その状況下で、日本はWeb3の法規制を他の国よりも早く、かつ高い透明性を持ってルールづくりを行った。この2年、日本はWeb3の規制が非常に明確であると評価され、大企業やグローバルなビッグプレーヤーが日本のWeb3へ参入するようになり、日本はアジアのWeb3のハブとして注目され始めてきている。
確かに、イノベーションと法規制がぶつかる面は多々ある。起業家の動きは常に早く、政策が遅れてしまうという問題があるだろう。それに対し、金融庁は政府組織だが、他のグローバル企業との連携を計りながら、政策のブラッシュアップを欠かさない姿勢を示した。Web3の技術を悪用されず活用する、中立的なものにするために、政策と企業側の生産的なコミュニケーションが必要であると述べられた。アメリカに比べても、日本は両者の関係に障壁が少ないことからも、イノベーションとレギュレーションの生産的な協力によって、日本独自のWeb3化を進めて、世界へ発信できるようにしていく必要があると語られた。
このセッションを受けて、日本の透明性の高い法規制によってビッグプレーヤーが参入しやすくなったということが非常に重要なポイントだと感じた。法規制はイノベーションを阻害するものではなく、そのやり方に一つで逆にイノベーションを進めるものだとわかった。日本独自のイノベーションとレギュレーションの協力でアジアのWeb3のハブとなれば、日本ないしアジアがより盛り上がっていくと期待が高まった。 (取材、文:杉浦 万丈)
DeepTechの未来を解明:日本から世界への挑戦
◯登壇者(敬称略): 世古 圭(Director and COO at Kyoto Fusioneering)、馬田 隆明(東京大学 FoundX ディレクター)、新谷 美保子(TMI総合法律事務所パートナー弁護士/一般社団法人Space Port Japan設立理事)、
モデレーター:有馬 暁澄(Beyond Next Ventures株式会社 パートナー)
日本のDeepTechは既に高い技術力を持っていますが、それを最大限に活かすためには国際市場での競争力を強化する必要がある。そのためには技術だけでなく、事業戦略とスピード感が重要だという議論に。このスピード感は、単に技術開発だけでなく、規制やルール、消費者対応など、多岐にわたる分野で求められている。日本企業は規制の整備が遅れがちな傾向であり、法律を作るスピードによって遅れを取ることが市場での競争力低下に繋がるリスクが指摘された。
次に、法律と知財戦略の観点から日本のDeepTechが抱える課題について。知財と情報管理の戦略は世界拡大への鍵であり、技術がわかる弁理士を早期に見つけることが非常に重要だ。また、輸出規制の管理や国際規制の遵守がDeepTech企業にとって大きなハードルとなっている。
法律面からは、適切な規制戦略を早期に構築することが強調された。特に、グローバルに技術を展開するためのファイナンスのベストプラクティスが指摘され、弁護士との協力が重要であるとされた。
最後に、日本のDeepTechが次の10年でどのように進化するかについて。既に技術があるのに埋もれてしまっている場合も多く、特に大企業には、もっとスタートアップと連携して技術を外に出してほしいとの意見もあった。オープンイノベーションの重要性が強調され、国際市場で成功するために、英語での議事録や契約書の作成が不可欠であるという話題も。
このセッションを通じて、日本のDeepTechが持つ可能性とその実現に向けた具体的な課題が輪郭を帯びてきた。スピード感を持った行動、適切な知財戦略、グローバル視点での規制対応、スタートアップと大企業の連携など、多くの要素が必要とされている。日本の技術を世界に届けるために、これらのポイントを実現していくかが未来の鍵となるだろう。(取材、文:小澤 知夏)
おわりに
これらのトークセッションでは、グローバルなコラボレーションのために、さまざまな意見が交わされました。共通していたのは、国境・分野を超えたステークホルダーによるコラボレーションの促進のために、「各国の文化や強み」を活かすこと。すなわち、グローバルなコラボーションとは、国々をグローバル基準に合わせて平均化することでなく、その国独自の強みをグローバルに戦えるようにさらにアップデートすることだと学びを得ました。
そのために、国々は自国の文化や強みを再認識し、それを軸にして、企業、政府、政府機関、個人個人が協力していく必要があるのではないでしょうか。今セッションは、多岐にわたる視点からのグローバルな協力へのアプローチが提示される重要な機会となりました。
SusHi Tech Tokyo 2024Global StartupProgram
会期:5/15 (水)~5/16 (木) 10:00~18:00
会場:東京ビッグサイト西展示場1・2ホール
主催:SusHi Tech Tokyo 2024グローバルスタートアッププログラム実行委員会
編集:杉浦万丈